スニーカーの先へ。 UNIONが仕掛けるコミュニティマーケティング
インタビュイー
トレンドの変化とUNIONの対応
ー 店頭回帰のトレンドですが、ECと店頭の比率に変動はありますか?
田中:市場動向と同様、影響はありました。年単位では5〜10%くらいで店舗売上が増加しています。(店舗増加があった為、東京だけで比較しています。)2年前からですと、15%くらいは店頭の比率が上がっていて、大きな市場の変化を感じています。
ー 市場の変化に伴い、ECチーム主導でどのような施策を実施したのでしょうか?
田中:基本的には、店舗のお客様を積極的にオンラインに送客していません。ブランドとしての考え方は、お客様の希望する販路でお買い上げ頂く事ですから。また、店舗は直接的な接客が出来る場なので、EC含め再度ご利用いただける可能性が高いです。ですから、EC比率は重要なKPIとして捉えていません。
ー スニーカーブームの落ち着きによる売上の影響はありましたか?
田中:多少なりとも売上には影響がありましたね。こちらが仕入れるスニーカーのオーダー点数もトレンドに応じて抑制しています。その分、衣料品やアクセサリーのオーダー比率を上げています。スニーカーは以前は在庫を縦積みできたのですが、それができなくなりましたので、ブランド当初から人気のプリントのカットソーなどを中心に増やしています。UNIONはストリートウエアとハイブランドいずれにも偏らずミックスした提案が元来の在り方のブティックなので極めて自然な流れと言えます。
アプリデザインやメンバーシップの変化
ー 2024年に入りメンバーシップをリニューアルしました。この変更理由について教えてください。
田中:こちらも理由は同様で、商品ニーズのバランスがスニーカー以外に増えて多様化してきているからです。会員特典は基本的に、スニーカーを中心としたヒート商材向けに設計されていました。それを「セレクトブランドやプライベートブランド」が好きな方へ向けたセレクトショップ元来の内容に変更しています。例えば、ボーナスチケットを特典(SILVERランク以上)として付けたり、ポイントの貯め方をイベント参加・店舗チェックインでも付くようにしたり。ポイントの付与も100円で1ポイントに変更しています。
ー 顧客の反応と行動の変化はどうでしたか?メンバーシップに関連する取り組みで上手くいったものなどあれば教えてください。
田中:メンバーシップの変更後、顧客全体の10%程度の方にボーナスチケットをご活用頂いております。まだまだメンバーシップの認知獲得には伸び代がありますので、サイト内ポップアップやメルマガ内の目につきやすい箇所に常に掲載するなど更に周知を徹底していきたいと考えています。
今後は「ランクを上げてヒート商材の当選確率を上げる」だけでなく、サービス・特典の利用率にも焦点を当てていきたいと考えています。
ー アプリデザインが大きく変更されましたが、その狙いについて教えてください。
こちらも理由は同様ですね。商品ニーズのバランスがスニーカー以外に増えて多様化してきている顧客の変化によるもので、それに合わせて訴求内容を変えています。引き続きコンテンツマーケティングを主軸としているので、スニーカー以外の発信も強化する為、ホーム画面には今プッシュしたい記事コンテンツのみ掲載しています。プッシュ通知の件名も、それに合わせて変更しています。
UNIONのユニークなコンテンツとCRM
ー UNIONから発信されるFEATURESは、コラボや企画、アイテムの特集など多岐に渡ります。いずれも濃い内容を発信されていますが、どのように作成・運営しているのでしょうか。
田中:FEATURESはマーケティングチーム主導で運用しています。例えば、近隣のスポットを中心に紹介する記事コンテンツは、発信する事で新規獲得や店舗集客につながるというデータが取れているので、定量的に判断してコンテンツの切り口を決めています。
また、ブログページに関してはショップ開設当初からオウンドメディアとしての位置付けでした。商品情報に偏った情報をお客様に発信すると他社と同じ内容になってしまいかねません。だからこそ、記事コンテンツの内容で差別化しています。
記事の切り口となる「食」や「アート/音楽/ムービー等のカルチャー」の選定は、当ブランドのターゲット層が求めるものをカテゴリー分けした結果、作成しております。切り口を選定するために、既存のお客様や新規の潜在的なお客様とのコミュニケーションを、店頭イベントを起点として測定しています。
また、記事の内容がUNIONのカルチャーと通ずるものがあるか?という視点も重視し、意識的に更新しています。コンテンツの評価軸ではセッション数やIGのポストに対するUGCなどを設けていますが、全てが数字で表せるものではありません。あくまで参考値として見つつ、尖らせる事を忘れない。お客様が心地よく感じる距離感を保ちつつ更新したいですね。
