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書籍『Humankind 希望の歴史 人類が善き未来をつくるための18章』 上巻

ルトガー・ブレグマン (著) 野中 香方子 (翻訳)
出版社 文藝春秋‏
発売日 2021/7/27
単行本 
272ページ




目次

序章
 第二次大戦下、人々はどう行動したか

第1章 あたらしい現実主義
 1 「ほとんどの人は、本質的にかなり善良だ」
 2 プラセボ効果とノセボ効果
 3 西洋思想を貫く暗い人間観 ー なぜ人間を悪者と考えるのか
 4 人間の善性を擁護する人に起きる3つのこと

第2章 本当の「蠅の王」
 1 少年たちの残虐さを描きノーベル文学賞に
 2 実際に無人島に取り残された少年たちを探して
 3 少年たちを助けた船長の証言
 4 火を打ち、鶏舎、菜園、ジムもつくった
 5 物語が持つ危険な側面

Part1 自然の状態ーホッブスの性悪説vsルソーの性善説

第3章 ホモ・パピーの台頭
 
1 ダーウィン進化論、ドーキンスの利己的な遺伝子
 2 ネアンデルタール人が絶滅した理由
 3 キツネから犬をつくり出せるか
 4 賢いキツネが欲しいのなら
 5 ホモ・サピエンスが生き残ったのはなぜか

第4章 マーシャル大佐と銃を撃たない兵士たち
 1 「愛情ホルモン」オキシトシンの影響は限定的
 2 人類の祖先は、常習的な殺人者だったか
 3 「誰もが誰かを打ち損なった」
 4 ベストセラー本には書かれていない「科学の真実」

第5章 文明の呪い
 1 いつから人類は戦争を始めたのか
 2 支配者無しでも神殿や都市が築かれた
 3 定住、私有財産、戦争、権力、リーダー
 4 農耕文明は休みを奪い、女性に重い負担を課した
 5 最初に生まれた国家は、奴隷国家
 6 長い間、文明は災いだった

第6章 イースター島の謎
 1 巨大なモアイ像をいかにして立てたのか
 2 「絶滅する未来」という教訓
 3 ジャレド・ダイヤモンドの誤り
 4 災厄をもたらしたのはヨーロッパ人だった
 5 奴隷証人とウイルスに滅ぼされた

Part2 アウシュビッツ以降

第7章 「スタンフォード監獄実験」は本当か
 1 スタンフォードの地下室にて
 2 子どもを対立させたい実験者
 3 「あの人たちは、子どものことを完全に誤解している」
 4 操作されていた看守役たち
 5 BBCが再現実験を行うも

第8章 「ミルグラムの電気ショック実験」は本当か
 1 「65パーセントが感電死レベルの電圧を与えた」
 2 「映像監督」ミルグラム
 3 それでもスイッチを押し続けた人をどう説明するか
 4 アイヒマン「悪の陳腐さ」は本当か
 5 ナチスからユダヤ人を守ったデンマークの奇跡

 第9章 キティの死
 1 「殺人を目撃した37人は警察を呼ばなかった」
 2 傍観者効果
 3 アムステルダムの運河で起きた救出劇
 4 90パーセントの確率で、人は人を助ける
 5 ジャーナリズムによる歪曲

ソースノート
 



内容紹介

 「わたしの人間観を、一新してくれた本」--ユヴァル・ノア・ハラリ(『サピエンス全史』)著者推薦! 

「希望に満ちた性善説の決定版!」--斎藤幸平(『人新世の「資本論」』)著者推薦!

「邦訳が待ちきれない!2020年ベスト10洋書」WIRED日本版選出!

本国オランダでは発売忽ち25万部突破、世界46カ国ベストセラー!

近現代の社会思想は、”性悪説”で動いてきた。

・ホッブズいわく「万人の万人に対する闘争」
・アダム・スミスによると、人は損得勘定で動くホモエコノミクス
・ダーウィンが唱えた、自然淘汰説
・ドーキンスは『利己的な遺伝子』を執筆
・少年たちのいじめ本性を描いた『蠅の王』がノーベル文学賞

また”性悪説”を裏付けるような心理学実験や人類学の調査がなされてきた。

・スタンフォード監獄実験(人は役割で容易に悪人になれる)
・ミルグラムの電気ショック実験(ナチス「凡庸な悪」の説明根拠に)
・イースター島絶滅の謎(内戦が理由とされ人肉食説すら唱えられた)

だが、これらは本当か。著者は、”暗い人間観”を裏付ける定説の真偽を確かめるべく
世界中を飛び回り、関係者に話を聞き、エビデンスを集めたところ意外な結果に辿り着く。

なぜ人類は生き残れたのか。民主主義や資本主義や人間性の限界を踏まえ、
いかに社会設計すべきか、どう生き延びてゆくべきかが書かれた「希望の書」。

公式 より



レビュー

 「目次」はネット上に記載してあるサイトが無かったため、全て手打ちにて記しました。
 この「目次」を読んでいただけますと、上巻の内容と流れが一目でわかるようになっています。

 「楽観主義者による、信頼できるエビデンスに基づく、人間賛歌」な本作は、若干強引な部分もありますけれども、読み心地も読後感も良い、元気をもらえる一冊ゆえ、おすすめです。

