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書籍『土を育てる 自然をよみがえらせる土壌革命』

ゲイブ・ブラウン (著), 服部 雄一郎 (翻訳)
出版社
NHK出版‏
発売日 2022/5/30
単行本 ‏ 288ページ



目次

日本版に寄せて
はじめに
 
・いちばんの師

第1部 道のはじまり

第1章 絶望からの出発
・農家になる
・不耕起に切り替える
・破壊的な数年間
・❝見方を変える❞
 column「ホリスティックな土地管理」

第2章 自然がよみがえる
・生態系の再生
・牧草地の管理
・負債からついに抜け出す
・菌根についてさらに学ぶ
・カバークロップ・ブレンド
・「高密度放牧」の威力
column「ロールベール放牧」

第3章 リジェネラティブの気づき
・炭素が果たす重大な役割
column「根圏とは」
・❝命のブレンド❞
・多様性を突き詰める
・❝カオスの園❞

第4章 牛が牛でいられるように
・輪換放牧のシステム
・効果の検証

第5章 次世代に引き継ぐ
・わが家の将来計画
column「限りなく長期の計画」
・家畜の種類を増やす
・卵の生産量を増やす
・すべての牧場は羊を飼うべし
・ブタにとってもパラダイス
・若い世代を育てる

第6章 ブランドをつくり出す
・直接販売の準備
・お客様はいつも正しい


第2部 理想の「土」を育てる

第7章 土の健康の5原則
第1の原則 土をかき乱さない
・第2の原則 土を覆う
・第3の原則 多様性を高める
・第4の原則 土のなかに「生きた根」を保つ
・第5の原則 動物を組み込む

第8章 カバークロップの偉大な力
・カバークロップによる炭素循環
・目的は何か?
・ブレンドの比率を決める
・水問題への対処
column「よりよい害虫駆除の方法」
・栄養不足への対処
・作付けの計画をつくる
・除草剤と科学肥料
・新しい土壌分析
・「牧場栽培」への道

第9章 土さえあればうまくいく
・大工からリジェネラティブ農業へーダリン・ウィリアムズ
・消防士からの転身ーラッセル・ヘンドリック
・兄弟を説得ージャック・スタール
・父子の再出発ージョナサン・コッブ
・祖父の農場を再生ーブライアン・ダウニング
・夫婦での挑戦ーデレク・アクステン
・乾燥地域の父子の取り組みージョー&ライアン・ブルースキー
・切り開いた道ーゲイル・フラー

第10章 収量よりも収益を
・自然に反する農業
・補助金の問題
・根本的な問題に目を向ける
・見るべきは面積あたりの収益

おわりに 
・行動を起こす

謝辞
訳者あとがき
参考資料


内容紹介

 有効な温暖化対策「カーボン・ファーミング」としていま脚光を浴びるリジェネラティブ(環境再生型)農業。その第一人者による初のノンフィクション。
 4年続いた凶作の苦難を乗り越え、著者が自然から学んだ「土の健康の5原則」。そこには、生態系の回復や カーボン・ファーミングのエッセンスが凝縮されている。地中の生態系のはたらきを阻害さえしなければ、あらゆる土が真に「生きた土」に変わる。さらに、やせた土地の回復は、農業の衰退、食料危機、環境破壊、気候変動問題などの対策にもつながるのだ。
 21世紀のさまざまな課題解決の糸口となり、自然への見方が変わる、野心的な〈土壌のバイブル〉!

公式サイトより



レビュー

 「土」があり「土の健康の6原則」を実行すれば、リジェネラティブ農業は必ずうまくいく。
 
と、著者のゲイブ・ブラウン(以下:ゲイブ)は言います。
 アメリカのノースダコタ州にある彼の農場は2400万平米。しかし6つの原則には土地の広さは関係ないとのことで、ゆえに彼の農場の見学者にはまず最初に「家庭菜園」を見せるとのこと。それは小さな土地のなかに「土の6原則」が全てそろっているから。
 で、「リジェネラティブ農業」「土の健康の6原則」とはどのようなものなのかと言いますと

●リジェネラティブ農業

 健全な土壌をつくり、自然環境の再生を目指す農業のこと。「環境再生型農業」とも

●「土の健康の6原則」
2018年の本書アメリカ刊行後に「土の5原則」に❝第6原則❞を追加し「土の6原則」としたとのこと。ですので本レビューにおいては「土の6原則」と記しますけれども、本書内では「土の5原則」目までを詳細に解説する構成となっております。
 また以下の「第6の原則」の説明は、本書の「日本版に寄せて」を読み、STARLETが勝手に追加したものです。

