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もう一度ゲームをやらなイカ

先月、NintendoSwitch『スプラトゥーン3』が発売して1周年を迎えてしまった。

なぜ「しまった」なのかというと、私はここ5、6年ほどずっとスプラトゥーンシリーズの購入を迷っており、3が発売されるまでには決断しようと思っていたにも関わらず、結局できないまま今に至るからだ。

私がこのような境地にある経緯を説明するための前置きとして、ゲームにまつわる私の自伝を紐解きたいと思うのだが、さほど面白くもないし微妙に長いので読み飛ばしてもらって構わない。

子どもの頃、私は親の顔よりゲーム画面を見ている時間の方が長いのではないかというほど、筋金入りのゲーム廃人だった。

休日は朝6時からゲームをプレイし、もらったお小遣いはほとんどゲームソフトや攻略本に使い、学校の宿題はゲームのロード中にすませるという、今考えるととんでもない毎日を過ごしていた。

そんな退廃的な少女時代を送っていた私だが、高校進学のため実家を離れたのをきっかけに少しずつゲームから遠ざかっていった。

あれほどのめり込んでいたゲームだったのに、ひとたび距離を置けばとたんに興味を失っていくから不思議なものである。

実家に帰省した時に気まぐれでプレイすることはあったものの、大学を卒業してからは日々の生活で忙しく、休日も人付き合いやら家事やらで一日が終わり、全くゲームに触れることがなくなった。

そうして私はついに、親の手より握ったコントローラーを手放したのだった。

さて、ようやくスプラトゥーンの話に戻るが、初代のスプラトゥーンが発売したのは、ちょうど我が家の次男が産まれた年だった。

その頃の私は、現行のプレステが4なのか5なのかもわからないほどにゲームに対して無頓着になっていたが、そんな私でもスプラトゥーンという名前はなんとなく聞いたことがあった。

インクを使ったシューティングバトルという斬新なゲーム性、魅力的な世界観やキャラクターデザイン、子どもの頃の私だったら夢中になっていただろう。

しかし、母親である私は2歳の長男と生まれたばかりの次男の世話でいっぱいいっぱいで、ゲームをする余裕など全くなかった。

スプラトゥーンのプレイヤー達がシューターで敵を撃ち、フィールドにインクを塗りまくる熱いバトルを繰り広げている一方で、私は子どもの腕に予防接種を打ち、子どもの肌に保湿剤を塗りまくる生活を送っていたのである。

次男が幼稚園に行くようになると、私は少しずつ自分に目を向けることができるようになってきていた。

スキマ時間で手軽に楽しめることがしたい、そう思った時に頭に浮かんだのは、大好きだったゲームの存在、そして2が発売され、すっかり任天堂の看板ゲームとなっていたスプラトゥーンだった。

しかし、もう十年近くゲームをしていないのに最近のゲームについていけるのか、下手すぎて楽しめないんじゃないかという気持ちも同時に湧いてきた。

別についていけなかろうが下手だろうが自分のペースで楽しめばいいのだが、元ゲーム廃人としてのプライドがそれを拒んだ。

加えて及び腰に拍車をかけたのは、スプラトゥーンがオンラインゲームということである。

オンラインゲーム未経験の私にとってそれは、相手とのトラブルが起こる、生活がゲームに侵食され名実ともに廃人になるなど、ネガティブなイメージが強い。

謎のプライドとオンラインゲームへの偏見という老害に足を引っ張られて逡巡し、結果ずっとスプラトゥーンを買う機会を逃し続けているのである。

ところが、事態は急展開を迎える。

なんと長男がお小遣いでスプラトゥーン3を買うと言い出したのだ。友達に一緒にやろうと誘われたからという単純かつ軽率な理由で、貯めていたお小遣いを放出しようというのだから驚きである。

「いろんな武器があって、それでインクをたくさん塗った方が勝ちなんだって」と目を輝かせながら話す彼にあるのは、ただやったことのないゲームへの期待感のみだった。

そんな長男を見ていると、自分が今までこだわっていたことが、なんだかものすごくつまらないことのように感じた。

私も子どもの頃は、何も考えず、ただゲームをすることを楽しんでいた。

今の私は、もっともらしくやらない理由を並べたてて、自分で楽しいことの選択肢を狭めているだけだ。細かいことは考えず、長男のように単純かつ軽率に、やるだけやってみてもいいんじゃないか。

楽しいことに対してためらいのない長男を目の当たりにして、ようやくそう思えたのである。

そんなわけで、結局スプラトゥーン3は私と長男で折半して買うことになり、つい先日我が家に現物が届いた。

長年想い続けてきたゲームを目の前にし、私の鼓動は高鳴る。

あとは手放したコントローラーをもう一度握るだけ。昔握っていたコントローラーとボタンの数も握り方も全く違うが、このワクワク感の前では些細なことである。

初代スプラトゥーンが発売した頃、ゲームを気にする暇もなく育ててきた子がきっかけでもう一度ゲームをすることになるなんて、当時の私は夢にも思わなかっただろう。

あの頃からだいぶ時間は経ってしまったが、今からでも私なりにスプラトゥーンを楽しもうと思う。

予防接種をシューターに、保湿剤をインクに持ち替えて。

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