二重国籍と憲法の国民主権主義

「二重国籍」疑惑があった人が都知事選に立候補している。この人が長らく国会議員をしていてその間、繰り返し蒸し返されたが、いつもうやむやに終わってしまった感がある。もう終わったことだから不問にすべきと主張する声もある。
だがどう終わったのか、その説明をどれだけの国民が納得しているのか。

その候補者はいわゆる”護憲派”に属するようだから、余計に気になる。
憲法は「日本国民は、正当に選挙された国家における代表者を通じて行動し…」(憲法の冒頭第一文)となっている。この文章はどの角度から読んでも、「国会議員は日本国民の中から日本国民による選挙で選ばれる」ということだ。立候補できるのも投票するのも日本人(日本国籍者)ということだ。

「二重国籍のうちの一つの一つが日本国籍であれば問題ないだろう」と当人や周辺は思っていたのだろうか。
たしかにそういう理屈はある。そこで法制度がどうなっているか。国籍は憲法の10条。そこでは「日本国民たる要件は、法律でこれを定める」となっている。そこで国籍法を見る。バラッと見ただけで、国籍法は二重国籍を認めていない。例えば外国籍者が日本に帰化(日本国籍の取得)すると以前の国籍を失う(5条)とか、何らかの事情で多国籍を保有している者は選択しなければならない(14条)など。日本国籍と多国籍を同時に併せ持つことはあり得ないことになっている。
したがって先に挙げた「二重国籍のうちの一つの一つが日本国籍であるのだから問題ないだろう」の主張は成り立たない。
いや成り立たせる方法はある。国籍法を改正して、先の5条とか14条とかを改廃してしまうことだ。そうすれば形式上、二重国籍を保有することができる。

ただしそうした国籍法改正が現行憲法上許されるかの問題は残る。最終的には司法判断(違憲立法審査権)によることになろうが、一国民、主権者として思考実験しておく意味はあるだろう。
すなわち国籍法で二重国籍を認めることが現行憲法上において可能か否か。

かまわないという説は、憲法10条で国籍要件を法律に丸投げしていることを根拠にするだろう。

できないとする説は、現行憲法の国民主権最優先主義を根拠にするだろう。憲法の前文を通読すればわかるが、国民主権を「人類普遍の原理」と徹底ぶりであり、これに反するものは一切排除するとしている。わが国内で専制主義を許さないのは当然として、全世界からそうした勢力を除去してすべての人々を救うとまで宣言している。そして、この目的達成のために「日本国民は国家の名誉をかけて」行動すると前文は結ばれる。
これを敷衍すれば、日本国民の要件は、日本国憲法が定義する民主主義の擁護者、遂行者であることを要求しているのが明確。これを前提にすれば、国籍保有者はその国家に対して忠誠でなければならないという国籍の本来的意味にかんがみても、現行憲法下においては二重国籍は概念的にあり得ない。つまり二重国籍を合法化しようとするならば、おおもとの日本国憲法の趣旨そのものを変えることが前提にならざるを得ないということだ。

”護憲派”ではどういう整理になっているのだろうか。



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