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映画『コレクティブ 国家の嘘』
2019年/製作国:ルーマニア ルクセンブルク/上映時間:109分 ドキュメンタリー映画
原題 Colectiv 英題 Collective
監督 アレクサンダー・ナナウ
予告編(日本版)
予告編(海外版)
STORY
2015年10月30日、ルーマニア・ブカレストのクラブで実際に起こった火災を発端に、命よりも利益や効率が優先された果てに起こった国家を揺るがす巨大医療汚職事件の闇と、それと対峙する市民やジャーナリスト達を追った、フィクションよりもスリリングなドキュメンタリー。
監督は、世界各国で多くの賞を受賞した『トトとふたりの姉』のアレクサンダー・ナナウ。地元のスポーツ紙に勤務するジャーナリストたちを追う前半から一転、映画の後半では熱い使命を胸に就任した新大臣を追い、異なる立場から大事件に立ち会う向かう人達を捉えていく。「リアル『スポットライト 世紀のスクープ』だ」とも評される本作は、日本を始め世界中のあらゆる国が今まさに直面する医療と政治、ジャーナリズムが抱える問題に真っ向から迫っており、ドキュメンタリーでありながらアカデミー賞のルーマニア代表として選出され、ルーマニア映画としてはじめてオスカーノミネートにして国際長編映画賞、長編ドキュメンタリー賞の2部門でノミネートを果たした。
レビュー
まず本作の監督の意図は明確です。
インタビューもナレーションもありません。私のドキュメンタリー映画製作のプロセスは、純粋に観察することにあります。それは他者の人生から学び、選ばれた主人公にできるだけ近づき、完全に同化することにより個人レベルで成長するプロセスなのです。物語を取り始めるとき、最初は人物のことをあまり知りたくありません。彼らの人生に足を踏み入れた瞬間から、映画のストーリーとして特筆すべきものがさらに発展するかどうかは、実際にはわかりません。しかし、その過程で私が経験することは、視聴者が登場人物の近くで生活し、発見しているかのように感じられるような方法でフレームに収めようとしています。観客は、他人の人生を通して自分が成長していく過程を目の当たりにしているかのような感覚になるはずです。それが映画のあるべき姿だと思います。
記者A:つまりこうか。ルーマニアの製薬会社が病院に納めている消毒液は薄められている。記尺度は製品によって違う。
1人目の情報源は何と?
記者B:「殺菌成分が薄められている」と。
記者A:最初からそう言ったのか?
記者B:そうよ、成分表示を見せて殺菌成分を指し示し「600キロのうち成分は60キロ」と。つまり10%だけどラベルには15%と書いてある。これも同じ
記者A:あの店の火災後も成分は変わってない?
記者B:そのようね。細菌じゃなく人を殺してる
記者C:2人目の情報源は「殺人はできない」と会社を辞めた
というわけで新聞社がラボに消毒液の分析を依頼するのですけれども、結果は情報源の言っていた通りで、しかもその10%の消毒液は病院が更に希釈し、そのうえ不適切な使い方(経費節約のために推奨以上に薄めていた)をしていたという始末……
端的に記すと「製薬会社も病院も金儲けのために、消毒液の効果を持たない液体を消毒液として販売し、用いることにより、院内感染を引き起こしまくっていた」ということです。
常々言ってますがメディアが権力に屈したら、国家は国民を虐げます。
同じことが世界中で繰り返されてきました。
で、ニュースが報じられ国の保険相が動かざるを得なくなり、しかしなんと過失を疑われる病院が検査を主導して行うという余りにもふざけた「エビデンスに基づく客観的な検査」とやらを実施したとほざくのですけれども、その記者会見の内容と様子が、どこか身近な国の記者会見とそっくりで全く笑えないというオマケ付き。
すると企業と国家に乗っ取られている、これまた万国共通でなんの頼りにもならない……どころか嘘製造機のTVのニュースは直ぐに、「過失の証拠は無くどの企業も避難できません」と報じ、保健相の証拠隠滅偽検査の結果をあたかも事実であるかのように垂れ流す始末……
しかしここから、記者たちの怒涛の戦いが幕を開けます。
まず政府がこれまで消毒液による院内感染の報告書を115件も隠蔽してきた事実を探り当て、報道します。
記者B:衝撃的過ぎて私たちの方が変だと思われる
記者A:変でいい
こういった記者たちのやり取りにしびれまくります。
一部の大衆たちも立ち上がり、デモを行い、叫びます。
無関心は人を殺す
腐敗は許さない
すると保健相の大臣が「ヤバい」と感じたのか突然何の説明もせずに身勝手な辞任を発表します。そこで調べてみると辞任(さっさと自分だけ逃走)した大臣は、就任以前は病院の理事長だったことがわかります。
そしてこの後の展開は余りにも面白過ぎるため、是非ご自身の目でお確かめください。
医療機関と政府の癒着(医療制度の腐敗)は、たぶん世界中で、本作と余り変わらない状況でしょうから、鑑賞者に素晴らしい学びを齎してくれるはずです。
勝とうが負けようが、変わろうが変わるまいが、戦い続けることの大切さが身に染みてわかる作品。