キッチンバサミ
僕は世界を乗っ取らんとする敵と戦う傭兵の一員だった。
詰所のような待機所の隅に座っていた僕と共に、多くの傭兵達が待機していた。
そのうち、ジリジリジリジリ!!とけたたましいベルのような音が鳴り響いた。
敵のアジトへの突撃の合図だ。
勇んで「突撃だ!!」叫び、と立ち上がった。
怖さや、怯えなど全くない。あるのは勝利への執念だけだ。
ふと、辺りを見渡すと、他の傭兵たちは、剣や鎧を身に纏うという完全武装をしていた事に気が付いた。
僕は、普通の私服。まさに丸腰。
流石にこれでは負けてしまう。
これはマズイ…とパニックになり、先ほどの勇んでいた勝利への執念は薄れ、身の危険と戦いながらも、足は敵のアジトへ向かっていた。
何か武器はないのか、武器さえあれば…そう考えながら、敵のアジトへ向かうその道すがら、キッチンバサミが落ちているのを見つけた。
僕すぐさまそれを拾った。
そして
僕は、キッチンバサミを装備した!
「これで勝てる…ゼ!」
そう確信めいた言葉を吐き捨てたところで、目が覚めた。
今まで46年間生きてきて、これほど夢の続きを見たいと思った事はない。
キッチンバサミというのは、攻撃に特化したものではない。
料理をより効率的に行う手段に使うものだ。
文字通り、夢の続きを見ることは叶わぬ夢だ。
結果、敵に勝たず、便利が勝った、という無理矢理な感じでこの話は終わる。