ある日記「小粒みかん」2024年10月4日
小粒みかんの季節がやってきた。小さくて、甘くて、酸っぱめのみかんが店頭に並んでいる。大きく実った完全体みかんも良いけれど、僕は小粒みかんの方が好きだ。
大学の寮にいるときはよく文旦を食べていた。先輩がご実家から送られてきた段ボールいっぱいの文旦を一人じゃ食べられないからと分けてくれるのだ。毎年送られてくる文旦に何かしらの季節を感じていた。今となってはどの季節か思い出せないから「春夏秋冬」より「季節」がやって来たのだと受け取っていたのだろう。魚や野菜を食べるときに「旬」を感じるのと同じ現象だ。詳しくは説明できないけれど、ある一定の粋を発揮していた。
文旦を食べるのは少し面倒くさい。大外の皮が厚く、素手で剥くのは至難の業だ。先輩が文旦と一緒に送ってもらった皮剥き用の器具を使う。嘘みたいだが名前を「ムッキーちゃん」と言う。ネーミングセンスなんてどうでもいいくらい使い勝手がいい。
ムッキーちゃんは二つの部品で構成されている。上部分は蓋の役割をしており、開けると端がちょんと突き出ている。その突起を使って文旦の大外の皮に切れ込みを入れると素手でも剥けるようになる。下部分は縦に窪みがあり、底に金属製の歯が立っている。みかんを房ごとに分けたら、房の直線部分を窪みに当てて引けば皮に切れ目が入る。切れ目から皮が剥けるというわけだ。
寮の調理場がいつもぐちゃぐちゃなので、ムッキーちゃんは談話室の机の引き出しに保管されていた。衛生面より保管優先。いつまた文旦が送られてくるやもしれないのだ。井伏鱒二が「文旦は皮の硬いうちに食べよ」と言ったというのは僕の完全な創作だ。ああ、また文旦が食べたい。おっと、小粒みかんの話をしようと思ったら、特大柑橘類の話をしてしまった。
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