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津津浦浦のインバウンド事情:過去10年の訪日外国人数と消費額の推移

津津浦浦(つつうらうら)
→ 全国いたる所のたとえ。

「津津浦浦(しんしんほほ)」という言葉をご存知だろうか。

これは、全国各地のあちこちという意味を表す言葉だ。

「津」と「浦」は、どちらも水際を意味する言葉。

それを重ねることで、全国津々浦々までという意味になるのだ。

この言葉の起源は、平安時代にまで遡る。

平安時代の歌人、藤原定家の和歌集「小倉百人一首」に、「津津浦浦の」という表現が登場する。

「津津浦浦の人目を忍び恋ひ渡る」という和歌だ。

これは、「全国各地の人目を忍んで恋をする」という意味の歌だと解釈されている。

江戸時代になると、「津津浦浦」は、旅行好きな日本人の間で広く使われるようになった。

当時の旅行記などにも、この言葉が頻繁に登場するのだ。

明治時代以降は、「津津浦浦」は、全国各地の名所を巡る旅行を表す言葉として定着した。

現代でも、この言葉は使われ続けている。

しかし、近年は、日本人だけでなく、外国人観光客も「津津浦浦」を訪れるようになってきた。

インバウンド需要の増加だ。

日本の「津津浦浦」は、今や世界中の人々を魅了している。

次のカテゴリでは、過去10年のインバウンド需要の推移を具体的なデータで見ていこう。

過去10年の訪日外国人数の推移とインバウンド消費額

日本のインバウンド需要は、この10年で大きく変化した。

2013年の訪日外国人数は、約1,036万人だった。

それが、2019年には約3,188万人にまで増加。

わずか6年で、3倍以上に増えたのだ。

この増加は、政府の観光施策によるところが大きい。

2013年に、「2020年に訪日外国人数2,000万人」という目標が掲げられた。

ビザの緩和、消費税免税制度の拡充、LCCの就航など、様々な施策が打ち出された。

その結果、訪日外国人数は急激に増加。

2015年に1,974万人、2016年に2,404万人、2017年に2,869万人と、毎年記録を更新していった。

そして、2019年にはついに3,000万人を突破。

目標の2,000万人を大きく上回る結果となった。

国・地域別に見ると、中国、韓国、台湾、香港からの観光客が大半を占める。

2019年の中国人観光客は、約959万人。

全体の30%を占める最大の市場だ。

次いで、韓国が約558万人、台湾が約456万人と続く。

アジア4カ国・地域で、全体の77%を占めている。

訪日外国人による消費額も、大きく増加した。

2013年の訪日外国人消費額は、約1兆4,167億円。

それが、2019年には約4兆8,135億円にまで増えた。

実に3.4倍の伸びだ。

国・地域別では、中国が最も多い。

2019年の中国人観光客の消費額は、約1兆7,631億円。

全体の36%を占める。

次いで、台湾が約5,878億円、韓国が約5,336億円と続く。

一人当たりの消費額も高い水準だ。

2019年の一人当たり消費額は、中国が約18万円、ベトナムが約15万円、台湾が約13万円。

「爆買い」と呼ばれる旺盛な消費が、日本経済を支えた。

日本のインバウンド需要は、この10年で飛躍的に拡大した。

アジアからの観光客が牽引役となり、訪日外国人数、消費額ともに大幅に増加。

日本経済にとって、欠かせない存在となったのだ。

ところが、2020年に入ると、状況は一変する。

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、インバウンド需要は大きな打撃を受けることになる。

次のカテゴリでは、コロナ禍におけるインバウンド需要の変化を見ていこう。

コロナ禍におけるインバウンド需要の変化

2020年1月、日本で初めて新型コロナウイルスの感染者が確認された。

それ以降、感染は瞬く間に拡大。

4月には、全国に緊急事態宣言が発出される事態となった。

国境を越えた人の移動が制限され、インバウンド需要は大きな打撃を受けた。

2020年の訪日外国人数は、約411万人。

前年比87.1%の大幅減だ。

国・地域別に見ると、中国が約98万人(前年比89.8%減)、韓国が約56万人(前年比89.9%減)、台湾が約44万人(前年比90.3%減)と、軒並み9割近くの減少となった。

