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小説

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文章の練習のために小説を執筆しています。主に空想ですが、ところどころ実体験も混ざっています。
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#男と女

危険な背中

女はBARの中央にある木製のテーブルの前にひとりで座り、こちらに背を向けていた。 周囲には客はおらず、女だけがポツンと太平洋にうかぶ小島のように、いた。その様子を店の1番奥の席から眺めていた。 肩まである黒い艶のある髪。細身の身体に、分厚く品質のよい生地で作られた黒いワンピース。黒いパンティストッキングから肌が透けている。女が座るには苦労しそうな、背の高いイスに腰掛け、組んでいる足先が浮いている。足首の細さを際立てる、ハイヒールの赤い裏地がみえた。 女はテーブルに広げて

女は真夜中に”あの男”を思う

深夜2時、私は明かりをつけずにリビングのソファーにひざを抱えて座っていた。 窓の向こうに見える静まりかえった街。漆黒の暗闇に包まれて、いっそのこと、このまま黒い渦に飲み込まれて消えてしまいたかった。 レースカーテンの間を縫うように、月明かりだけが部屋を照らしていた。 “あの男”から贈られた背の高い、名前もわからない観葉植物の表面が、ぬめるようにイヤらしく光沢を放っていた。 ソファーの背もたれに深く身体を沈ませながら、遠い過去の記憶にふける。 幸せな恋愛でもないにも関