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vol.4 松田さんのこと

ラジオを聴くのが好きになったのは中学生の頃からだと思う。平日の夜は毎日欠かさずfmyokohamaの「The Ranking」という番組を聴いていた。最近も毎週必ず、とはいかないのだけれど、時々秀島史香さんがDJを務める「SHONAN by the Sea」を聴いている。

先週末にこの番組で募集されていたメッセージのテーマ「いま、会いたい人」と聞いて、ぱっと頭に浮かんだのが、松田さんだった。
会いたい人は何人も何人もいるのだけど、やっぱりこのタイミングだからこそかなぁ、と思う。

松田さんとの出会いは去年の秋のこと。私が第2子の出産の入院中に看護学生として実習に来ていた。たしか同じ看護専門学校から同じ日程で他にも2人実習生が来ていたのだけど、たまたま松田さんが私を担当してくれることになった。

私は1人目の出産の時も同じ病院で、慶應から来た看護学生さんの実習の受け入れを頼まれて、引き受けた経験があった。その時の印象としては、看護学生さんの受け入れは別に可もなく不可もなくて、こちらから是非、と頼みたいほどのものではないけれど、かと言って迷惑な要素もない、という感じだった。きっと学生さんは実際に現場で働く先輩看護師さんたちから学ぶことがほとんどだろうし、私の方からこれといって何か役に立つようなことは何もできないけど、「まぁ私で良ければどうぞ」というくらいに考えていた。

松田さんはそんな思いを見事に裏切ってくれる人だった。子どもの沐浴をしてくれたり、私の体調の確認(血圧測定、問診)に来てくれたり、授乳の様子を見に来たり、多分実習中に経験しなくてはいけない課題?と思われるものはもちろん丁寧に取り組んでいた。いま思い返してみると、1人目の時の看護学生さんとはその「課題を終える」ためだけの接点で、きっとそれが実習中の過ごし方としてはごくごく普通なんだろうと思う。

ただ、松田さんはこれといって何ということはなくてもふらっと病室に来てくれて、他愛もないことも含めて、ずいぶん色んな話をした。
看護師を目指そうと思った経緯、専門学校の先生のこと、就職のこと、国家試験の準備のこと、私の仕事のこと、妊娠中のこと、そしてお互いの家族のこと。実習で赤ちゃんと触れ合うことが、自分の赤ちゃんの時のことを家族と話すきっかけにもなったらしく、家で親から聞いた話、例えばきょうだいとのエピソードも聞かせてくれたりして、日に日にお互いのことをよく知るようになった。
中には、日中はほとんど松田さんがほぼ話し相手になってくれるような日もあったし、肩のマッサージをしてもらったこともあって、看護学生さんにそこまでしてもらっていいのか、という思いもありつつ、私にとってはとても楽しい時間だった。

実習は本来だったら、私の退院前日までで、ありがとうございました、私も明日で退院しますね、と言ってさよならするはずだったのだけど、私が無理を言って退院を1日早めてもらったので、結局退院の時に、松田さんに見送ってもらうことになった。
心ばかりでも何かしら御礼を、と思い立ち、何とかハロウィンのキャンディーポットを手に入れて、メモ書きのようなものだけど手紙を添えて、病棟を出るときに渡そうとした。ところが、その時一緒にいた専門学校の指導教官から、こういうものは受け取れないのだと丁重に断られてしまった。大したものじゃないので、こそっと…と言ってみたものの、会議にかけなきゃいけなくなるので、とのこと。
松田さんからも、気持ちだけでありがたいです、と言われ、結局何も渡せないまま、さよならをした。その時、手紙だけでもささっと渡さなかったことは後々になってずいぶん後悔した。連絡先も知らないし、唯一の可能性として思い立ったのは、専門学校に松田さんの名前で手紙を書くことだった。それも、退院してからさっさとやれば良かったものを、思いつくのも遅くて、3月上旬の卒業式ギリギリになって、ようやく手紙を出せた。

間に合ったのかどうか、間に合ったとしても先生たちが松田さんに取り次いでくれたのかどうかは分からない。実習のあと、松田さんがどうしてるかも分からないし、もしかしたら卒業が遅れる、とか国家試験が思うようにいかず、就職が先延ばしに、なんてことも万が一にでもあるかもしれない。だから、すごく悩んで、卒業おめでとうといった類の言葉は一切出さず、私が入院中にお世話になったことへの御礼と、退院の時に手紙だけでも渡さずにいたことの後悔と、コロナが蔓延するタイミングでの門出になることへの心配と、看護師という大変な仕事に向かっていくことへの尊敬を伝えた。

無事国家試験に合格して卒業して、いま医療現場に立っているのだとしたら、祝福を伝えたい一方で、本当に日々不安だろうと思う。横浜の病院ではずいぶん院内感染が起きているし、まさにその病院に勤めてたり、松田さんがコロナに感染してるかもしれない。もし、何らかの事情でいま病院では働いていないとしたら、こんなことを言うのは不謹慎なようだけれど、それはそれでラッキーなのでは、とも思う。

今、元気なのか、どうしてるのか、知りようもないのだけど、だからこそ、また会いたいな、いま、会いたいな、と強く思うのだと思う。

もし万が一の可能性でも、松田さんがこのnoteにたどり着くことがあったら、おかげさまで、私も、子どもたちも元気にしてます、と伝えたい。

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