G-15より愛をこめて(4)
本記事は2019年12月に川内地区の東北大生協購買店にて無料頒布した冊子「G-15より愛をこめて」のウェブ再録版です。
令和元年に読んでおきたいSF・ミステリ
新しい時代『令和』を迎えた2019 年。SF・推理小説でも多くの新作が世に出された。もうすぐ訪れる年の瀬。読み逃しはないか?
『そして誰も死ななかった』(白井智之、KADOKAWA)
離島に集められた五人の作家達。死体のそばに置かれた『ザビ人形』、五人と繋がりを持つ謎の女性、ある民族の大量死...全員が“死んだ”時、本当の事件が動き出す! 東北大OB作家が描くあの名作のオマージュ。鬼畜ともとれる怒涛の多重解決でストーリーを振り回し、思いもよらない方向へ論理を導く。世界観が歪み過ぎているあまり、隠れされたヒントにきっと誰も気づけ ない。大胆で緻密な推理パートが存分に楽しめる作品。※倫理観を半分ほど捨てて読むことを推奨します。
『なめらかな世界と、その敵』(伴名練、早川書房)
「2010年代、世界でもっともSFを愛した作家」の、はじめてのSF作品集です。作者の伴名練さんは、SFファンの間で知る人ぞ知る作家として有名だった方。とはいえ、作品はSFを知らない方にSFを楽しんでほしいという一心で書かれた作品ですし、SFを知っている人ならばさらに楽しめるものばかり。この2019年に読まれることを期待して書かれた作品「ひかりより速く、ゆるやかに」はものすごい作品です。SFを知り尽くした作家の超絶技巧を、ぜひお楽しみください。
『折りたたみ北京』(ケン・リュウ編、ハヤカワ文庫SF)
世界的な中華SFムーヴメントのきっかけになった記念すべき一冊。この本はケン・リュウが選び抜き、みずから中国語から英語へと翻訳した現代中国SFアンソロジーであり、刊行されたアメリカのみならず、日本でも中国SFブームの火付け役となった。おすすめは、「三体」の一節を短篇化した劉慈欣の「円」という作品。「三体」と読み比べて、中国SFの真の中国らしさを感じてほしい。この作品以外にも、さまざまな形で中国の言語・文化を背景とした作品が並んでいる。
『息吹』(テッド・チャン、早川書房)
現代SF最高の作家、テッド・チャンの第2短篇集がこの『息吹』。チャンは寡作で知られ、30年近いキャリアを持ちながらも作品は短篇17作に留まる。しかしながら、その作品はそのすべてが最高水準の完成度を誇る。そのなかでも特におすすめするのが、表題作「息吹」と「大いなる沈黙」。チャンの魅力は、ものごとを深く理解し、みずからの運命を悟り、受け入れていく過 程にある。そしてそれを支えるのが理性と人類への愛。SF最高峰の作品群をぜひご堪能いただきたい。
『雪が白いとき、かつそのときに限り』(陸秋槎、ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
生徒会長の馮露葵は学園内で噂される5年前の事件について調査を始める。その事件で亡くなった少女の傍には白い雪が降り積もり足跡は残っていなかった...当時のことを知る人々を訪ね、一つの結論を導き出した明くる日、学園内では当時と酷似した状況の殺人事件が起きていた...華文ミステリの新鋭が放つ高純度の青春ミステリ。謎を解くことで得られるものは、“栄光”なのか“痛み”なのか。青春の一幕に、少女達が求めたものを、私達はただ見届けることしかできない。
『嘘と正典』(小川哲、早川書房)
日本SF大賞・山本周五郎賞受賞作家である小川哲さんの、はじめての短篇集です。この本は特定のジャンル短篇集ではなく、SF・ミステリ・一般文芸と、幅広い作風の作品が収められています。私が好きな作品は、CIAがソ連の成立を防ぐためにタイムマシンを使ってマルクスを暗殺しようとする表題作「嘘と正典」、タイムマシンとクロースアップマジックを結び付けたSFミステリ「魔術師」。「魔術師」は全文が無料で読める試し読み電子書籍がありますので、ぜひご一読を。
『魔眼の匣の殺人』(今村昌弘、東京創元社)
『匣』なる建物に閉じ込められた、ミステリ愛好会の剣崎と葉村。居合わせたのはオカルトライター、予知能力を持った女子高生など奇妙な人物ばかり。不穏な空気が漂う中「あと二日で四人死ぬ」との予言が下され、その言葉通り一人目の犠牲者が出てしまう。予言は成立するのか? これは殺人なのか? 動機は? 処女作『屍人荘の殺人』が漫画化・映画化し大ブレイク中だが、本作も負けず劣らず秀逸。予言の薄気味悪さが読者の好奇心を掻き立て、徹夜一気読み必至。
『medium 霊媒探偵城塚翡翠』(相沢沙呼、講談社)
作家の香月史郎は、ある事件をきっかけに城塚翡翠という霊媒師に出会う。翡翠の霊視からわかった死者の感情や知覚を頼りに二人で事件を解決していくが、その裏では連続殺人鬼による魔の手が翡翠へと忍び寄っていた。「すべてが伏線」という帯の言葉に偽りなし。何も見落とさないように、隅から隅までよくよく読むべき。本を深く愛する相沢氏による、自身のベストにして今年最高級の本格ミステリ。これを読まずして 2019 年のミステリは語れない。
『メインテーマは殺人』(アンソニー・ホロヴィッツ、創元推理文庫)
小説家である「わたし」を訪れた元刑事ホーソーンが持ち掛けたのは、彼を探偵役にした推理小説の執筆だった。自らの葬儀を手配した老婦人がその当日に自宅で絞殺された...奇妙な事件に惹かれ、「わたし」は不満と疑念を抱きながらも、彼の捜査へと同行する。『カササギ殺人事件』で大きな話題を呼んだ著者自らの手記形式で進んでいく物語は、メタ小説的要素と推理小説の公平性とが見事に調和し最終盤で怒濤の謎解きを魅せてくれる、読み手の期待を裏切らない一冊。謎を解く手がかりは全て“あなた”の目の前に!
『三体』(劉慈欣、早川書房)
待ちに待った中国SFの最重要作。今年書店などで特設コーナーなどが設けられていたので、見覚えのある方も多いのでは。凄惨な文革の描写からはじまる物語は、多くの人々を巻き込みながら想像もつかない方向へと進んでいく。科学的な知識を背景に物語が進められていくが、そういった要素にはきちんと作中で説明が入るうえ、作中の中国の描写に引き込まれてぐいぐい読めてしまう。じつは、本作は三部作の一作目にあたる。本作を読んで来年刊行の第二作に備えよう。
編集後記
今回取り上げた作品はいずれも、現在大いに注目を集めている作家の今年刊行された作品です。紹介文を読んで気になった作品を年末年始のお供にどうぞ。より深く作品に踏み込んだ話がしたい方は読書会や部室に気軽にお越し下さい。お待ちしています。詳しい情報は直接またはTwitter(SF研、推理研)やHP(SF研、推理研)からどうぞ。最近『十角館の殺人』のコミックリメイクが始まり、推理小説のコミカライズや映像化(アニメ・ドラマ・映画)も再び盛り上がっているように感じられます。小説以外の媒体(漫画や映像作品)にも、やSF・ミステリ作品は多く存在しているので、次回以降紹介してSF・ミステリの別の側面をお見せできればと思っています。どうかお楽しみに。