見出し画像

G-15より愛をこめて(1)

本記事は2018年4月に川内地区の東北大生協購買店にて無料頒布した冊子「G-15より愛をこめて」のウェブ再録版です。

特集!新入生へ贈るSF・ミステリ10選
新しい環境・生活でのひと時の趣味として読書を始めてみませんか?
新入生へ薦めたいSF・ミステリ作品を10冊選びました。

「本陣殺人事件」(横溝正史、角川文庫)

金田一耕助。「じっちゃんの名にかけて!」という台詞の某漫画で馴染みのある方も多いのでは? その彼の初登場作が雪夜の旧家を舞台にした密室殺人事件の本作。粗筋や本文から漂う怪奇・恐怖と金田一耕助の風貌・性格とのミスマッチ加減が丁度良く、また冷静な推理で導かれる事件の解決も興味深い。中編程度で読みやすい作品なので初めて読むのにおすすめ。気に入った場合は、傑作長編「獄門島」や文庫版同時収録の短篇「車井戸はなぜ軋る」(←個人的お気に入り)、「黒猫亭事件」もぜひ。


「虐殺器官」(伊藤計劃、ハヤカワ文庫JA)

日本SFを語るならば、この作品と作家は外せない。デビューしてから癌で死去するまで、実働期間は2年足らず。計劃は日本SF界に超新星のごとく現れ、処女作でその頂点に立ち、そして次作「ハーモニー」を遺した。作品の舞台は9.11以後の世界。世界各地で虐殺が頻発し、その裏には一人の男、ジョン・ポールの姿が見え隠れする。虐殺を扇動するジョンを暗殺するべく主人公クラヴィスは紛争地に赴く。虐殺器官とは何か。ジョンとの邂逅の果に何があるのか。現代日本SFの最高傑作。


「星を継ぐもの」(J・P・ホーガン、創元SF文庫)

SFミステリの金字塔。月で発見された遺体は5万年前のものだった。この遺体は何者なのだろうか。前半は布石なので少々読み進めにくいが、推理部分に入った途端、流れるような話の展開が心をつかんで離さない。読んでいるうちにどんどん引き込まれ、徹夜で読み終えてしまうことだろう。特に最後のシーンは必読。突飛なSFと緻密なミステリは一見結びつき難く思われるが、実は相性抜群なのである。同じSFミステリとしては、アシモフの「ロボット」シリーズ「鋼鉄都市」が有名。


『ボッコちゃん』(星新一、新潮文庫)

言わずと知れたショートショートの名手・星新一の最も有名な作品集で、同人時代からデビュー後4年の間の作品から星が自ら選んだ傑作自選作品集。子供向けと思われがちだが、それは大きな間違い。短く洗練されたお話の中に、発表から半世紀以上経ってもなお色褪せない星の人間観が垣間見える。特におすすめなのは「生活維持省」。星の冷徹なまなざしがうかがえる一作である。忙しい大学生には嬉しい短さなので、昔一度読んだという方も、ぜひ読み直してみてはいかが。


『最後にして最初のアイドル』(草野原々、ハヤカワ文庫JA)

現代日本SF界の爆心地・草野原々の第一作品集。ネットで話題を呼んだ表題作をはじめ、オタク文化と哲学とを奇妙に融合させた異常な世界観と語り口が魅力。伊藤計劃の死後、長らく停滞していた日本SF界に颯爽と現れたやべえやつである。「アイドル」「心の哲学」「科学哲学」「ソシャゲ」「フレンズ」「声優」このどれかにピンと来た人はぜひ読むべし。ピンと来なくてもとにかく読むべし。未来の日本SFはここから始まる。ちなみに、表紙絵のかわいい女の子は、表題作冒頭の17頁で脳髄だけとなる。


『特別料理』(スタンリイ・エリン、ハヤカワ・ミステリ文庫)

