
終わらない歌を歌おう
生きているうちに見るねん、天国と地獄は。
私に何ができるのか。それだけを必死に考えた。
いつも助けられてばかりだから、救われてばかりだから、せめて君が今晩、心穏やかに眠れるように。
不在着信が一件。
なんとなく、本当になんとなく、良くない予感がした。
そんな私の不安が杞憂であるようにと、心の中で何度も唱えながら、私は折り返しの電話をした。
電話の向こう側で涙を流し、言葉を詰まらせながら必死に話す君。
愛犬の訃報だった。
「少しだけ会える?」なんて君が聞くから、馬鹿なことを聞くなって、そう思ったよ。
きっと誰より辛いはずなのに、死にたくなるほど苦しいはずなのに、私の身体を気遣いながら「お疲れさま」って、優しい声で君はそう言った。
そんな彼のことを、いったい誰が冷たいなどと言えるのだろうか。
そんな彼のことを、いったい誰が揶揄できるというのだろうか。
こんな夜に限って、近所の公園はいつもより騒がしかった。
彼が愛犬との記憶を辿りながら、この上ないくらいに幸せそうな顔で話をするから、私まで涙が止まらなくなって、どうにもこうにも収拾がつかなくなった。
ごめんね、泣き虫で。
君に愛される対象は、みんな幸せだろうなあ。
話を聞きながら、心底そう思った。
底なしの愛に16年間触れ続けた君の愛犬は、きっと心安らかに眠られるだろうね。羨ましい。
人は愛される経験を経て、愛することを学ぶ。
君は人に愛を与えられる人間だよ。
愛されてくれて、ありがとう。
愛してくれて、ありがとう。
「俺が一番先に死ぬから」って君が言うから「私が先に死ぬもん」なんて言って、くだらない争いをした。
死を受け入れるには、私たちはまだ幼すぎるけれど、与えられた愛を受け止めて、また与えることならきっと、できるはず。
帰り道、別れ際の交差点で君が「ごめん、いや違う、ありがとう」って言って、少し涙ぐみながら微笑むから、私は「どういたしまして」って言って、微笑み返した。
欲しい言葉をくれて、ありがとう。
君へ
もし世界が明日終わるとしても、私は君と過ごしたこれまでをきっと、いつの日も忘れない。
君が与えてくれた愛を、もっともっと大きな愛に変えて、この先もずっと与え続けるよ。
例えば、世界中が君を無慈悲な人間だと罵ったとしても、私は君を人格者だと世界に主張し続ける。
君を裏切らないし、君より先には死なない。
この先もたくさんの愛に触れて、たくさん泣いて、たくさん笑って、たくさん罵り合って、たくさんの幸せを共有して、そうやって生きていこうね。
大丈夫。明日にはきっと、また笑えるよ。
それでは。