【ビブリア古書堂の事件手帖】この本は香りがします、風が吹きます
私は田舎も都会も知っています。
今住んでいるのは都会のほうで、田舎というものは、お盆や年末年始に帰るおばあちゃんの家で体験しました。
私のおばあちゃんの家は、山や海と一体化したような場所にあり、自然の中に住まわせていただいている感が強い。
都会と比較して強く主張してくるものはそれだけではなく、
香り、
風、
機械に頼らず自分でなんとかしろよという自助感、
といったあらゆるものをおばあちゃんの家に行けば感じます。
小さい頃からおばあちゃんの家にはよく行っていたので、五感を揺さぶられることが小さな刺激となり、私の心をドキドキさせます。
だからでしょうか、
自分の日常は、緑よりもアスファルトのグレーが多い都会にあったので、何をするにも薄っぺらさを感じていました。
もちろん、大好きな家族、大好きな友人、きついけれどやりがいを感じる仕事など、幸せは都会の中にもあります。
けれど、何かが違う。
ふとあばあちゃんの家を思い出し行きたいなと思ったとき、田舎で感じていたいろいろな''強い主張''を欲するのです。
香り...
風...
自分の足腰を使っているんだ!という感覚。
またあの場所に行くことでしか味わえないと思っていた感覚が、まさか本で体験できるとは思ってもいませんでした。
そう、
三上延さんの「ビブリア古書堂の事件手帖~栞子さんと謎めく日常~」
※ネタバレ避けます
古本屋を父から継いだ栞子が、字が読めない新人アルバイトの大輔と本にまつわる事件を解決していくお話し。
人と会話をするのが苦手な栞子ですが、本の話になると人が変わったように自信たっぷりに語りだす、そんなユーモアがたっぷり詰まった本でもあります。
もちろん、いろいろな本が登場し、ミステリー要素がたっぷり詰まった本作ですが、この本の魅力はなんといっても「読んでいて風を感じる」のです。
舞台は、都会でもなければ田舎でもないごく普通の街並みです。
自然いっぱいなんていう描写もありません。
ただ、栞子と大輔の会話の中に動きがあり、私たち読者の五感は、今本を読んでいるという現実ではなく、手に持つ本に書かれた文字の奥にある世界を''リアル''に感じられるのです。
栞子の髪が揺れる...
ページをめくる音...
本の可能性を広げてくれる、そんな一冊です。