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奈緒ちゃん、大好き

 NHKのテレビドラマ『団地のふたり』を見ている。キョンキョンはアイドル時分にコンサートへ行ったが、貫禄ついたなぁ、笑
 小林聡美と彼女がツインで主人公を務めるが、小林聡美の方がややリード、かな。女性の原作・脚本であり、「おひとりさま」の日常生活がよくわかる。
 二人の語りにこんな感じの会話があった。「昔は公園で子どもたちがワイワイ遊んでたよねー、うるさいぐらいだったねー」「それがいまや誰もいなくなっちゃったよねー」

 それで思い出したのが、ドキュメンタリー映画『奈緒ちゃん』(伊勢真一監督、1995年)の自宅の真ん前にある公園だ。
 奈緒ちゃんというのは、西村奈緒さん、現在51才。難治性てんかんと知的障害がある。最近、『奈緒ちゃん』シリーズの総集編のごとき、映画『大好き~奈緒ちゃんとお母さんの50年~』も封切られた。
 その副題のとおり、一連の映画の主人公は、奈緒ちゃんとそのお母さん・西村信子さんだ。ただ、お母さんも80才を過ぎて心臓手術をされ、奈緒ちゃんの叔父である監督もがんを患っていて、そろそろ総集編のようにせざるを得ない状況だとのこと。

 しかし。映画『大好き』上映館、十三のシアターセブンは満員でもたいした席数ではないのだが、日曜日にもかかわらず、お客さんがたったの10人!なんてこった!

 それは仕方ないとして。奈緒ちゃんちは、ここなら遊んでいて家から見えるし危なくない、との考えから、戸建住宅に囲まれた小さな公園のあるまちへ、ずいぶん前に引っ越してきた。
 なんの変哲もない普通の公園だが、さすがに何十年も経つと桜の木は大きくなり、見応えのある花見ができるようになっていた。
 だが、いまは誰も遊んでいない。閑散としている。なんだかもったいない。そのシーンが『団地のふたり』のせりふを聞いて思い出された。

 奈緒ちゃんは、独特の表現をする。
 「いま何時?」「どう?」「そりゃいいよね」「友だちは、やさしくなあに、って言えなくちゃ」「人生まだまだ」…。嘘をつかない、飾らない、プライドもない。天真爛漫で、どこか突き抜けた感じがある。

 先日、知人と話していて、優生保護法の最高裁判決の話題になった。1996年まで存在したこの法律。やっと今頃になって違憲判決か…、と思うと同時に、国の賠償も大事だが、実際に携わった医師や親の行為は問われなくてよいのか、という話になった。
 青い芝の会などは早くから批判しているが、今回の判決の報道には、優生思想を自分たちの問題として反省する部分が少なかった。そして、不妊手術は救済対象だが、妊娠中絶は対象外である。これをどう考えるか(追記:その後、中絶についても補償を検討中とのこと)。
 今は、着床前診断もあれば、出生前診断として羊水検査などもある。映画の中で、お母さんが「奈緒ちゃんは羊水検査なんかができる前に生まれてきてよかったね」と言っている。

 監督は、相模原のやまゆり園での事件がショックで映画をまた撮った、という。お母さんも映画で言っている。あれは犯人だけが悪いんじゃない、と。みんながそういう考えを許してきた、この社会が問題なのだ。
 同性愛者を生産性がないと言った国会議員もいるな。あの人は恥をかいたまま国会に居座り続ける。そういう公人が増えるのは本当に困る。

 よくみんな、障害児をもつと親が育てられるという。言うのは簡単だが、その中身を十分に説明するのはたいへんだ。もちろん効率性や合理性だけでは説明しきれない。インクルーシブ教育が周囲へ与える成果についてエビデンスを示せ、などという愚問を発する輩にはわかるはずもない。

 映画『大好き』は、あまりまとまりよくはなかった。監督と被写体が家族関係にあると客観的に見られず、映画関係者間で必要な対峙やせめぎ合い、もっと簡単に言えば批判精神が湧いてこないから、どうしてもつくりが甘くなる。
 ドキュメンタリーだから過剰な演出や脚色はできないのだが、それにしても、リタイア後のお父さんが家庭内で涼しい顔をしているのは、男性の私が見てもイラッとする。ゴルフの練習ばっかりせんと、少しは福祉にでも関わったらどうか、と感じる。それをほのぼのと映し出す監督にも…。

 私は『奈緒ちゃん』封切の頃から、ご本人のファンでもあるが、お母さんの方にもっとあこがれを感じる。専業主婦業が全盛期の70年代に、障害のある子を育てるだけでもたいへんなのに、さらに作業所やグループホームを立ち上げ、元はピアノ教師だったというお母さんは、並の人間とは思えない。
 そして、今作がよかったのは、障害のある姉をもつ弟さんにもスポットを当てたことだ。幼少時から姉を見守り、護衛でもあった弟さんは、障害者福祉にも関わるが、中年にさしかかって失業、うつ発症、しかし今は元気にがんばっているとのこと。

 音楽は、作曲がロケット・マツで作詞が知久寿焼。えっ、知久寿焼!? 「たま」にいたこの人の作品、『さよなら人類』のアルバムは傑作だったと思うのだけど。最近、NHKにも出てたかな? でも、久しぶりに名前を見た。なにかと感慨深い「総集編」であった。