見出し画像

大物投資家、レイ・ダリオが語る国家破綻の前兆?米国債務危機と歴史が示す未来

近年、世界経済は、「ビッグ・デット・サイクル(the big debt cycle)」と呼ばれる長期的債務膨張の局面に差しかかっている。これは世界的に著名な投資家であり『The Changing World Order(邦題:世界秩序の変化に対処するための原則 なぜ国家は興亡するのか)』や新著『How Countries Go Broke(邦題:国が破産するとき)』を著したRay氏が、長年のグローバルマクロ分析の末に提示した概念だ。彼はかつて世界最大級のヘッジファンド「Bridgewater」を率い、歴史的データ(historic data)を徹底的に検証することで各国の経済・金融サイクルを比較研究してきた。その知見によれば、私たちは今、短期的な景気循環(short-term debt cycle)が重なり合い、長期的な債務問題が深刻化する局面——すなわち「長期債務サイクル(long-term debt cycle)」の終盤に差しかかっているという。


ビッグ・デット・サイクルと現在の米国財政


アメリカ(US)の「財政状況(fiscal situation)」は、すでに深刻な兆候を示している。連邦政府(federal government)の債務残高(government debt)は、36兆ドルを超え、GDPとの対比(debt to GDP)では125%前後と過去に類を見ない水準にまで高まっている。これに対して、米議会予算局(Congressional Budget Office, CBO)は、今後も財政赤字(deficit)が拡大し続け、年間の赤字額がGDP比で6%を超える年が2035年頃まで持続すると予測。中でも毎年1兆ドル以上もの利払い(interest payments)がすでに発生している点は、まさに債務危機(debt crisis)の予兆ともいえる。

米連邦準備制度(Federal Reserve, 通称Fed)は、インフレ(inflation)抑制のため急激に利上げ(interest rate)を行い、借り入れコストが上昇。さらに近年では、金利を再度引き下げようとしても市場が米国債(treasury bonds)を売り浴びせるという局面が続き、長期金利が急上昇している。国債を抱える投資家は、新規供給(supply and demand)のバランスが崩れた瞬間に売りに走るリスクを常に孕んでおり、「モネタイズ(monetize)」による通貨価値の希薄化(devaluation)に備えようとする動きが強まる。この構造がもたらす可能性の一つが「ハイパーインフレーション(hyperinflation)」や「ソブリン・デフォルト(sovereign default)」のリスクである。

「サウンドマネー」としてのゴールドとBitcoin


こうした状況下、中央銀行(central bank)やソブリン・ウェルス・ファンド(sovereign wealth funds)が積極的に買い増しているのがゴールド(gold)だ。歴史上、金は「サウンドマネー(sound money)」として貨幣の信認が揺らいだ時に選択される代表的なヘッジ(hedge)資産である。また、Bitcoinなどの暗号資産も同様に注目されている。Ray氏自身も「金ほどではないがBitcoinも保有している」と公言しているように、ドルなどの法定通貨(fiat currency)が長期的に見て購買力(purchasing power)を維持できないリスクへの対策として、デジタル資産を含めた多様なポートフォリオ構築が検討されている。

「AI War」に代表される地政学リスク


一方、世界は「AI War」とも呼ばれる技術覇権競争のただ中にある。とりわけ米中対立(war, China)の中で、半導体やロボティクス、さらにAI関連企業への大規模投資が安全保障と直結する時代となった。AI技術を制する国が軍事的にも優位に立つとの認識から、利益や収益性よりも「国際的なパワーバランス」を動機として国家予算が割かれる可能性が高い。これはつまり、巨額の財政支出(fiscal policy)をさらに押し上げ、ビッグ・デット・サイクルを加速しかねない構造だ。

内部対立と「内戦(civil war)の危機」への懸念


Ray氏は著書『The Changing World Order』で、経済的混乱と富の格差が政治的分断を生み、やがて内戦(civil war)や社会不安につながる歴史パターンを示した。政府支出が削れない中で増税(taxation)を余儀なくされれば、既存の所得階層との対立を一段と悪化させるかもしれない。さらに、AIやオートメーションの進展で多くの職が奪われれば、政府による追加の財政刺激(stimulus)が投入されることも考えられ、ますます「悪いインフレ」や市場崩壊(market meltdown)を招きうる。

短期と長期のサイクルをどう乗り越えるか


Ray氏が提唱する「短期債務サイクル(short-term debt cycle)」は、およそ6年前後で景気が上下する循環を指す。一方、「長期債務サイクル(long-term debt cycle)」は、80年程度かけて蓄積した巨額の債務が、最終的にデフォルトや通貨価値の下落として表面化するプロセスを言う。もしこのプロセスが制御不能に陥れば、国債や通貨を保有する投資家は大幅な損失に直面し、信用(credit)そのものが機能不全に陥るリスクが高い。

しかし、Ray氏は「美しいデレバレッジ(美しい債務整理)」の可能性も強調する。要は、緩やかな緊縮(austerity)や税制改革、適切な金利調整をバランスよく組み合わせることで、急激な債務縮小がもたらすショックを和らげられるという見通しだ。早めに「3%の財政赤字」をめざすなど、具体的な数値目標を掲げて計画的に政府支出と税制のバランスを組み直すことで、長期的な安定を図るというわけである。

いま求められる行動


  • 財政赤字の削減: GDP比7%前後に達している年間赤字(annual deficit)を3%程度に抑えること。

  • 金融政策(monetary policy)と金利の連動: Treasury(国債)を安定的に消化できるよう、市場の信認を高める緊縮策と金利政策を総合的に運用する。

  • 構造改革と生産性(productivity)の向上: AIなどの新技術がもたらす経済成長を活かし、中長期の国家財政を改善する方策を早期に整備。

  • 多角的ポートフォリオの確保: 通貨や国債に偏らず、金やBitcoin、あるいは生産性を高める企業への投資でリスク分散を図る。

「ビッグ・デット・サイクル」は、人類史上たびたび繰り返され、多くの通貨や国家が破綻の道を辿ってきた。アメリカのように基軸通貨(reserve currency)を持つ大国であっても、過度の債務(national debt)拡大や金利の高止まりが進めば、やがては歴史に名だたるハイパーインフレやソブリン・デフォルトの道をたどるかもしれない。Ray氏の警鐘が示すように、いま必要なのは現実に即した迅速かつ合理的な行動だ。内外の政治対立を先延ばしにするのではなく、痛みを伴うが持続可能な財政再建と金融調整をいかに実施するか。そこにこそ「世界秩序(world order)」の未来がかかっていると言えるだろう。

そして、「AI War」の只中にある地政学の変化は、単に利害や利益以上に、国としての生存戦略そのものを賭けた闘いでもある。軍事やテクノロジーでの優位を確保するために国防費が膨れ上がる一方、その資金は結局は国債の発行や中央銀行によるマネタリーベース(monetary base)の拡大で“モネタイズ”されかねない。もしそれを放置すれば、悪性の通貨安とインフレの連鎖へ転落するリスクは高まるばかりだ。

「崩壊の瀬戸際」にあると悲観するだけではなく、Ray氏が提案するような具体策に学び、歴史を俯瞰しながら冷静にリスクヘッジを行うことが肝要だ。壮大なサイクルの転換期だからこそ、より多くの人々が財政・金融のメカニズムを理解し、「次の世界秩序をどう築くか」を主体的に考えていく必要があるのではないだろうか。

いいなと思ったら応援しよう!