訪日外国人消費額も、2020年は約7,448億円。

前年比84.6%の大幅減だ。

インバウンド需要は、ほぼ消滅したと言っていい状況だった。

2021年も、厳しい状況が続いた。

年間の訪日外国人数は、約25万人。

前年比93.9%の大幅減だ。

中国、韓国、台湾からの観光客は、いずれも99%以上減少した。

訪日外国人消費額も、約5,048億円。

前年比32.2%の減少だ。

コロナ禍は、インバウンド需要を根底から覆す出来事だった。

観光産業は大きな打撃を受け、多くの事業者が苦境に立たされた。

そんな中でも、新たな動きも生まれた。

それが、「マイクロツーリズム」だ。

地域の魅力を再発見する、小さな旅行のこと。

地域の自然や文化、食などを楽しむ、近場の旅行が注目されるようになった。

外国人観光客は来なくても、国内の観光需要を掘り起こす動きが広がったのだ。

また、オンラインを活用した新たな観光スタイルも生まれた。

バーチャルツアーや、オンライン体験プログラムなど。

リアルな旅行ができない中でも、観光の楽しみ方を模索する動きが出てきた。

コロナ禍は、インバウンド需要に大きな打撃を与えた。

しかし、同時に、観光のあり方を根本から問い直す契機にもなった。

「量」から「質」へ。

「外」から「内」へ。

そんな新たな観光の形が模索され始めたのだ。

次のカテゴリでは、ポストコロナ時代に向けた動きを見ていこう。

ポストコロナ時代に向けた動き

2022年に入ると、新型コロナウイルスの感染状況は落ち着きを見せ始めた。

ワクチン接種が進み、治療薬も開発されるなど、状況は少しずつ改善していった。

それに伴い、インバウンド需要にも回復の兆しが見え始めた。

2022年10月、日本政府は入国制限を大幅に緩和。

個人の観光目的の入国が、約2年半ぶりに可能になった。

この措置により、訪日外国人数は大きく増加。

2022年の訪日外国人数は、約369万人。

前年比1,376%の大幅増だ。

特に、10月以降の増加が顕著だった。

12月の訪日外国人数は、約133万人。

前年同月比7,608%の大幅増だ。

国・地域別に見ると、韓国が約92万人(前年比4,500%増)、台湾が約61万人(前年比6,000%増)、香港が約42万人(前年比14,000%増)と、アジアからの観光客が大きく増加した。

