武田 俊

執筆と編集とメディア研究。野球、釣り、格闘技、ゲーム、それと人の日記が好き。現在はじめてのの子育て中。http://takedashun.com/

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はじめての子どもが生まれて、半年専業主夫やってみた #1

去年の10月、はじめての子どもが生まれた。 それぞれ仕事にどっぷりだったので、子どもはいたらいいなと思っていたけれど、計画をしっかりするほどじゃなかった。 周囲では懸命に不妊治療に励んでいる人たちがいた。かれらから身体的、精神的、経済的苦労についてもたくさん聞かされていたから、自分たちがそこで同じようにがんばれる気はしない。 「できたらできたで最高だよね!」 「ほんとそうだねえ」 そんなふうにいいあっていたけれど、具体的な対処をすることはないまま時が過ぎて結婚6年目。

    • クレイジーソルトの呪い

       18歳で上京して一人暮らしを始めてから、自然と料理をするようになった。最初は母がくれた料理研究家のケンタロウのどんぶりの本を参考して色々つくっていたら、何をどれくらい入れるとどんな風に味が変わっていくのかがわかっていって、それから食事をつくるということに構えがなくなった。  20歳の冬の日、友人たちがぼくのアパートに遊びにきた時のこと。  安酒をたくさんあおって、映画や音楽や女の子について語らっていた深夜1時ごろ、誰からともなく「なんか腹減ったな~」といいあい始める。季節

      • はじめての子どもが生まれて、半年専業主夫やってみた #2

        間が空いてしまったけれど、思っていた以上に反響をいただいたので、続きをざっと書いてみたいと思います。 前回のnoteはこちら。 ここにもわが家の紹介を書いておこう。 立ち会えなかった出産、ひとりきりのドライブ 出産には立ち会うつもりだったものの、予定日よりも1週間ちょっと早まってしまったこともあり、叶わず……。生まれた瞬間は新しくはじまったpodcastの収録でスタジオに入っていて、収録後妻本人からのLINEでふたりの無事を知ることに。立ち会えなかったショックはあるもの

        • エッセイとスープストック

          小説も好きだが、エッセイも好きだ。 特に暮らしのひきこもごもが書かれたものが好き。そういうものを読んでいると、子どもの時の夕方の帰り道、同じ団地の違う部屋からただよってきた、うちとはちょっと違うカレーのにおいにぶつかった時の気持ちになる。同じ間取りのキッチンで、全然違うカレーが煮込まれている。そのカレーの数だけ生活があって、カレーの数だけ食卓がある、ということ。 ひとコマだけ教えている大学で授業を終えて外に出たら、雨だった。傘を出そうとリュックに手を入れて、本を持ってき忘れ

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        はじめての子どもが生まれて、半年専業主夫やってみた #1

          それからの動物園

          地元名古屋市で行われている地方の文芸賞「コトノハなごや」で審査員を務めてきました。これは写真家が撮影した地元の写真から1枚を選択し、その場所から想起させられる物語やエッセイを対象とした賞で、本文は200字〜800字。審査員はぼくの他に小説家の中村航さん、吉川トリコさんで、毎年作品を拝読してお二方と講評するのが楽しみな仕事です。 残念ながら今年度はコロナの関係から実施されませんでしたが、昨年度はぼく自身もこの規定の中で作品を書いてみました。公式サイト上に掲載されていたのですが

          それからの動物園

          進行するぼくらの日々

          同い年の妻が乳がんになった。ステージゼロで命に別状は現在のところない。でもそれは、何でもなく暮らしていた日々の中に、何かがすでに進行していたことを伝えていた。だから何でもない日々なんてなくて、全ての生活の時間は良いことも悪いことも、その萌芽を含んで進行している断片であること。それを痛切に感じた。この間にもぼくの中の何かが進行し、彼女の中でも進行している。それが目に見えないまま、ぼくらの日々は更新され続く。むしろ当たり前だったのは、ある日それがぱったりと形を変えてしまうかもしれ

          進行するぼくらの日々

          東京ドームシティのカンパリソーダ

          武田です。今、深夜2時半です。仕事で書かなければならない原稿があって深夜作業をしているのに、なぜか書いている本のことばかり考えてしまっています。こういうのってよくありますよね。今それじゃないことがはかどってしまう事故。 自分のこれまでのあれこれを私小説仕立てにまとめる本を書いています。ずいぶんと時間がかかってしまって焦ってますが、これでもけっこう慎重派なところもあるので、誕生から現在までの年表なんかつくっちゃたりして(さらにはそこにその時どき影響を受けた本や映画のことをまと

          東京ドームシティのカンパリソーダ

          コロナ時代の旅行記─京都編②

          8月21日(金) 1Fの琉球畳の和室におふとんを敷いてもらって寝たのはたぶん1時半とかで、「NOANOA」から戻ってきてからコンビニで買ったジャックダニエルをソーダで割ってざばざば飲んでいたら、いつのまにかポケット瓶は空になっていた。MJはワインを1本空けつつ、終盤そのワインにカシスを突っ込むという野蛮な飲みものをこしらえていて、たかくらは心配そうなめんどくさそうな顔をしながら烏龍茶を飲んでいた。 以前は毎週のようにやっていたご近所酒盛りも久々のことで、だから話題がつきない

