そういうことじゃないんよ
猫のうんこに悩まされている。
自分の飼い猫ではない。庭の芝生スペースに落とされる野良猫のうんこだ。一昨年に試行錯誤の末、センサーの前を何か横切るとピーという警告音と空気がプシュッと出て脅かす器械が効果的だったようで、ようやく私たちの庭に平穏が訪れた。当時の顛末はこちら↓
最近、その器械が壊れた。音もスプレーも出なくなってしまった。電池を換えてみても、うんともすんとも言わない。だが猫は「あの置き物やべぇ」と学習してくれたらしく、物言わぬ器械が佇んでいるだけで治安が保たれていた。
はずだった。
とうとう猫に、あの器械は名実ともに置き物であることがバレた。今までのうっぷんをはらすかのような立派なうんこが我が庭に落とされた。夫が片づけた。私は応急処置として芝生に竹酢液をまき散らした後、amazonで新しい器械を買った。これが、けっこういい値段する。猫のルートを考えると2個買わないといけない。五千円近い出費だ。ムカついた。
器械も届き、設置しなくちゃねぇと言いつつ日々忙しく過ごして器械を放置していたある平日の仕事終わりのこと。その日はたまたま夫とほぼ同じ時間に最寄り駅へ着いたので一緒に帰った。二人で歩いていると、家まであと数メートルのところで、うちの庭から何かが出てきて道路を横切るのが見えた。
「あっ、アイツかな」
「きっとそうだ。アイツがうんこしたんだ」
私と夫は口々にそう言って向かいの家の門扉を見た。そこにはドギマギした顔でこちらの様子をうかがう猫がいた。
猫を見つけた途端、夫が猫にまっすぐ向き合った。
「ここに、うんこしちゃ、ダメ!」
夫は猫から顔をそらさず、手だけうちの庭へ向け、指さしながら言った。
私はふたりにかまわず郵便ポストの中身を取り出す。
「ダメ!うんこ、ダメ!しちゃダメ!ダメだよ!」
手をバッテンの形に交差させて「ダメ」を繰り返す夫。
急に動いた手にビクっとなって一瞬逃げようとしながらも話を聞き続ける猫。
玄関ドアのカギが開いた音を聞いて、夫がこちらに向かってきた。振り向きざま、もう一度猫へ「ダメ!」と念押ししながら。
その日から、庭にうんこが一回も落とされていない。新しく買った器械を設置していないのに、だ。そんなことある?と思うが、事実として今、害がない。夫は
「な?わかるんだって、ちゃんと話せば」と澄ました顔をしている。
そんなこともあるんだね、と言うしかない。とにかく助かった。
はずだった。
それから数週間後。夫と二人、おでかけから帰ってきて、ふと下のほうに目を向けた夫が言った。
「あれ、うんこじゃね……?」
家の敷地沿いに建てたブロック塀の真下、側溝のはじっこに芝生が自生してる部分があるのだが、そこに暑さでカラッカラに干からびた黒いドロのようなものがあった。うんこだった。
たしかにうちの庭じゃない。みちばた。側溝。庭にはしていない。ダメって言ったところにはしていない。それはそう。合ってる。間違ってない。
でもさぁ!!!!!!!!!!