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こうちゃんの種まき(2016)


土に触れる仕事ができたら。

そんな気持ちで勤めることになったのは、障がい者と呼ばれる人たちの就労支援をする施設だった。そこには、様々なハンディキャップを背負った施設利用者が集い、ほぼ全員が田畑で仕事をしていた。

彼らのできる仕事はまちまちだから、役割分担をしたり仕事の段取りを組んだりするのが私たちの役目なのだけれど、当時の私は農業のことなんてさっぱりわからなかったので、しばらくの間は上司にくっついて仕事をこなす日々を過ごしていた。

ある日、私は果菜類の種をまく仕事を割り振られた。ナス、キュウリ、トマトなど見慣れた野菜の種が入った袋を渡されると、施設長はにこやかに言った。

「その種は、こうちゃんと一緒にまいてください」

こうちゃんは、私より少し年上の施設利用者で、施設が始まった頃から在籍している中心的な存在だ。小柄で坊主頭の男の子みたいな容姿に加えて、穏やかで優しい性格をしているので施設にいる誰からも愛されている。

私は朝のラジオ体操の後にこうちゃんに声をかけた。

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