顧客体験を追求したD2CブランドHEAVEN Japanの挑戦。Shopify Flowを活用したCRM戦略
HEAVEN Japanとは?
ー まずはHEAVEN Japanの事業について教えてください。
創業者の松田は元トラックの運転手で、ヤフーオークションから小売販売をスタートしたのが事業の始まりです。当時、雇用していたアルバイトの給与が出せないほど売上が少なかったので、トラックの運転手と並行しながら下着販売を続けていました。
転機は自社商品の販売がスタートした頃でしょうか。ユニークなネーミングの商品が話題を集め、ECモールでの売上が大きく伸びました。また、下着のECサイトで返品・交換を無料で実施したのはHEAVEN Japanが初めてです。
小売・卸といった流通が色濃く残る下着業界で、企画・開発から情報発信・販売・出荷・顧客サポートまで一貫して自社で取り組む、いわゆるD2C企業です。商品の生産はもちろん、ピッキング・梱包まで自社で実施しております。そしてここ数年、特に力を入れているのがIT・EC関連ですね。
今後は自分たちの強みを活かした「下着販売事業」「メディアPR事業」「マーケティングDX事業」の三本柱をメインに展開していく方針です。
ー DXチームを内製している意義や教育・行政との提携などについて教えてください。
DXの部分を内製化している企業はそもそも非常に少ないのですが、実際の事業では、販売×DXのように、2つ以上の領域を掛け合わさないと仕組みとして上手くいかない事が多いのではないかと思います。そのように内製できる企業が少ない状況であるなら、本気で取り組んで一番を取りにいくべきだと考えています。もちろん外注が悪だと言う訳ではないのですが、特に小売とデジタルのように共通言語が少ない領域においてはコミュニケーションに齟齬が生まれやすく、スピード感が遅くなりがちです。我々の仕事はいかに早くお客様の声を商品に反映させるかが重要なので、スピード感は大事にしていきたいのです。その意味でも、我々EC運営側からすると、開発部隊を内製していることは非常にメリットが大きい。事前に作業の目的も共有していますから仕事がスピーディーに進みます。
教育機関との提携に関しては、学生インターンを積極的に採用しており、(大阪公立大学など)大学院生・研究員生から、私(今川)の母校である専門学校の学生も募っております。とにかく優秀な人材が多いのですが、学生側の課題としては、技術はあるが活用方法がわからない点にありますので、それを企業側が担保する事で双方にメリットが生まれます。
当初は学校側にそのような制度がないケースもありましたので、校長と相談しつつ仕組みを作りました。学校側は採用の促進を、企業は人材獲得と育成を、学生は技術の向上と就職先の確保という三方よしの取り組みになっています。実は弊社でのインターン時に学生がShopifyアプリを制作した事例もあるんですよ。
今では人員を確保するルートが固まってきましたので、安定的に人材獲得と育成が進んでいます。私がShopifyの技術を開拓し、それを学生たちにパスし、若い世代が広げてくれるという好循環が生まれています。
ー 「読み物」の運用がある中でnoteの狙いは何でしょうか?
note自体は企業の活動履歴のようなもので、エンドユーザー向けの読み物とは明確に違う内容で執筆しております。HEAVEN Japanのブランドとしての取り組みや、EC・DX関連の施策事例などですね。今後「メディアPR」「マーケティングDX」といった新規事業を拡大していくための布石にもなります。
ー そもそもShopifyにリニューアルした理由は?