 数年前、本書を推薦しているユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史 上下巻』を読み、「一理はあるけど悲観的過ぎるし、ニヒリズムに陥ってなぁい?」と感じました(ハラリは外見からしてネクラだとわかるし、コロナのプランデミック時の発言等も怪しさ満載でしたゆえ、世界的に有名な論客の一人ですけれども個人的にはあまり信頼しておりません)。
 それに対し本書のルトガー・ブレグマンは、人に勇気と笑顔を齎すタイプのネアカな人で、以下 ⇩ の人気「悲観的思想」ないし人気「悲観著作」等を例に出し、鋭い分析と事実を用いながらその暗部を浮かび上がらせてバッサバッサと斬りまくってゆき、暗い思考に支配された世界感にどんどん光を齎してゆきます。

・ギュスターヴ・ル・ボンの『群集心理』 
・ホッブズいわく「万人の万人に対する闘争」
・アダム・スミスの、人は損得勘定で動くホモエコノミクス発言
・ダーウィンが唱えた、自然淘汰説
・ドーキンス『利己的な遺伝子』
・少年たちの苛烈ないじめ本性を描いた『蠅の王』
・TVや新聞の偏りのあるニュース
・スタンフォード監獄実験(人は役割により容易に悪人になる)
・ミルグラムの電気ショック実験(ナチス「凡庸な悪」の説明根拠に)
・イースター島絶滅の謎(内戦が理由で滅亡したとされ人肉食説まで登場)

 ちなみにブレグマンは第1章冒頭より「ほとんどの人は、本質的にかなり善良だ」という言葉から論を開始します。
 
 そしてまずは「テレビ」や「新聞」の「ニュース」に関して

 この分野の研究は、1970年代にメディアの研究者、ジョージ・ガーブナー(1919~2005)が始めた。彼は自らが発見した現象を説明する言葉を作った。「ミーン・ワールド・シンドローム」である。それは、マスメディアの暴力的なコンテンツに繰り返しさらされたせいで、世界を実際より危険だと信じてしまうことだ。症状は、冷笑的シニカルな考え方、人間不信、悲観的な見方である。結果として、ニュースを追う人は、「ほとんどの人は自分のことしか考えない」といった意見に同意しやすい。
 また、個人としての人間は無力で、世界をより良くすることはできない、と考えがちだ。さらに、ストレスが強く、落ち込むことも多い。
 数年前、ある調査で30か国の人に簡単な質問をした。「全体的に見て、世界は良くなっているか、悪くなっているか、良くも悪くもなっていないか?」という質問だ。ロシアからカナダ、メキシコ、ハンガリーに至るまで、どの国でも圧倒的多数が、世界は悪くなっていると答えた。現実は正反対だ。過去数十年の間に、極度の貧困、戦争の犠牲者、小児死亡率、犯罪、飢饉、児童労働、自然災害による死、飛行機墜落事故はすべて、急激に減少した。わたしたちはかつてないほど豊かで、安全で、健全な時代に生きている。
 では、なぜわたしたちはそのことに気づかないのだろう。答えは簡単だ。ニュースになるのは例外的な出来事ばかりだからだ。テロ攻撃であれ、暴動や災害であれ、例外的であればあるほどニュースとしての価値は高まる。極度の貧困の中で暮らす人の数が前日より13万7千人減少したという見出しをあなたが見ることは決してないだろう。たとえそれが過去25年間の真実であったとしても。また、レポーターが街路に立ち、「ここは特別な場所ではありませんが、ここでは今日も戦争は起きていません」と報じるのを見ることも無いだろう。
(中略)
 別の研究では、メディア研究のチームが、移民、犯罪、テロに関する400万超の新聞記事を含むデータベースを調べて、「移民や暴力の数が減ると、それらに関する記事が増える」というパターンを見つけた。「したがってニュースと現実との間に相関はなく、むしろ負の相関があるようだ」と彼らは結論づけた。

 もちろん、わたしの言う「ニュース」は、全てのジャーナリズムを指しているわけではない。多くのジャーナリズムは、わたしたちが世界をより理解するのを助ける。わたしが「ニュース」と呼ぶのは、偶発的でセンセーショナルな事件を報じる、最も一般的なジャーナリズムだ。

と記します。
 ※この後、さらに「ニュース」に関する鋭い指摘は続いてゆきます

 とにかく「人間に対する否定的な見方や考え方」の「おかしな点」を指摘し、その後に必ず信頼のおける科学、統計、フィールド調査等から「肯定的」且つ「明るい情報(事実)」をズバズバ紹介してゆくことにより、読者に「人間に対する肯定的な見方や考え方」に関する知見をモリモリ提供してゆくのです。
 当然ながらその過程において、正統派キリスト教に端を発する「原罪」的な思想とも熱い戦いを繰り広げることとなりますけれども、その各分野の代表的な「原罪的な思想」=「人間に対する否定的な見方」をことごとく論破し、颯爽と「人間賛歌」を展開してゆく様は、心地よい風のように読者を癒し、鼓舞し続けます。

 猛プッシュにて、誰にでもおすすめさせていただきたい書籍です。
 本当は有料の書籍紹介記事にてご紹介しようと思っていたのですけれども色々思うところがあり、無料記事にてレビューすることにしました。
 


 ※ ⇩ 「下巻」レビューへのリンク


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