仰々しい殺人事件には少し飽きた…。そんな貴方にお勧めしたいのがこの「特別料理」。奇妙な店で稀に出される“特別料理”に翻弄される人々を描いた表題作は有名なネタながらもハマればこの作家の虜になること必至の傑作。他にも人間の業や心理を深く追求した佳作を9篇収録。巧みな文章とプロット。まさに小説の粋が詰まった短篇集である。エリンの作品に魅せられた方には【異色作家短篇集】がおすすめ。そこにはジャンルの枠を超えた魅惑的な世界が貴方を待っている。


『戻り川心中』(連城三紀彦、光文社文庫)

ふたつの心中未遂事件を起こし、その後自害した大正の天才歌人・苑田岳葉。彼の作品と事件との間に隠された関係が明らかになる表題作は今なお好評を博し続けている傑作短篇。他にも著者独自の叙情性豊かな文章で綴られる推理小説が4篇。『夕萩心中』収録の3作を合わせた計8作は【花葬】シリーズと呼ばれている。また著者がデビューした雑誌「幻影城」からは竹本健治・泡坂妻夫・栗本薫・田中芳樹などもデビューしており、こちらも抑えておくとよいだろう。


「七回死んだ男」(西澤保彦、講談社文庫)

同じ一日を繰り返す「反復落し穴」という“体質”をもつ少年が偶然その日に死んでしまった祖父を救うために奔走する話。奇抜な設定だと思うかもしれないがそこは安心。始めから最後まで論理に満ちたミステリ作品である。SF設定が無駄になってなく、かつ面白い。著者の“SF新本格”作品は、他に「完全無欠の名探偵」「人格転移の殺人」や超能力が存在する世界での犯罪を解き明かす【チョーモンイン】シリーズなどがある。他作家だと死者が甦る世界で起きる殺人事件を描いた山口雅也「生ける屍の死」など。こちらも要チェック。


「オリエント急行の殺人」(アガサ・クリスティー、クリスティー文庫)

映画化・ドラマ化が何度もされ、今冬には豪華キャストによってリメイクされた作品。豪華列車で起こった密室殺人を名探偵ポアロが解き明かす。癖のある登場人物達とのやり取りやその背後に潜む謎、そして明かされる結末も大変良い。その他、「アクロイド殺し」「そして誰もいなくなった」などの名作を始め、クリスティーの著作はとても多い。2018年4月に全99作品の評論集・霜月蒼『アガサ・クリスティー完全攻略』が文庫化されたのでそちらを参考に読み進めるのも良いだろう。


『あなたの人生の物語』(テッド・チャン、ハヤカワ文庫SF)

現代SF最高峰の作家テッド・チャンの作品を8作収録した傑作短篇集。28年の活動期間で発表した作品はわずか13作。どの作品も極限まで磨き上げられた珠玉の作品群となっている。表題作「あなたの人生の物語」は昨年の映画『メッセージ』の原作となったことで話題を呼んだ。同作は言語学が重要な要素を成しており、従来の自然科学的なSFが苦手な人にも楽しめる作品。全13作中8作が読めるということで、たった1冊で通ぶれるのもいいところ。ぜひご一読を。

編集後記

本冊子のタイトルは2007年~2011年頃にかけて生協で発行されていた読書啓発マガジン【つん読】で連載していたコーナー名から取りました。不定期刊行ではありますが、この冊子を手に取ってくださった方の読書意欲を刺激できるような作品を紹介していきたいです。次回は各ジャンルを築き上げた名作群もしくは近年話題になっている作品群を取り上げたいと考えています。また、今回はSF研部員より短篇「あるいは出汁でいっぱいの海」を寄稿して頂いています。こちらも是非。通常活動としては、SF研が隔週木曜、推理研が毎週金曜に読書会を予定しています。興味を持たれましたら、川内北キャンパス旧サークル棟G-15にお越し下さい。部員一同、心よりお待ちしています。

(本淵洋+下村思游) #SF #ミステリ #読書 #書評

いいなと思ったら応援しよう!