![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/173141320/rectangle_large_type_2_986c15f7eac7235a19b5f97122a06720.jpeg?width=1200)
書籍『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』
ヤニス・バルファキス(著) 関美和 (翻訳)
出版社 ダイヤモンド社
発売日 2019/3/7
単行本 248ページ
目次
プロローグ 経済学の解説書とは正反対の経済の本
目の前の混乱から離れて世界を見つめ直す
資本主義を解き明かす
第1章 なぜ、こんなに「格差」があるのか? ── 答えは1万年以上前にさかのぼる
なぜ、アボリジニがイギリスを侵略しなかったのか?
かつて、市場はあっても経済はなかった
「言語」と「余剰」の二度の大きな飛躍 ── このとき、経済が生まれた
文字 ── それは余剰を記録するためのものだった
債務、通貨、国家 ── 「仮想通貨」は1万年以上前から存在している
官僚、軍隊、宗教 ── 支配者が支配し続けるために必要なもの
テクノロジーと生物兵器 ── 先住民を一瞬で殺したもの
では、最初の質問に戻ろう ── なぜ、アボリジニがイギリスを侵略しなかったのか?
なぜ、アフリカから強国が出てこなかったのか?
地域内格差 ── 金持ちは100万ドルを簡単に稼げる
「当たり前」に疑問を持ち続ける ── 格差はどこからはじまった?
第2章 市場社会の誕生 ── いくらで売れるか、それがすべて
「高ければ高いほど売りたくなる」わけではない
ふたつの価値 ── 経済学者はすべてを「値段」で測る
「お片付け」に値段は付けられるか? ── 助け合いと市場取引
すべてが「売り物」になる
市場の法則から外れた世界 ── 古代ギリシャ人は「オークション」をしない
自分のことすら「市場価値」で測ってしまう
市場社会のはじまり ── 生産の3要素が突然「商品」になった
グローバル貿易 ── 農奴より羊を飼おう
囲い込み ── 人類史上稀に見る「残酷な改革」
「すべての農奴」が商人になった
工場 ── 歴史の中の「灰色の実験室」
偉大なる矛盾 ── すさまじい富とすさまじい貧困が生まれた
世界はカネで回っている?
第3章 「利益」と「借金」のウエディングマーチ ── すべての富が借金から生まれる世界
悪魔が考えた「地獄」より残酷なこと
大転換 ── 生産とカネの流れが逆転した
富と競争 ── 競争に勝つには借金するしかない
フォースタスは地獄行き、ファウストは救われる
借金は宗教的な問題だった ── 神は「利子」を歓迎している?
ファウストはスクルージの裏返し
第4章 「金融」の黒魔術 ── こうしてお金は生まれては消える
起業家はタイムトラベラー ── 未来から無限の交換価値をつかみとる
銀行はツアーガイド ── どこからともなくお金を生み出す
銀行が損をしない方法が生まれた
金融危機 ── そこにはやはり「落とし穴」がある
歯車が「逆回転」しはじめる
誰が助けてくれるのか? ── 中央銀行がどこからともなくカネを出す
国家の新しい(ようでそうでもない)役割
銀行と国の「持ちつ持たれつ」の関係 ── 銀行には冷たくできない
焦げつき ── 借金を「ご破算」にするのは倫理の問題ではない
枝を燃やして山火事を防ぐ
金持ちは政府を煙たがりつつ庇護を求める ── 矛盾に終わりはない
必要な寄生虫 ── 経済はすべての人に頼っている
公的債務 ── それはウイルスではない
それは「機械の中の幽霊」である
だがさらに……
第5章 世にも奇妙な「労働力」と「マネー」の世界 ── 悪魔が潜むふたつの市場
失業を「否定」する人たち
狩人のジレンマ ── 全員で鹿を狙うか、ひとりでうさぎを狙うか?
なぜ、労働者は家や車やトマトと違うのか? ── ワシリーを雇うシンプルな理由
先行きへの楽観と悲観 ── ワシリーを雇わない複雑な理由
悪魔が潜む場所 ── 「マネー・マーケット」とは何か?
だから、理屈通りに行かない ── 先読みが市場を混乱させる
予言は自己成就する ── もしソポクレスが経済の教科書を書いたら?
悪魔は「人間らしさ」そのもの
第6章 恐るべき「機械」の呪い ── 自動化するほど苦しくなる矛盾
「機械がすべてを解決する」という夢
フランケンシュタイン症候群 ── 自ら生んだ機械に殺される
マトリックスとカール・マルクス ── 市場社会が向かう場所
イカロス症候群 ── 翼を溶かしながら、上に飛んでいく
ミダス王の欲望とその副作用 ── 望めば望むほど反対の結果になる
「抵抗しても無駄」の反対
未来の見方を左右する問い ── 自ら変革を起こす機械は現れるか?
巨大企業にとっての「すばらしい新世界」
人間はどこを変えたら機械になるか?
交換価値の秘密 ── ハチの巣の中に交換価値は存在しない
絶望を見せてくれるのは誰か?
イカロスはときどき墜ちる ── 遠くの希望と近くの希望
新しい「大転換」 ── 需要と売上と価格の悪循環を止める方法
ケインズのスタートレック的予言 ── おカネの考え方が根本的に変わる
第7章 誰にも管理されない「新しいお金」 ── 収容所のタバコとビットコインのファンタジー
「サヤ」を抜く ── だが、やがてサヤは減っていく
「タバコ」で買う ── 通貨になるものの3つの条件
おカネの交換価値 ── なぜ、20ドラクマで1000ドラクマをつくれる?
