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2022年10月の星の行方


上の巻 『融解』


てっきりパンダだと思っていたそれが、まさか岩だったとは今でも信じられなかった。むしろ、その岩をパンダだと信じていた福満ふくみつを誰もが信じられずにいた。ただ、そんな思い違いをしていたのは福満だけではなかった。みんな、そうだったのだ。

例えば結衣ゆいは、その岩を太ったネコだと思っていたし、寛至かんじはとぐろを巻いた大蛇だと思っていた。他にも例を挙げたらキリがない。結局みんな、それを岩だとは思っていなかったのだ。しかし、ひとたびそれが岩だとわかると、自身の見間違いを棚に上げて、他人の見間違いを嘲笑あざわらい、批難する人が多く現れた。そうして、感情をぶつけ合うようないざこざが後を絶たなくなった。

そんな折、福満はパンダだと思い込んでいた岩に近づき、パンダとは似ても似つかないゴツゴツした肌や、青々とした苔を撫でていた。とにかく、これが岩であることに気づけてよかったと、福満は大きく胸を撫で下ろした。

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