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ある日記「辛さが倍」2024年11月25日

 前から気になっていたカレー屋に行った。いくつも素敵なところがあって気に入った。
 まず、蒸したじゃがいもが食べ放題だった。注文すればひとかけらのマーガリンを付けてくれた。テーブルには普通の塩とスパイス入りの塩が置いてあった。塩の入れ物に貼られたテープがスパイスの企業によってしっかり印刷されたものだった。こだわりを持った小さなお店が大きな会社と対等に取引をしているようで嬉しかった。
 店員さんがペチャクチャ喋りながら働いていた。おかげで「うまっ」とか「からっ」とか「いいお店」とか気軽につぶやけた。母国語で冗談を言い合ってるときの荒々しい調子と、お客さんに対応するときの日本語の優しい調子が一人の店員さんを織り成していた。
 僕が頼んだビーフカレーにはほろほろの牛肉がごろっと入っていた。他にもカットされたピーマンやひよこ豆が具のラインナップに名を連ねていた。しゃばしゃばのルーが硬めに炊かれたお米に染み入り、絵面に異国情緒が漂っていた。お米は百円出すだけで五百グラムの超大盛りにできた。
 カレーは辛さが選べた。なんと最大七十倍まで可能だという。三倍で辛口、十二倍で大辛なので、七十倍はそりゃあもう大変だ。
 ところで、この何倍という表記は本当なのだろうか。辛さの単位である「スコヴィル値」を測っとき、表記の通りに数値が膨らんでいくとはどうも思えないのだ。僕の考えでは「倍」はあくまで入れる辛味スパイスの重量の目安で、純粋な辛さは何倍と増えていない。なんなら「倍」は「杯」から転じたものである可能性すらある。
 ここまで考えたところで、辛さの苦手な僕が頼んだ一番辛くないメニューを確認した。最低ランクは「中辛」で辛さは「0倍」だった。なぬぬ!「倍」という考えを根本からひっくり返す基準だ。0は何回かけても0なのに、それがベースだと。日本では地面を1階と数えるが、海外では0階と数えるアレか。これも異国情緒に数えてしまうか。よし、数えてしまおう。僕は満足して帰った。

神保町のエチオピア。


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