将来的に海外展開を視野に入れたときに最適なプラットフォームであるという点と、高い柔軟性が選定の理由です。これだけ詳細に技術ドキュメントがあるチャネルは他にはありません。また、Shopifyは数多くのAPIを公開しており、他サービスとの連携も早い。SNS一つとっても各サービスとの連携アプリが存在します。これらの動きが、技術に特化するという弊社の思想とも合致します。
ー 会員プログラムの導入背景やアプリ選定の基準を教えてください。
以前からECのポイント機能は重視していたのですが、顧客のロイヤルティを高めることの重要性が以前より高くなってきたというのが最大の要因です。例えば、WEB広告を使ってCPAやROASで採算を取ろうと思うと非常にハードルが高い。理由としては、マーケットが縮小し、顧客が広告慣れしているからですが、対策するには顧客1人1人の深さが必要になります。
Shopifyアプリでポイント機能を提供しているサービスは複数ありますが、その中で2つまで絞り込みました。そこからVIPに決めた要因としては、サポートが迅速かつ丁寧、という点です。これは本来の意味で「カスタマーサクセス」になっていると感じました。導入後でも進行が滞っていると担当者が迅速に手厚いサポートをしてくれます。「顧客と真摯に向き合ってくれている」という姿勢を感じ、共に相談し共に良いサービスを作っていける、2人3脚で事業を進めていけると確信しました。
VIP創業者(Stack代表の福田)の考え方に触れた際も、「優れたサービスの開発が期待できる」と感じました。Stack社としての活動が面白く、Appify・VIPの機能が更に拡張され、改善されていく未来が見えました。
ー これらのサービスを運用するためのECチームの人員はどのような構成でしょうか?
ECチームとしては計7人。マーケティングDXまで含めるとトータル14人が在籍しています。EC運営は基本的にチャネルで分担しておりまして、自社ECサイトで4人・モールで3人という体制ですね。(モールは楽天・ヤフー・Amazon・ZOZOで展開)各チャネルごとに更新作業1人、施策立案・企画1人、広告・情報発信1人、運用管理1人というイメージになります。
ー 直近で実施した施策の背景、内容、効果をいくつか教えてください。
社内でFTV(Fはファミリー・フレンドを指します。)という独自の指標を設けております。
この指標の意味は、1人が商品に満足すれば、紹介が生まれる。その流れをより多く作っていきたい。目先の売上・利益を狙うのではなく、計測の範囲を広げてさらに深さを作ることが目的です。
具体的にどうFTVを高めるか?ですが、Shopify Flowを活用して、自動的に顧客データを巡回。データに変化があればそれを察知して、自動でアクションが実行されるという仕組みを構築しています。もちろん、変化に応じたアクションはあらかじめ設定しておく必要がありますが、顧客の購買データの変化に応じて自動的にアプローチを変える施策になりますね。Shopify FlowとVIP、CRM PLUS on LINEを活用する事でこれが実現しました。
例えばですが、購入して180日間経過した顧客には特定のLINEメッセージを配信してプッシュする、といった施策もあります。ポイントを少し付与し、有効期限も短く設定して顧客の離反を防ぐ、という内容です。
また、VIPのクーポン機能で新規購入の方のみが使えるクーポン施策も実施しています。新規購入の判定が意外と難しく、「過去、購入には至ったが返品されたお客様」は、次回購入の際は新規扱いにしなければなりません。また弊社の場合、カタログ請求はカート機能を活用しておりますので、カタログ請求された方を新規購入に含めないようにする必要があります。それらの履歴をメタフィールドに格納されるようにしておき、反映したデータで新規購入を判定し、VIPのクーポンを配信しています。
CRM施策
ー 今川さんが考えるCRMとは具体的にどのようなものでしょうか?また、施策検討時の思考プロセスを教えてください。
今やCRMはどこでも語られていますが、大体はサービスを導入してそれで終わり、というような会社が多い印象があります。そのような対応だと結果は出ませんし費用も嵩みます。また無理にサービスを導入せずともShopfiyの従来の機能とアプリだけでCRMは強化できます。
重要なのは「その購買データを活用して何をするのか?」や「それ以外のデータをどう収集するのか?」が施策検討の際の切り口になっています。また弊社で以前にCX調査を実施しましたが、1割弱のお客様にご返答いただきました。そこに対応していくだけで施策立案につながりますし、その間にまた新たな課題が生まれますので、常に施策の切り口が生み出される循環になっています。
ー これらの様々な施策に対する効果測定はどのようにしているのでしょうか?