ー コンテンツ発信の際、CRMの観点で意識していることなどあれば教えてください。
田中:先述しました通り、顧客ニーズを測る為にも定期的にフィジカルなイベントは開催しています。更新する予定の記事コンテンツがニーズに合うようなお客様をターゲットに、徹底的に発信して集客しています。
また、発信の際はチャネルトークでも顧客をセグメントして発信しています。(Shopify上の顧客タグを同期させている)当然ながら、メールマガジンやモバイルアプリのプッシュ通知もセグメントしています。
ざっくりと決めているのは、全体に送る内容はライトユーザーにも刺さる、皆様が欲しい内容。より濃い内容になるとセグメント配信、というルールです。
セグメントは主に「購入された商品」で分けています。大きな分類は5つくらいですね。例えば、1人のお客様が5つの分類でそれぞれ何%程度買っているか?を測り、分類するといったイメージです。この分類が「なぜその商品をご購入頂けるのか?」を理解するのにとても役立っています。今一番知りたいのは、UNIONオリジナルを強化する際にどの属性の人がそれを広めてくれるのか?という事ですね。
ー 店舗近隣のカレーショップを巡るユニークな仕掛けを今夏実施されていました。施策の内容と実施背景について教えてください。
田中:スタンプラリーはCRMチームの起案なのですが、理由としては「お客様との接点が生まれるから」ですね。カレーを選んだのも、実は神宮前は神保町・お茶の水に負けず劣らずのカレー激戦区なんです。お昼に行列ができているのを見た事がある人は多いのではないでしょうか。当社のスタッフもよく行っておりますので社内でも有名なんです(笑)
元々は「Tシャツを販売する」というだけのイベントだったのですが、それだけじゃ面白くないという事でスタンプラリーの案が出てきました。そのスタンプラリーの内容を決める際に、「何か活かせないか?」と考えた結果、既に人気のカレーショップ様に協力を頂こうとなったのが経緯です。
と言いますのも、既存のお客様は食に関してとても興味関心が強く、立地とお客様のニーズを活かそうと思うと最適だったのです。そのような流れで、カレー屋さんのスタンプラリーを追加し、スタンプラリーを集め切ったら非売品の限定アイテムがもらえる。という風に変わっていきました。
ー もし具体的な効果などあれば教えてください。
田中:想定していたよりも2〜3倍は参加者が多く驚いています。嬉しい事に新規の方がかなりの数、参加されまして、アプリDL・会員登録数が大きく伸びています。面白いデータでは、サイズをヒアリングした際に大きい人が多いんです。このような事から、新しい顧客のターゲット像が見えてくるのはとても面白いですね。
Stackへの期待と要望
ー StackやAppify・VIPに期待していることなどあれば教えてください。
田中:事業者側の努力次第ではあるのですが、様々な施策を実施した際、数値として見えづらいものが多いので、もっと効果測定できる切り口や機能があると嬉しいですね。施策の実行と、売上・お客様の増加の相関は見ているのですが、確証が取れない事の方が多いです。一部ですが、Stackさんとサービス提携しているEC Powerの機能は効果検証にとても役に立っています。
また、モバイルアプリのデザインを自由度高くカスタマイズしたいです。マイページの会員証などはデザインが決まっているので、バックグラウンドのカラーの変更を柔軟にしたりと、出来ればオリジナルのデザインにしたいですね。
編集後記
ファッション・アパレルビジネスにおいては、しばしば「定性」と「定量」の調和が鍵を握ると言われています。特にストリートカルチャーを背景に持つブランドは、その独自性ゆえに「定性」に偏りがちだと捉えられがちです。
しかし、UNIONではコンテンツの内容や切り口をクリエイティブな視点で提案しつつ、セグメンテーションやターゲティング、発信、そして検証は緻密なデータドリブンなアプローチで実施しています。
感性が過度に前面に出るとエッジは効いても効率が犠牲になり、反対に数字に囚われすぎると、魅力が薄れてしまう。この微妙なバランスこそが、アパレルビジネス、さらに言えばECビジネスの核心である、そして今後のEC運用における鍵となるお話だと感じた次第です。
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Stackについて
Stack Inc.は、SaaS型小売基幹システム「SQ」と、Shopify機能拡張の提供を行っております。2021年4月にブランドがモバイルアプリを構築・運用できる「Appify」を、2021年10月にブランドがロイヤリティープログラムを展開できる「VIP」を正式にサービス公開し、機能の改善・拡大を続けてきました。今ではStackが提供するサービスは200以上のマーチャントで導入されています。