見出し画像

アカガレイを推していきたい。という話。

そこらに売ってるアカガレイ。

諸氏は「アカガレイ」という魚を知っているだろうか。
カレイなんぞいちいち気にしとらんわ。みたいな人間でもおそらくは見たことはあると思う。
北にいけば行くほどカレイの種類と漁獲量は多くなり鮮魚店のみならず鮮魚コーナーのあるスーパーならどこでも見ることができる。
アカガレイも他のカレイ同様北で多く漁獲されてはいるのだが流通自体は全国どこでも普遍的にあり大きくても1000円を超える事は少ない割と庶民的な魚だ。

こんなやつ。

”急遽”この記事を書いており過去の写真で鱗もほぼ落ちているという参考にはなりづらいが大きさは50cm前後になり他のカレイ類に比べ赤茶けており口も大きく裂けており、裏側も血が滲んだような見た目をしており見る人によっては汚らしいとさえ思われるかもしれない。
ただ古くから愛されている魚であることも確かで秋から春にかけて卵を持った個体は煮付けや塩焼きとして珍重され加工された状態で惣菜コーナーで売られることも多い。

だが勧めたいのは「刺身」。

何故に”急遽”このアカガレイの記事を書くことにしたかというのはこの章で述べるが兎にも角にも「生で食べて非常に旨かった」からである。
「カレイの刺身なんて食べたことないよ」「でもアニサキスとか危険じゃない?」というカレイ生食未経験者から「カレイって血合いの色が薄くてどうもね…」「活け締めじゃないと値段つかないよ?」というお魚屋さんの意見もあるが
そんな言葉は一切通用しないような上物のアカガレイに出会った。

例のごとく「新潟ふるさと村」で物色をしていたところこの日はめぼしい物がなくメインを決めかねていたときに賭けとして40cm程の個体を購入した。
ただでさえ当たり外れの差が大きく卵をもった雌のカレイ。
身の食味に期待ができなかったのだが過去の経験から目利きをして良さそうなものを選んだ。
解体していくと卵をもっており案の定水っぽく「あぁやっぱりか」と思ったのだが皮を引くと包丁に白く脂肪がついた。
裏返し血合いをみると表面がテカテカとしており真鯛もかくやという程、鮮やかな鮮血の色をしていた。

一目でカレイと看破できたら凄い。

よく見ると茶色い組織があるためタイやスズキとは違うのが分かるがこのトロッとした皮下脂肪と平らな魚らしからぬ血合いの色がカレイという認識を阻害してくる。
うっ血しているわけでもないようでこの個体に関しては元からこんな感じのようだ。カレイやヒラメ類、勿論アカガレイも含めてこの類いの魚は活け締め野締め関わらず血合いの色が薄く黄色いような見た目をしている。
この点で一部の魚好きや寿司屋は生で扱うことに関して躊躇う人もいるようだ。
(ヒラメだって血合い薄いのによく使われるのはどういう理由なのだろうか?教えてエロい人!)
またカレイの刺身があまり馴染みがない理由として「臭み」「寄生虫」による食中毒」がある。
あるのだが今回のアカガレイは野締めであるにも関わらず臭みが全然無くカレイ類独特の皮目の匂いも大人しくむしろ好ましい範囲にとどまっており
解体してもどこにもアニサキスの類いは無く他の寄生虫も皆無であった。
まぁ尤も、アニサキスのリスクはカレイに留まらず海水魚なら魚種問わずあるので大袈裟に怖がる必要は無いしいたとしても排除さえしてしまえばアレルギーが無い限り別段恐ろしい存在では無い。

アカガレイの刺身、実食。

さてここまでこのアカガレイが他のカレイとは格が違うんだぞというところでいよいよ実食したいと思う。
食べる直前まで余計な水分を抜くため脱水シートに包んでおく。
一応、身の中にアニサキスがいると悪いので薄く削ぎ切って部位ごとにわけて皿に盛る。柚子の皮も削りおく。
真っ白な美味しそうな肝臓も出てきたので血抜きをして肝醤油を仕立てたる。