実行した施策はメタフィールドにデータが格納されるようにカスタマイズしていまして、社内の誰もがこの情報に簡単にアクセスできるよう設計しています。これも社内にDXチームが内製されていることの恩恵の一つです。GA4やBigQueryを活用しての計測は属人的になり、運用コストが上がるので、より簡単にデータが出せる仕組みが望ましいという判断をしました。
Shopify Flowの活用はアクションの軸で語られることが多いですが、弊社では測定するところまでがFlowの運用だと考えています。お金を払っても得られないデータが、Shopify Flowを活用するだけで取得できるケースがたくさんありますから。
ー フィッティングサービス・サロンが新規獲得の入口として重要だと感じますが、そこへの集客施策で成功しているものはありますか。
弊社の課題としては、新規顧客をさらに獲得していくため「スマイルリレープログラム」という施策を実施しました。
いわゆる、お友達紹介キャンペーンですが、こちらもFTVの思想から始まった施策です。弊社で一番重視しているのはCX(顧客体験)であり、良い商品・良いサービスができているので口コミが広がっています。そこからサロンへの集客にもつながりますので、それを増幅する施策としてスマイルリレープログラムを用意しました。
サロンも同様の思想で運営していますから、スタッフには「店舗では売らなくて良い」と話しています。体験価値を最優先にして取り組んだところ、お客様がスタッフのファンになり、再来店につながっています。ロイヤリティの高いお客様は、わざわざスタッフにお菓子やプレゼントを持って来店してくださったりと、良いサービスを提供していることがそのような行動になって返ってきているものと思います。
このスマイルリレープログラムだけでも5ヶ月で350人は新規顧客の獲得を実現できております。
これから展開する新規事業の話
ー COOとして、今後会社をどのような方向で成長させていきたいですか?
先述しました通り、3本の事業を走らせようと計画しています。下着の販売事業だけでなく、我々が強みをしているメディアPR事業やデジタル・マーケティングDXで顧客体験の価値を上げている会社として知ってほしいですね。Shopify Flowの取り組みはその一つの要素でもあります。
大局的にはエコシステムを提供できるようになりたいです。Shopifyのアプリ開発会社もその思想で開発を進めた方が良いと考えています。弊社で取り組んでいるように、アプリに頼らずともShopify Flowを活用すればできることは非常に多いためFlowで実行できるものはそっちに任せる。アプリ開発もそれを前提でやるべきなんです。そうすれば人的・金銭的コストも削減できます。近い将来にはそのようなことが提供できる会社に成長させたいですね。
ー Stackに期待していることなどあればお願いします。
あらゆる施策はShopify Flowの活用を前提で考えています。なので弊社ではトリガーとアクションの提供がないとエコシステムが作れないし、そもそも導入の選択肢に乗りません。Stack社には、お客様との関係性を強化するために使えるトリガーとアクションをどんどん開発して欲しいと思っております。
また我々はアプリ開発に着手したことがないので、そのノウハウを教えてほしいですね。現在、特許申請中の自社開発のアプリがありますので。Appifyの導入も現在検討していますので、運用事例・tipsをたくさん教えて欲しいです。細かいところでは、VIPの顧客データにて誕生日はタグじゃなくてメタフィールドで持ってほしいです。
編集後記
インタビューに際して下着業界の方に様々なお話を伺いましたが、HEAVEN Japanという存在は同業他社でも異質なイメージがあるようで、
「自社で商品を生産している会社なのに、小売への投資が凄い」
「事業会社なのにWEBの取り組みが複雑」
と耳にします。COOの今川さんがお話されるように、「2つ以上の領域を掛け合わせる」ことがそれを実現しているのですが、言葉では簡単に表現できたとしても実現するのは非常に困難であると感じます。どの業界でもエンジニアリングとビジネスの両立は課題になりやすいものですが、当事者の不断の努力と積み重ねがなければ実現できないものだなと。
何がその行動に駆り立てるのか?どうすれば同じような結果を得ることができるのか?事業の再現性について考えを巡らせるのがビジネスマンの習性ではありますが、結局それら全ての出発点は「お客様の体験価値向上」であり、WEBサービスはそれを構成する部品なのだと、膨大に膨れ上がったShopiy Flowのワークフローを見てそんなことを考えさせられました。
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Stackについて
Stack Inc.は、SaaS型小売基幹システム「SQ」と、Shopify機能拡張の提供を行っております。2021年4月にブランドがモバイルアプリを構築・運用できる「Appify」を、2021年10月にブランドがロイヤリティープログラムを展開できる「VIP」を正式にサービス公開し、機能の改善・拡大を続けてきました。今ではStackが提供するサービスは200以上のマーチャントで導入されています。