          コロナ時代の旅行記─京都編②

          コロナ時代の旅行記─京都編①

          もともと旅行が趣味というタイプではない。大学時代にシーズンごとに貯めたバイト代をはたいて外国に出かけていく連中を、当時流行していた自分探しの旅でしょ、って感じで見下したりしながらちょっぴりうらやましい気持ちになっていた。 なんというか趣味っていうのは、内面を豊かにさせてくれる行為のことで、それを外部に求める旅行を趣味と語れる感覚ってものに当時は青臭い嫌悪を感じていたらしかった。 それがこの数年、仕事も含めて何かしらで毎年どこかしら旅に出かけている。 台湾、シンガポール、

          コロナ時代の旅行記─京都編①

          空中日記|08.05-08.15

          もともと全体公開していたこの「空中日記」。なんなら最もパーソナルなテキストだよな、と思ったので、こちらもこの有料マガジンのなかで公開していきます。ほぼ毎日つけているので、週刊でアップしていくつもり。 今回公開分はかなり調子に変動があった週で、一部こぼれてしまってます。人に会いはじめて、自分の中でつくった静かなリズムが徐々に崩れていく様子がわかります。 【登場するもの】 バナナチップ / 宮地尚子『傷を愛せるか』/ RIZIN / 宮沢賢治 / mgcrossing / ケ

          空中日記|08.05-08.15

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          ひらいたまま、閉じ続けること──Twitter、ラジオ、部分と全体、親愛なる

          定期購読マガジンをはじめます。論考やエッセイ未満の、日々の気づき。それをエスキース(下絵)のようにラフなタッチで、でも切実な気もちで限定された読者に向けて書いていきます。ひらかれた場所に記すには、あまりにもか弱かったり、プリミティブだったりする感情をここに記していきます。 月4本目安にエッセイを。初月は無料になっているはずです。たまにイラストやプライベートな写真も。他では書かない直近の仕事のこと、現在の読書やメディアについて、ときどきの文化的事象、ときどきのスポーツ、お料理

          ひらいたまま、閉じ続けること──Twitter、ラジオ、部分と全体、親愛なる

          編集者はMacBookを捨て、iPad Proのみで生きのびれるか:1日目

          前回の記事はこちら Smart keyboard Folioが、俄然よいぞ…さてまずはセットアップということで、iPhoneと連携させてアプリケーションを同期させた。すると、惰性でダウンロードしたアプリが目立つ。それをどんどん消去していった。ぼくはこのiPad Proに求めているのは、クリエイティブな雰囲気だった。そういう相棒になってもらいたかった。 まずはタイピングだ、と思って「Ulysses」を開く。 それで骨折の間ずっと書けていなかった、連載がスタートするはずのエッ

          編集者はMacBookを捨て、iPad Proのみで生きのびれるか:1日目

          編集者はMacBookを捨て、iPad Proのみで生きのびれるか:0日目

          MacBookからずっと離れたかったWeb、紙問わず仕事をしている自分にとって、以前からiPad Proはかなり魅力的なデバイスに見えた。これまでMacBookをメインで使ってきて、自宅や事務所ではその相棒をスタンドに起き、27inchのモニターを使って仕事をしてきた。 でもそんな作業環境の中で、もっとも非効率的なのが紙媒体ならレイアウトのラフ、Webならワイヤーフレームを組む、というもの。 ノートやそこらへんにある紙をひろって、それにラフを書いていく。その作業はわりと好

          編集者はMacBookを捨て、iPad Proのみで生きのびれるか:0日目

          ぼくたちはひとまずここを「空中」と名づけた

          「空中日記」は、あるエッセイとして記された日記(つまり少しのフィクションを含んだ日記)をもとにして生まれた、日記シリーズです。原則、90%以上事実かつ実名で日々が記録されていきます。つまり、10%ほど地面から浮遊しているという意味で、空中遊歩の記録です。 本サイトはこちら。 ある日。 何人かの仲間内で、一緒にスタジオを借りることにした。 人生の転機のようなものは、だいたい想像の斜め上から想像よりも鋭角で速く降ってくるから、それをそっと捕まえなくてはいけない。ぼくたちは自分

          ぼくたちはひとまずここを「空中」と名づけた

          日々のしぐさ #002|旅先で植物を買うということ

          「日々のしぐさ——Daily behavior」は、毎日1枚のイラストを描き、そこからの類推で生まれたエッセイをあとから添えたシリーズです。 本サイトからnoteにも転載していきます。 西表島に1週間弱滞在したことがある。 イリオモテヤマネコには会えなかったがそれでも自然は無垢で、星、とかげ、八重山そば(の素材たち)、浅瀬を泳ぐ熱帯魚や巨大なシダ植物が、都会でなまくらになっていたぼくらの五感を盛大に振り回してくれた。 帰り、フェリー乗り場のお土産コーナーで一枚の葉を見つけ

          日々のしぐさ #002|旅先で植物を買うということ