女は真夜中に”あの男”を思う
深夜2時、私は明かりをつけずにリビングのソファーにひざを抱えて座っていた。
窓の向こうに見える静まりかえった街。漆黒の暗闇に包まれて、いっそのこと、このまま黒い渦に飲み込まれて消えてしまいたかった。
レースカーテンの間を縫うように、月明かりだけが部屋を照らしていた。
“あの男”から贈られた背の高い、名前もわからない観葉植物の表面が、ぬめるようにイヤらしく光沢を放っていた。
ソファーの背もたれに深く身体を沈ませながら、遠い過去の記憶にふける。
幸せな恋愛でもないにも関わらず、恋に恋をして”あの男”から離れられずにいた過去の自分。恋愛をすれば、こんな自分は変われるのではないか。誰かに愛されれば、たとえそれが本当の愛ではなくても、愛されていると感じられれば、つまらない人生が変わるのではないか。
恋愛という男女の行為。そしてあの男に期待していた昔の自分を思うと、胸をキツく摘まれた気分になった。
でも、それができたのも、きっと若いあの頃だけ。私は、もう若いとは言えない年齢になってしまった。
目の前にある50インチの液晶テレビが月明かりに照らされて、鏡のようになっていた。膝を抱え、ソファーの背もたれにうなだれているように沈んでいる自分が写っているのに気がつき、我に返った。
ベランダに出て、新鮮な空気を吸った。空を染める黒い粒子ごと胸いっぱいに吸いこみ、静かに吐いた。
両ヒジを柵の上に置いて頬杖をつき、夜空をみあげる。灰色の雲の間から星がちらつき、三日月が小さな家々や、所々にある高い建物を無言で照らしていた。
それらを見つめながらポケットからタバコを取り出し、100円ショップで買ったライターで火花を散らしながら火をつけた。「もう若いとは言えない」と思うなら、こんな悪癖もやめなければならないのに、染みついた習慣はそう簡単にはなくせない。
脳裏に”あの男”がタバコを吸う光景がよぎった。
長い指は節くれだっている。爪は短く切られ、鋭さがなく磨かれている。流れるように動かしながら、小慣れた手つきで、ちょうど今の私のように気だるくタバコを吸っていた。そのタバコの煙が残る指で、髪を撫でられるのが好きだった。
記憶を通して、”あの男”の仕草にまた惹かれる私がいた。
過ぎ去った男。恥ずかしくて覆いたくなるような幼い自分が、夜空に浮かぶような気がした。
亡霊のように浮かんだ過去を吹き消すように、夜空にむかって煙を吐いた。
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