金利 ── 収容所のタバコ銀行がしていたこと
「終わりの予感」が経済を崩壊させる
「信頼」が通貨を通貨たらしめる
誰もが良貨を貯め込み、悪貨を使う ── そうして、悪貨は良貨を駆逐する
誰も税金を払いたくなければ、どうすればいい?
無から利益を生み出す世界 ── 塀の中と外の違い
塀の外ではおカネは「政治的」になる
ビットコイン ── 「一通のメール」がもたらした衝撃
「仮想通貨」と商人の目論見
上限問題 ── 仮想通貨はなぜ危機にぶつかるのか?
父が教えてくれたこと
第8章 人は地球の「ウイルス」か? ── 宿主を破壊する市場のシステム
宿主を全力で破壊するウイルス
なぜ、市場社会は「破壊」を歓迎するのか? ── 破壊は交換価値を生み出す
節度のない者は「愚か者」になる ── ダメと知りながら競争を止められない
金持ちと庶民のふたつの答え
地球を救うには、誰かが地球を買えばいい? ── 市場社会の解決策
すでにそれは起こっている ── 排出権取引とその矛盾
未来のすべてを決める対決 ── 「すべてを民主化しろ」vs「すべてを商品化しろ」
市場の「投票」のメカニズム ── ひとりで何票も投票できる仕組み
エピローグ 進む方向を見つける「思考実験」
思考実験 ── 君は理想の世界に行きたいか?
満足なブタより不満なソクラテス ── 欲を満たすだけでは幸せを得られない
HALPEVAMの欠陥 ── ユートピアをつくるシステムがディストピアを生む
自由とショッピングモール ── いったい何を求めればいいのか?
イデオロギー ── 信じさせる者が支配する
占い師のロジック ── 私が経済学者になった理由
経済学は「公式のある神学」
「外の世界」からの視点を持ち続ける
訳者あとがき
内容紹介
十代の娘の「なぜ、世の中にはこんなに格差があるの?」というシンプルな質問をきっかけに、元ギリシャ財務大臣の父が経済の仕組みを語る。「宗教」や「文学」「SF映画」など多彩な切り口で、1万年以上の歴史を一気に見通し、「農業の発明」や「産業革命」から「仮想通貨」「AI革命」までその本質を鮮やかに説く。
レビュー
小学生にも読めるよう配慮された翻訳が素晴らしかったです。
「目次」が良質なレビューとなっておりますゆえ、ほんの少し引用を行い、レビュー(のかわり)といたします。
(中略)「経済モデルが科学的になればなるほど、目の前にあるリアルな経済から離れていく」ということだ。
物理学や工学といった自然科学の世界では、理論が科学的に洗練されればされるほど、自然の働きがよりわかりやすく目の前に晒されていくものだ。しかし、経済学はどうも反対らしい。
そこでこの本は、経済学の解説書とは正反対のものにしたいと思った。もしうまく書けたら、読者の皆さんが経済を身近なものとして感じる助けになるだろう。それに、専門家であるはずの「経済学者」がなぜいつも間違ってしまうのかもわかるようになるはずだ。
誰もが経済についてしっかりと意見を言えることこそ、いい社会の必須条件であり、真の民主主義の前提条件だ。
(中略) 専門家に経済をゆだねることは、自分にとって大切なすべてを他人まかせにしてしまうことにほかならない。
(中略) しかし、支配者にいくら力があっても、ものすごい数の貧しい農民が集まって反乱でも起こしたら、すぐに転覆するのは目に見えている。
では支配者たちはどうやって、自分たちのいいように余剰を手に入れながら、庶民に反乱を起こさせずに、権力を維持していたのだろう?
「支配者だけが国を支配する権利を持っている」と、庶民に固く信じさせればいい。自分たちが生きている世界こそが最高なのだという考えを植えつければいい。すべてが運命によって決まっているのだと思わせればいい。庶民の暮らしは、天からの授かりものだと信じさせればいい。天からの授かりものに異を唱えたら、この世がとんでもない混乱に陥ってしまうと思わせればいい
いま、十代の君は格差があることに腹を立てている。もし、酷い格差があっても仕方ないとあきらめてしまいそうになったら、思い出してほしい。どこから格差がはじまったのかということを。
あかちゃんはみんな裸で生まれてくる。高価なベビー服を着せられる赤ちゃんがいる一方で、お腹を空かせ、すべてを奪われ、惨めに生きるしかないない赤ちゃんもいる。それは赤ちゃんのせいではなく、社会の(システムの)せいだ。
君には、いまの怒りをそのまま持ち続けて欲しい。でも賢く、戦略的に怒り続けてほしい。そして、機が熟したらそのときに、必要な行動をとってほしい。この世界を本当に公正で理にかなった、あるべき姿にするために。
いま、私たちは日替わりのニュースについて意見を交わすのに忙しく、本当に見るべきものが見えなくなっている。
マスコミは、大勢の人の利益や地球の利益を犠牲にするような政治判断に大衆の合意を取りつける手段になってしまっている。
経済を学者にまかせるのは、中世の人が命運を神学者や教会や異端審問官にまかせていたのとおなじだ。つまり、最悪のやり方なのだ。