第1の原則 土をかき乱さない
土を機械的、化学的、物理的になるべくかき乱さない。
耕すと土壌の構造が壊れてしまう。

第2の原則 土を覆う
土はつねに覆う。風や水による流出から守られ、また土壌生物のエサと棲み処にもなる。

第3の原則 多様性を高める
植物も動物も多様性を確保する。多様性があることで生態系の機能は強化される。

第4の原則 土のなかに「生きた根」を保つ
生きた根は土壌微生物のエサのもととなる炭素を供給し、土壌微生物は植物のエサとなる養分の循環をつくり出す。

第5の原則 動物を組み込む
動物が植物を食べることで植物が刺激され、土により多くの炭素が送り込まれる。

第6の原則 土地の環境に沿った作物を栽培する
土地の気象条件を考慮し栽培する作物の種類や家畜を選択し❝その土地の自然(環境)に沿った❞やり方を学び、実行する。

本書「はじめに」より ※「はじめに」ではより詳しく説明されております 

 という感じです。

 ゲイブは「化学肥料」「農薬」「除草剤」「殺菌剤」を駆使して行う工業型農業について大学等にて学び、「それ以外の方法など知らなかった」ため、義父母から土地を引きついだのち最初の数年間は「耕起」「化学肥料」「除草剤」ガッツリありきの慣行栽培にて穀類を育てていたとのことですけれども、牧畜が楽しかったため牧草を得るために~という流れでまずは「不耕起」へと切り替えます。で、1年目は上手くいったのですけれども2年目から自然災害により4年間の地獄を見ることとなります(借金「地獄」付き)。
 しかしこの間にゲイブは書籍を読み漁り知識を増やしつつ、新たな土地も上手に購入し、お金が無かったことにより認識を持たないままに、初の「冬季放牧」を経験するなどして、後から思えばその地獄の4年間があったからこそ「常識の枠を外して考えざるを得なくなり、失敗を恐れず、自然に寄り添って仕事をする方向に進んでいけた」と回想するほどの経験をします。そしてその4年間こそが、ゲイブをリジェネラティブ農業への道へといざないます。

 「殆ど何もできなかった地獄の4年間」がなぜ大切だったのかは、是非本書を読んでみていただきたいのですけれども、面白過ぎます。
 その後数年にて経営を黒字化したゲイブはしかし、そこで満足することなく学び続け、考え続け、そして挑戦し続けます。
 本書はメイン部分が約260頁なのですけれども、内容が濃く、きちんと数字を出して論理的に説明してくれるためわかり易く、加えてゲイブがめちゃくちゃポジティブな人であることから読んでいて元気がモリモリ湧いてきます。さらには紹介されている引用の数々がとても良いというオマケ付き。
 
 ちなみにゲイブは肉をバンバン食べるし売りまくりますから、そういった部分では自分とは考え方が全く違いますけれども、見つめている先と目指している場所が似たような方角であるため、全く気になりませんでした。
 ただしひとつだけ「ん~」となったのは、ゲイブが(たぶんかなり強めの)除草剤を数年に1度の割合で使用していることです。5年間使用せずに乗り切ったこともあるそうですけれども、通常は2~3年に一度使用するとのこと。ですけれども農場の広さと働いている人数とを考えると、私は何も言えません。大規模農場にて除草剤を全く使用せずに済む何か良い方法はあるのかもしれませんけれども、それは現在まだわかっていない事ですから(もしかするとわかっている人もいるのかもしれませんけれども)、これから皆で考えてゆく必要があると思います。
 最も大切なのは「出来る限り自然の法則に適った方法を選択する」ということですけれども、ゲイブはそのようなあり方へと農業を導こうと努力しているわけですから、素敵です。
 本書は土について多くの事を知ることの出来る一冊としてもオススメとなっております。

 最後に、本書に引用されていたどんなことにも応用できると感じた格言を1つだけ紹介し、レビューを終えます。

小さな変化を生み出したいなら、やり方・・・を変えればいい。大きな変化を生み出したいなら、見方・・を変えなければ

ドン・キャンベル

  

 

 

 

 

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