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『デッドライジング』が「最高のゾンビゲームのひとつ」といえる理由

2006年に発売されたゾンビ・パラダイス・アクション『デッドライジング』リマスター版が発売されました(パッケージ版は2024/11/8発売)。

当時遊んだ僕も改めてプレイしたわけですが、やはりこのゲームはゾンビものとして非常に優れているどころか、「最高のゾンビゲームのひとつ」と言える作品だと感じました。

◆ゾンビものに含まれる「恐怖」と「笑い」

飛行機から飛び降りるフランクさん。妙に楽しそうな顔をしていますね。

本作の主人公は、ジャーナリストの「フランク・ウェスト」。なんらかの事件が発生した街「ウィラメッテ」に駆けつけると、そこはゾンビだらけの阿鼻叫喚が繰り広げられていました。

フランクの目的はショッピングモール72時間生き残り、かつこの事件の真相を探ることになります。

オープンワールドではないものの、広いショッピングモールを探索し、さまざまな店の食べ物やアイテムを活用しつつ、生存者を助けながら事件を追っていくことになります。

本作の何が素晴らしいのかといえば、ゾンビものの「恐怖」と「笑い」を両立させているところにあるといえるでしょう。

ゾンビといえば「死体が蘇って怖い」といったイメージもありますが、一方でビデオゲームでは「とにかく殺しても問題ない存在」という意味合いもあり、かつ低予算なゾンビ映画がはびこったこともあってコミカルな存在でもあります。

そもそもゾンビ映画において、アポカリプスで世界が滅びるというのは絶望であると同時に救いでもあります。

『ドーン・オブ・ザ・デッド 』では人がいなくなったショッピングモールで好き勝手に過ごしますし、『28日後…』では生き残るためという建前で店から楽しく盗みを働きます。『ゾンビランド』なんかはゾンビのオタクだからこそ、世界で生き残れるわけです。

『デッドライジング』でも恐怖と笑いが含まれており、これが本当にうまく両立しているのです。

◆ビデオゲームらしい「殺すためにいるゾンビ」でストーリーを成立させる

ゾンビのおもしろ写真を撮るのもフランクさんの仕事のひとつ。

実際、『デッドライジング』におけるゾンビは「倒しまくっていい存在」といえます。

刀でバッサリ真っ二つに斬ったり、なんとなく銃の的にしてみたり、ジャイアントスイングで振り回したりと、まるでおもちゃのような存在です。

同時に、本作ではゾンビの恐怖も描いています。オープニングでは車に乗った親子が襲われるように悲惨なはじまり方を見せますし、そもそもストーリーもシリアスです。

ネタバレになるので詳しくは避けますが、本作ではゾンビを現実の何かにたとえて描いています。こういう手法はゾンビものとして古臭さを感じますが、そういった社会へのメッセージもある作品なわけです。

これをきちんと両立しているのはかなりすごいでしょう。場合によってはシリアスなシーンなのに笑える瞬間を生んでしまったケースもあり、たとえば『28日後…』には「二階から目薬でゾンビ化」なんてシーンがあります。あれは怖さよりもおもしろさが勝りますよね。

『デッドライジング』では、フランクがモツ抜きでゾンビをぶっ殺しつつ、「コブン」の被り物や三角コーンをゾンビにかぶせてゲラゲラ笑っています。同時にシリアスなストーリーも展開しなければならないわけで、なかなかの無理難題といえます。

◆恐怖と笑いを両立させる設定、そしてプレイヤーの行動可能範囲

恐怖と笑いがなぜ両立するのか? 答えは「プレイヤーの手綱を握るのがうまい」からだと考えられます。

ストーリーはあくまでカットシーン主体(基本的に動画で見せる形式)で、「フランクが真実を掴むために行動する」といった部分は決してブレさせません。ここはプレイヤーには介入不可能で、できるとするならばゲームを途中で諦めることくらいのものです。

フランクの「フリーランスのカメラマン(ジャーナリスト)」という設定も絶妙といえます。カメラマンは素晴らしい職業である一方、「ハゲワシと少女」が非難されたように、正視に耐えない場面を撮るダーティーなイメージもあるからです。

もしフランクが正義のヒーローであったのならば、好き勝手に動き回ることがおかしくなりますし、逆に悪人すぎると他人を助けるのが奇妙になってしまいます。

また、実際のゲーム部分ではある程度の自由が保証されているのと、インセンティブの確保がうまくいっているといえます。ショッピングモールがゾンビものらしい、というのは意義がないかと思いますが、これがゲームシステムに非常に噛み合っています(ゾンビの歯型のように!)。

フランクは最初こそ移動も遅いですし、持てるものも少なくて困ります。レベルアップして強くなればどんどん改善されるのですが、そのためにはたくさんの経験値を得るために生存者を助ける必要があるわけです。

もちろん生存者は見殺しにしてもいいのですが、そうしたことによる得はほとんどありませんし、何より経験値が得られるメリットが非常に大きくなっています。

そして、不便な点はショッピングモールを知ることでも解決していきます。

武器・回復アイテムの置いてある場所を理解すれば補給がスムーズにできますし、スケボーが移動に使えると知ればスポーツショップが重要な場所となる。何も武器がなくとも近くのパラソルで強行突破してみたりと、場所を理解することがフランクを助けていくわけです。

『デッドライジング』は確かに無茶苦茶なゲームです。ゾンビだらけになってしまったショッピングモールで、フランクは女装したり子供服を来たりバイクで暴れたりとやりたいほうだい。一方で、根本のストーリー部分は絶対にプレイヤーに委ねません。

スーパーの店長も恐怖と笑い、そして同情すら感じる素晴らしいキャラクターです。日本語吹き替えもかなりグッドでした。

ゲームプレイは自由で笑えるものの、ストーリーはきっちり固定させ恐怖を覚えさせる。かつ、ゲームシステム・設定ともに違和感がないようになっている。

これによって、ゾンビものの「恐怖」と「笑い」を両立させたわけです。もっとも、フランクが変な格好をしているとシリアスな場面が急激にコミカルになったりしますが、逆にいえばプレイヤーが介入できるのはそこまで、という線引きがなされています。

◆ゾンビらしさとは何かを教えてくれる『デッドライジング』

リマスター版はリッカーのスキンがおすすめ。とにかく全場面がおもしろくなります。

ゾンビものとしてのストーリーを成立させつつふざけきったゲームは珍しいですし、これはビデオゲームの特性を活かした作品といえます。最高のゾンビゲームのひとつに数えてよいでしょう。

ミッションに時間制限があり何周もプレイするような仕組みは好みが別れますし(アーケードライクな作りで原作から好き嫌いが別れていました)、リマスター版ならではのいくつかの不具合が散見されるところは問題といえるでしょう。

とはいえ、改めて『デッドライジング』を遊ぶとその見事なバランシングに驚かされます。ゾンビを殺しまくっていい! そしてゾンビを巡るシリアスなストーリーを味わってよい! そんな矛盾しているゾンビらしさを見事に成立させた一作なのですから。

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