ある日記「常葉大学心薙祭」2024年11月8日
文化祭が好きだ。学校という学びの場、静粛な時間をメインテーマに設計された空間が、生徒の熱気で膨れ上がるのが好きだ。いつもより大手を振って歩く人が増え、どこからかソースと砂糖菓子の匂いが漂ってくると、自分がこの世の主役だと思えてくる。
人生で初めての学祭営業に行ってきた。お呼ばれしたのは常葉大学心薙祭だ。かが屋さんにお供して静岡まで旅させてもらった。十時半に東京駅を発って、十五時半には戻ってくる弾丸ツアーだった。静岡を観光する時間はなかったけれど、新幹線に乗るだけでもうそれは旅だった。
静岡駅で岩永とかが屋さんとマネージャーさんと合流した。二台のタクシーに分かれて乗り込むことになった。僕は賀屋さんとマネージャーさんと先導車両に乗り込んだ。岩永は加賀さんと後続車両に。「前の車を追ってください、って言ってみたかったんすよ!」とはしゃいだ岩永の声が聞こえた。
賀屋さんはタクシーの中でも作業をしていた。邪魔をしてはいけないと思いつつも、そりゃあ気になったので「それ何してるんですか?」と聞いた。番組のためのあれやこれやだよ、と賀屋さんは優しく教えてくれた。まったく知らないことだったので、僕は「ほぇ〜」と気のない声を漏らした。興味があるときほど頭ばかり動いて、心のこもっていない響きが口から漏れてしまうのだった。
大学に着くと後続車両が遅れていた。こちらを見失ったらしい。そして、十分後にやっと来た。岩永の話によると、運転手さんが勘違いしていたそうだ。駅から大学までほとんど一本道なのに大きく右折したそうだ。二人が慌てて「どちらに向かっていますか」と尋ねると、運転手さんは「海の方へ」と答えたという。海の方へ行って何を目指していたのだろうか。浜辺を突っ切ってぬぷぬぷと沈みゆき、海の底まで走らせるつもりだったのかもしれない。想像を膨らませるほど恐ろしい結末が浮かんでしまった。
打ち合わせを済ませ、お弁当を食べ、着替えたらすぐに本番だった。鮮やかな芝生のグラウンドに特設されたステージには沢山のお客さんが詰めかけていた。リップグリップの持ち時間は十五分。時間を使い切れるかな、なんて思いながらステージに飛び出した。岩永が「スケベ大学を知ってる人?」と聞くと、お客さんの二割くらいが手を挙げた。静岡はもうダメだった。
僕らの出番の後はかが屋さんがネタをされ、その後はサイン色紙をかけたジャンケン大会になった。敗北者たちからは悲鳴が上がった。みなさん本当に色紙が欲しかったようだった。残り十人になると前に集まってもらった。その十人を賀屋さんが全滅させていた。賀屋さんの白い背中が青空より大きく見えた。
イベントを終えて、グラウンドのネット裏を通って帰るとき、いっぱいのお客さんがネットに寄ってこちらに手を振っていた。かが屋さんは屈託のない笑顔で大きく手を振り返してお礼を言っていた。かが屋さんってやっぱりスターなんだと思った。僕は邪魔にならないように足速に過ぎ去った。後でその場面を録画していた方のポストを見た。シウマイが軽く感じ悪かった。これからは心にスターを飼っていこうと決めた。
帰りに静岡駅で少し時間ができた。賀屋さんが静岡土産を買ってくれた。僕はうなぎパイと静岡工場で作られたサッポロビールを選んだ。賀屋さんは「つまみにこれ美味いよ」と食べるおだしもかごに入れてくれた。僕は「いいんですか!」と言った。本当にありがたいと思ったので、気の抜けた声だった。
ねてるから聞こえないのねじゃあちょっとくすぐります、ってもう笑ってる(早坂つぐみ)
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