一方、中国からの観光客は、約32万人(前年比967%増)にとどまった。

中国政府が、海外団体旅行を認めていないことが影響しているのだ。

訪日外国人消費額も、大きく増加した。

2022年の訪日外国人消費額は、約1兆8,836億円。

前年比273%の大幅増だ。

一人当たりの消費額は、約51万円。

前年比155%の増加だ。

高価格帯の商品の販売が好調だったことが、消費額の増加につながった。

ポストコロナ時代に向けて、インバウンド需要は着実に回復しつつある。

ただし、コロナ前の水準に戻るには、まだ時間がかかりそうだ。

2022年の訪日外国人数は、2019年の約12%の水準。

訪日外国人消費額は、2019年の約39%の水準だ。

完全な回復には、2024年以降になるとの見方が多い。

それでも、回復のトレンドは明らかだ。

日本政府も、インバウンド需要の回復を後押しする施策を打ち出している。

2023年1月、「観光立国推進基本計画」を閣議決定。

2030年に訪日外国人数6,000万人、訪日外国人消費額15兆円という新たな目標を掲げた。

この目標の実現に向けて、様々な施策が検討されている。

デジタル化の推進、キャッシュレス化の促進、多言語対応の強化など。

インバウンド需要の「量」だけでなく、「質」の向上も目指す方針だ。

ポストコロナ時代の日本のインバウンドは、新たなステージに入ろうとしている。

次のカテゴリでは、これからのインバウンド戦略のあり方を考えてみよう。

これからのインバウンド戦略のあり方

ポストコロナ時代の日本のインバウンド戦略は、どうあるべきだろうか。

単に、コロナ前の状態に戻すだけでは不十分だ。

コロナ禍で明らかになった課題を踏まえ、新たな戦略を描く必要がある。

第一に、「量」から「質」への転換だ。

これまでのインバウンド戦略は、いかに多くの外国人観光客を呼び込むかに重点が置かれてきた。

しかし、これからは、「質」の高い観光客を呼び込むことが重要になる。

つまり、日本での滞在期間が長く、消費単価の高い観光客を増やすことだ。

そのためには、魅力的な観光コンテンツの開発が欠かせない。

日本の自然、文化、食など、多様な魅力を発信し、深く楽しんでもらう工夫が必要だ。

第二に、「点」から「面」への拡大だ。

これまでのインバウンド需要は、東京、大阪、京都など、一部の大都市に集中する傾向があった。

しかし、これからは、地方への分散化を図ることが重要になる。

各地域の魅力を発掘し、外国人観光客を呼び込む取り組みが求められる。

そのためには、地域の主体性が欠かせない。

地域の事業者、自治体、住民が一体となって、魅力発信に取り組む必要がある。

第三に、「ハード」から「ソフト」への転換だ。

これまでのインバウンド戦略は、ホテルや交通機関など、「ハード」の整備に重点が置かれてきた。

しかし、これからは、「ソフト」の充実がより重要になる。

多言語対応、キャッシュレス化、Wi-Fi環境の整備など、外国人観光客の受入れ環境を整える必要がある。

また、観光人材の育成も欠かせない。

多様な文化背景を理解し、おもてなしの心を持った人材が求められる。

第四に、「官」から「民」への シフトだ。

これまでのインバウンド戦略は、政府主導で進められてきた側面がある。

しかし、これからは、民間企業の役割がより重要になる。

旅行業、宿泊業、交通業など、観光に関わる企業が主体的に取り組む必要がある。

また、スタートアップなど、新たなビジネスの創出も期待される。

官民が連携し、イノベーションを生み出していくことが求められる。

第五に、「国内」と「国外」の融合だ。

コロナ禍で、国内観光の重要性が再認識された。

マイクロツーリズムなど、地域の魅力を再発見する動きが広がった。

これからのインバウンド戦略は、この流れを踏まえる必要がある。

国内観光と国外観光を融合し、相乗効果を生み出すことが重要だ。

外国人観光客が、日本人と同じように地域の魅力を楽しめる環境を整えることが求められる。

ポストコロナ時代のインバウンド戦略は、「量」から「質」へ、「点」から「面」へ、「ハード」から「ソフト」へ、「官」から「民」へ、「国内」と「国外」の融合へ。

そんな転換が求められている。

日本の「津津浦浦」の魅力を、持続可能な形で発信し続けることが重要だ。

そのためには、地域の主体性、民間企業の創意工夫、官民連携によるイノベーションが欠かせない。

日本の観光産業は、大きな転換点を迎えている。

コロナ禍という危機を、新たな飛躍のチャンスに変えていかなければならない。

世界に誇れる「サステナブル・ツーリズム先進国」を目指し、日本の「津津浦浦」の魅力を世界に発信し続けよう。

それが、ポストコロナ時代の日本のインバウンド戦略の指針となるはずだ。

まとめ

日本のインバウンド需要は、この10年で大きく変化した。

2013年には約1,036万人だった訪日外国人数は、2019年には約3,188万人にまで増加。

わずか6年で、3倍以上に増えたのだ。

背景には、政府の観光施策があった。

ビザの緩和、消費税免税制度の拡充、LCCの就航など、様々な施策が功を奏した。

中国、韓国、台湾、香港からの観光客が大半を占め、アジア4カ国・地域で全体の77%を占めるまでになった。

訪日外国人消費額も、2013年の約1兆4,167億円から、2019年には約4兆8,135億円にまで増加。

「爆買い」と呼ばれる旺盛な消費が、日本経済を支えた。

ところが、2020年に入ると、新型コロナウイルスの感染拡大により、状況は一変する。

訪日外国人数は大幅に減少し、2020年は約411万人、2021年は約25万人にまで落ち込んだ。

インバウンド需要は、ほぼ消滅したと言っていい状況だった。

コロナ禍は、インバウンド需要に大きな打撃を与えたが、同時に、観光のあり方を根本から問い直す契機にもなった。

「量」から「質」へ。

「外」から「内」へ。

そんな新たな観光の形が模索され始めたのだ。

2022年に入ると、インバウンド需要にも回復の兆しが見え始めた。

10月の入国制限緩和により、訪日外国人数は大きく増加。

2022年の訪日外国人数は、前年比1,376%増の約369万人となった。

訪日外国人消費額も、前年比273%増の約1兆8,836億円に達した。

ただし、コロナ前の水準に戻るには、まだ時間がかかりそうだ。

完全な回復には、2024年以降になるとの見方が多い。

ポストコロナ時代の日本のインバウンド戦略は、どうあるべきか。

「量」から「質」へ、「点」から「面」へ、「ハード」から「ソフト」へ、「官」から「民」へ、「国内」と「国外」の融合へ。

そんな転換が求められている。

日本の「津津浦浦」の魅力を、持続可能な形で発信し続けることが重要だ。

世界に誇れる「サステナブル・ツーリズム先進国」を目指し、新たな飛躍を遂げよう。


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株式会社stakは機能拡張・モジュール型IoTデバイス「stak(すたっく)」の企画開発・販売・運営をしている会社。 そのCEOである植田 振一郎のハッタリと嘘の狭間にある本音を届けます。