シャベルとキクのお話 その5
このお話は、しゃべるの大好きシャベル(S)と、聴くの大好きキク(K)が、気になったことを2人で気ままに話した記録です。テーマも展開も予測不能。
シャベル(以下S) こんにちは。
キク(以下K) こんにちは。
S 最近何が気になるかってさ、多様性とは何か、ということよね。
K 多様性、最近よく聞くよね。
S ダイバーシティ&インクルージョンとかも言われてるよね。多様で、かつみんなを抱き込むというか一体であるという。みんな違う人がそのままいられて、誰も取り残さないということが目指されている。
K まさにね。しかしそれを実践していくとなると、やることが多すぎる気がして、何から手をつけたらいいやらとなってしまうな。
S そうなのよ。私はさ、LGBTQに関するボランティアというか活動をしていて、例えば同性婚が実現したらいいなとか、今困っている人のために何かできないかなという感じで活動している。
K 偉いねえ。なかなか日々の生活で精一杯だけど、私も何かやりたいなとは思っている。だけれど、なかなかきっかけが掴めない。
S 今日話したいのはさ、多様性っていいよね!ということではなくて、世の中にはいろんな人がいるよねということなの。
K ほうほう。それまたどういうこと?世の中には、確かにいろんな人がいるね。
S うん。本当に身近なことから言うと、隣に住んでる人がいるよね。実際にどんな人なのか、少なくとも私は知らないけど。
K 仲良しみたいな人もいるけど、珍しいよね。私も隣の人のこと知らない。
S その隣人がさ、いきなりピンポン押してきて、「おたくの子どもがうるさいからどうにかしてくれない?」って言ってきたらどう思う?
K えっ、えっ、ってなるというか、いきなり?という驚きと、うるさかったかな、という負い目ないし申し訳なさと、あとはなんでそんなこと言うのひどくない?という怒りが湧きそう。
S その人に対して、いい感情?嫌な感情?それとも中立?
K うーん、それだけ聞くと、嫌な感情だな。
S じゃあさ、もしその人が音に敏感で、どうしても気になっちゃう人だったら?
K 可哀想だけど、近くに住むとそういうこともあるよねと思うから、やっぱり嫌な感情かな。少し和らぐけど。
S じゃあさ、その人の子どもが音で苦しんでて、家にかなりの防音設備を付けたけどまだダメで、申し訳なさそうに伝えてきたらどう思う?
K それは、言ってくれてありがとうって感じで、気をつけようと思うかな。嫌な感情はないね。
S なんかさ、こういうことって多くない?最初、自分に見えたものは自分にとって嫌なことだったり、攻撃的に見えたりするけれど、そのあと背景を知ると、ちがって見えるということ。
K 多いねー、それは。全然知らない人だと、初めは怖く思えて身構えるけれど、子どもに笑顔をむけてくれたりしたら、この人良い人だったのか、さっき嫌な顔してごめんなさい、と思うこともあるし。
S その流れで、ちょっと踏み込みすぎな気もするけれど、例えば今アメリカで論争がある、中絶の権利について話したいな。例えば、ここに、女性が中絶することは原則認めない、という立場の人がいるとするじゃない。その人のこと、どう思う?
K 難しい質問だね。。まず思うのは、妊娠をしたら必ず産まなくてはならない、となると、やっぱり望まない妊娠をした人には酷じゃないかと思うね。
S いや、私が聴いているのは、その中絶に反対している人についてどう思うか、ということ。
K その人について?うーん、その人がどうして原則中絶反対なのか知りたいな。
S いい感情をもつ?それとも嫌な感情を持つ?それとも中立?
K そこまで考えたことなかったな、その人に、だよね。そういう考え方の人もいるんだな、という意味では中立かな。
S じゃあさ、次は、めちゃくちゃ中絶に反対してる人がいるとして、なんでそんなに反対すると思う?
K なんでだろう。中絶をするって、そのまま育てば産まれる可能性が高かった子どもをいなかったことにするってことだよね。どんな事情があれ、罪のない子どもの命を奪うことがいいことではない、ということなのかな?なんだろう、子どものためとか、親のエゴとか、あとは宗教的な価値観や地域の慣習とかにも影響されそう。
S どちらが正しいのかな?
K 正しい、どっちが正解とはないと思うな。私は、ほとんどの人が中絶できないとなるのは、どうしても辛い事情がある人にとっては苦しみを深めてしまうと思っていて、その意味では中絶の選択肢があってほしいな。
S うむ。他方で命を重んじる見解もあるよね。子どもには罪はないというか。
K これは本当に難しいけれど、どうしても産みたくない場合ってありそうな気がしてて、産むことで傷が広がっちゃうこともあるだろうからね。
S じゃあさ、キクは中絶をしてもいい立場だとして、中絶反対派の人が、やっぱりおかしい人だと思う?
K おかしい、おかしい人か、うーん、いや、その意見については私は反対だけど、だからといってその人がおかしいとか、人格的に終わってるとか、人間としてどうなのとか、そういうのはないかな。実際に関わって、良い人もたくさんいると思う。この問題について、意見が違うだけ。
S 国とか慣習によって、この件はかなり違いそうだよね。日本は中絶には寛容だし。しかし、だからといって、多数派とは違う意見があることは理解できるし、多数派が悪いとかそういうこともない気がする。アメリカの一部の州では、中絶反対が多数派なんだよね。じゃあ、多数派がおかしいのか?少数派が正しいのか?何が正しいんだろう?
K 多数決によって割を食うことはあるよね。こういうことって、なかなか話しづらいけれど、実は避けては通れない気がするね。実際は、賛成でも反対でもない人が多いかもしれないけれど、でも無関心でいたら、いつのまにかどちらかに決まってしまう。それで良いのかな。
S ちょっと話題が変わるけど、多数派だからって、恵まれてるわけでも、幸せなわけでもない気がする。同じ人間で、我々日々を必死で生きている。多数派でいるから悩みがないわけでもないし、少数派でいるから悩みがあるわけでもない。人をカテゴリーに押し込めて、イメージどおりにその人を受け取ることって、ちょっと危険な気がするんだよ。マイノリティということを毎日いろんなニュースで報道されると、そういうステレオタイプでいないといけないのかなとか、多数派だから我慢しないといけないのかなとか、知らず知らずのうちに影響がある気がする。
K うん。その人はその人がどうかなんだよね。カテゴリーすることがいいこともあるから、ダメではないけれど、あまりにそれに押し込めてしまうと、嫌な時もあるよね。
S ということで、言いたいことを言いました。
K 思っていたより重かったです。
S まだ言いたいことはたくさんあります。時間がないんだよね、生きているうちに変化しないことが多すぎる、というのが、一つの活動の動機にもなる。だから、一見過激に見える運動でも、その背景には切実な想いがある。過激だからと馬鹿にして、そこから目を背けていいのか、と思う。
K その人なりの想いがあって、それぞれ取組みしてて、それ自体に罪はないというか、その人の思想や行動なんだよね。しかしそれが一人一人で違うからこそ、ぶつかるし、現在力を持っているとされる人も必死で生きているし、こうすればいいという解決策は無いと思う。
S 諦めてはいけないね。dennoch、それでもなお!、と言えるものだけが、政治へのベルーフ(天職)を持つ、とマックスウェーバーも言ってた。さようなら。
K おお、さようなら。