【大人】21年10月裁判官大人の時間

中学生のハローワーク10月のゲストは裁判官さん。このシリーズは、子どもたちだけでなく、大人にとっても毎回刺激的です。自分がいま生きている目の前の世界とパラレルワールドで展開している、それぞれのゲストの方たちの世界。来てくださる方の数だけ、そして参加してくださる方の数だけ、同じ時代にちょっとずつ違う世界があるようです。そのそれぞれの世界を知ることで、橋が架かって行くのでしょう。

裁判官さんと話す機会はめったいにないので、ここぞとばかり、いろんな事を聞いてみました。大人になりきれない(なってしまいたくない?)人たちの鋭い質問にも、穏やかに答えてくださいました。「答える」というよりは「応える」という感じで、わかりやすくお話しいただきました。

Q:裁判員制度ってどう思いますか?

裁判のことを知ってもらうためにも、意味のある制度だと思います。「ショックな画像を見せられてトラウマになる」と危惧される方もおられますが、私の立場としては、できるだけ受けていただきたいです。専門の知識がない人間が判断していいのかという疑問を持たれる方もありますが、普通の人の感覚って大事だと思うんです。日本のように、普通に文字の読み書きもできて、国民の教育水準が一定以上に保たれている状況なら、私は裁判員制度に賛成です。

Q:危険な仕事ではないですか?

確かに逆恨みされやすい面はありますが、なるべく個人が表に出ないように、裁判所が組織としていろんな形で守ってくれているのを感じます。むしろ、個人の事務所の弁護士さんの方が、矢面に立つことが多いので、危険も多いのではないでしょうか。

Q:ストレス耐性をつけ、気分を一定に保つには?

当然、気分で判決内容が変わることはないのですが、それでも精神的に疲れることはあります。そんな時は、普通の日常生活が役立っています。生活リズムを一定にすることは思った以上に大切な事です。自殺を考えてしまうような時も、よく寝てよく食べていたら、死ななくて済む人がもっと増えると思います。悩んで煮詰まっている時こそ、みなさんもよく寝てください。

あと、私個人としては、家に帰って家族の顔を見てご飯を食べて、子どもがバカなことをしてふざけていたりしているのを見ると、どんなに仕事がハードな時でも気持ちが和みます。独身の裁判官の人は切り替えが大変かもしれません。やろうと思えばいくらでも仕事はありますから。

Q:詳しくない分野の裁判をする時はイチから勉強するんですか? たとえば、建築に詳しくないのに支払い金額を決める、なんて時は?

自分でもある程度の勉強はしますが、大きな規模の裁判所ではいろんな分野について助言してくれる専門家が見つかることが多いです。私はわりと初期の段階で両方の当事者を呼んで説明してもらうことで、何が問題なのかを理解するようにしています。

Q:その社会に所属したくない人を、その社会の法で裁くことについて、どう思いますか? テロリストをアメリカの法で裁くとか、理不尽な校則に従わない子どもを校則で罰する、とかいうようなことにもつながっていきますが。

日本には思想の自由があるので、個人として何を考えてもいいし、他の人に迷惑をかけない限りは自由です。ただ、個人が何かのアクションを起こした時点で、その人は社会的な存在になり「何をしてもいい」というわけにはいかなくなります。法のもとの平等という観点からも、法に背くと罰せられることになります。一個人が社会的な存在ではない、ということは、生きていく上で成り立つでしょうか?

Q:被害者寄りの報道をどう思いますか? 容疑者をワルモノと決めつけてあおるような報道です。

報道機関での研修経験をしたことがありますが、報道機関は公的機関ではないので、視聴者や読者に配慮するのは、ある程度仕方ないことだと思います。ただ、裁判員制度の仕組みを通じて国民も裁判についての意識が高くなるでしょうし、立証責任や黙秘権などについても知っていきます。国民も「主観と証拠は別だ。ちゃんと区別しなきゃ」というような基本的なことがわかってくると思うので、長い目で見て報道が少しずつフラットなものになっていくことを期待しています。

…予定の時間が終わってからも、質問が途切れず、延長戦にもつれ込みました。裁判官さん、放課後タイムにまでおつきあいいただき、ひとつずつ誠実にお答えいただき、ありがとうございました。

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