【よく見ると違う】と、【あからさまに違う】。
来春、小学生となる息子は、赤いランドセルがいいと言った。
今の時代はランドセル業界にもジェンダーレスは浸透してきて、色の種類も増え、女の子は赤はもちろん水色やキャメルはもう定番色で紺色や黒色も少なくないという。しかし一方で、男の子は圧倒的に黒や紺色が多い。男の子の方が身につけるものに対するこだわりが少なく、親が黒か紺を選んでいることが多いのではと思う。とにかく私は真っ赤なランドセルを背負う男の子を見たことはない。真っ赤なランドセルを背負った男子が通る道を想像しない人に会って話したい。その人はきっと言う、「だって子どもが赤がいいって言ってるんでしょ?」って。
#赤いランドセル 赤という色
調べてみると、赤いランドセルを背負いたい男の子も、それに悩む親も多かった。だってスーパー戦隊(◯◯レンジャー)のリーダーはいつもレッドだし、“赤”自体は女の子より男の子に人気がある色だそうだ。息子も今より幼い頃からずっと赤が好きだった。かっこいいよね、赤が好きな色で全然いいよね。でも6年間学校へ行く日は必ず一緒に過ごすランドセルの場合は、ちょっと待てよとブレーキがかかる。
Instagramで#赤いランドセルと検索すると、売り場で真っ赤なランドセルを背負ったキラキラした笑顔を見せる男の子がやっぱりいた。そしてその写真と一緒に想いを書いた母親達は全員悩んでいた。結果的に【真っ赤な】ランドセルを買った人は私が見た限りおらず、ベースは黒でステッチが赤のものだったり、ベースと赤いが男の子向けの鋭い剣みたいな刺繍が大きく施されていたりした。
想像するのは息子の笑顔ではなく。
今はまだ幼稚園の我が子だが、心を揺さぶられたり影響されたりする存在が両親ではなく友達になってきているのはさみしいけれど仕方のないこと。友達にこう言われて嫌な気持ちだったとかも話してくれるので、友達から「ランドセル女子と同じだな!」と言われて初めて芽生える感情を想像する。
さらに、息子はなんとなく話し方とかまだ小さな猫みたいだしリーダー格というよりは慎重派で堂々と一番前に出るタイプではない。ランドセルも真っ赤であることが、「あいつランドセルも女子みたいだからな。女だな。」とか友達に言われることを想像する。
高学年になり、自分は少数派だ、ということに息子は何を思うんだろう。個性派バンザイと言えるのか、ただただ恥ずかしいから買い換えたいとさえ言うのか、今はまだわからない。
“私は全然いいと思うんだけどね。”
子どものためを思って、この色もいいんじゃない?男の子らしいデザインもあるよ!と真っ赤なランドセルをなんとか回避させる。子どものためを思って。でもそこにはきっと。
うちの子だけ違う。
みんな違ってみんないいとかではなくて、うちの子だけみんなと違う。
という、親自身の恥じらいや焦りも入っていると思う。自分の子どもだけ違うことに誇りではなく、恥や焦りを感じてしまう大人になってしまったことに、私は私にがっかりする。そして男の子が赤いランドセルだとからかわれるという思い込みにより、私が子どもにしようとしていることは、これから先も赤いランドセルを背負いたい男の子の敵であり続けるのだろう。
私の親は、と思い出してみると、父にも母にも自分が選んだものを否定された記憶はない。
ひとつ思い出せるのは、小学生の時の筆箱。母が買ってきたくれたものは周りの友達が持っきていたいわゆる筆箱で両面びらきの蓋が磁石でくっつくやつではなく、両側に1本ずつゴムがついていてゴムを箱にはめて蓋が閉まるペンケースタイプのものだった。友達のと違うから、私もあれがいいとやんわりと母に伝えると、すぐに同じような筆箱を買ってくれたのを覚えている。今、思い出せるのは母が買ってくれたペンケースで、周りと同じになった筆箱のデザインは全く思い出すことができない。
未来をより具体的に想像できるのは大人だからこそだと思う。子どもの体にも心にも深い傷を負わせないようにすることは、大人の大切な役割だ。それができなかった時、自分も同じくらいかそれ以上傷つくからだ。
ランドセルの色でこんなにも考えるのは、馬鹿らしくなってきた。背負っている本人には色なんてわりとどうでも良いのかもしれない。そもそも背負っていたらほとんど見えないし。これから6年間、息子を見送る自分だからこそ悩んでいるんだと思う。そういうことを全部含めて、本気で何色でもいいと思うようになった。
「赤は女の色じゃない。」と堂々と話し、自分の選んだ色に誇りを持つ息子を想像する。
紺や黒のランドセルを背負った女の子が、「男子みたいだな!」とからかわれるのを見て「俺は赤だよ!」となんとなく女の子をかばう息子を想像する。
まだ先にはなりそうだけど、街中に真っ赤なランドセルを背負う男の子たちを想像する。
親は色々考えましたが、無事自分自身が納得できる解釈に行き着くことができました。そうしてやっと購入した息子のランドセルの色は、赤ではなく、黒や紺でもなく、黄色なのでした。鬼滅の刃の善逸が大好きだから、やっぱり黄色にしたんだって。・・・息子よ。
輝かしい6年間を過ごしてください。
母たちを、子どもたちを、私も応援します。