上:有眼側の肉。下:無眼即の肉。右:縁側。
血の気の無い綺麗な肝臓(のペースト)

一切れ食べてまず感じたことはパキパキに死後硬直しており舌の上で弾けるようにプリッと。且つ噛むとシコシコしており非常にカレイらしからぬ食感をしている。同じ白身ならスズキやボラの洗いに近いだろうか…?
断面もつるっと滑らかでクロカレイやアブラガレイのようにボソッとした感じでもない。
味はいうと先述のとおり脂がのりにのっていて舌の上にのせたときに軽〜く溶け出し噛めば噛むほどに今度は甘さがぐわぁ〜〜っと満ちるようにあふれ出てくる。
脂の質感は養殖のハタ類に近いのだがもう少しライトで粗野な感じがある。
身のうま味もあり咀嚼を重ねてゆっくりと味わうと日向の匂いような優しい風味が感じられコクもあるように思える。
こんな体型だからヒラメっぽい味かなとも思うのだがまったく別系統で面白い。

みんな大好き肝醤油。

肝臓はアンコウやカワハギに比べると甘みと脂質が弱いがその分スッキリとしており強すぎないからこそ、カレイの白身と違和感なく馴染み(本人?のものだから当然なのだが)肝のとろけるうま味が乗算され複雑かつ本能に訴えかけるような味わいとなったいる。
私自身はそこまでお酒飲まないのだが肝醤油と合いすぎて焼酎が馬鹿みたいすすみ若干二日酔い状態になった。
カレイが一匹だったから耐えられたけど二匹だったら耐えられなかった…!
そして特筆すべきは縁側だ。
その役割上旨味と脂肪分が身よりも蓄積される部位なのだがこの縁側は肝醤油を絡ませずとも…いや肝よりも明確に濃い脂があり甘い。
魚の旨み成分であるところのイノシン酸もあるのだがそれをも霞ませる。
一方で下品にギトギトしているわけでなくコリコリとした筋組織を潰すとサラッとした上品な味わいが舌と硬口蓋を覆っていく。

これはちょっと並のヒラメの縁側じゃ太刀打ちできないくらい旨いな…。

卵はホクッと塩焼きにした。

まとめ。

私は悲しい…!こんなにも絶品なカレイが未だに惣菜魚どまりの地位で甘んじていることが…!
いやまぁ当たり外れや鮮度落ち、アニサキスの事を考えれば致し方ないのだが
この旨さならヒラメやマダイそれくらいの同等な値段つけてもいいくらいだと思うが実際は殆どの市場で他のカレイ類と足並みそろえた価格帯だ。
様々な物価があがり給与があがらない現代日本ではありがたい存在ではあるが…。
裏返せばまだ大々的に注目されず安く仕入れられる美味な魚ということで誰でもこの魅力に触れられるということでもある。
それでいて今後の流通技術の進歩次第ではさらに上の立場に上り詰めることもあり得なくはないだろう。

お勧めはしないが今回の個体はやはりというべきか加熱用のもので、その中でも鮮度的に生食が問題なさそうなものを自分で選び取っている。
正直、見てて思うのはそこら辺のスーパーでも加熱用と書かれているが安価に出回っているが刺身になり得る鮮度のものも多く見かけられる(勿論丸物に限る)から鮮魚の扱いに理解が深くきちんとリスクを認識できる人なら生食を試してみても損は無いと思う。

しかし過去にも旨いカレイの刺身には出会っているがここまで脂を溜め込んだカレイってサメガレイ、アブラガレイみたいな別次元な種類を除くと初めてな気がする…。
生態を調べるとアカガレイも魚や甲殻類、多毛類の他にクモヒトデを食べているようだ。「も」上記のサメガレイもクモヒトデを食べておりこれまたたっぷりと脂肪を溜め込んでいる。
一見すると脂のあの字もないようなヒトデで「本当にこんなん食えるんか?」「食えたとしてこんなんで太れるのか?」と思ってしまう。
深海ってのは不思議だなぁ…。

何はともあれもっとカレイの生食って広く浸透しても良い気がするんだよなぁ…。

近影。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?