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小匙の書室312 ─遊廓島心中譚─ ⭐︎先読みレビュー


 あなたは、『心中』の本当の意味をご存知だろうか?

 恥ずかしながら、この問いかけをしている私は誤解していた。

 心中とは決して、運命に引き裂かれた男女が辿る哀しい死ばかりではないのだ──。

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 第70回江戸川乱歩賞。
 最終選考にのぞんだのは、7名のレジェンド作家たち。

 綾辻行人、有栖川有栖、真保裕一、辻村深月、貫井徳郎、東野圭吾、湊かなえ。

四時間半にも及ぶ激論の末、彼らが受賞に値する作品としたのが──。

 10/21。講談社さんより刊行予定の、

 『遊廓島心中譚』(霜月流 著)

 である。

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 舞台は江戸時代。
 主人公は、それぞれに事情を抱えた二人の女性だ。

 姉を心中の裏切りで亡くした、鏡。
 父親を悲惨な形で亡くした、伊佐。

 そして、

 かたや、“信実の愛”を求めて。
 こなた、父親が着せられた不名誉を雪ぐため。

 沼地に浮かぶ『遊廓島』へ、“ラシャメン”(外国人相手の娼婦)となって潜り込むのである。

 まず物語全体として私は、

 “ミステリを読んでいることを束の間忘れるような文学的作風”

 にのめり込むこととなった。
 時代設定が江戸なだけに、言葉遣いや風景描写が徹底されており、また文体も奥ゆかしさを感じたのである。

 鏡は“信実の愛”を証明するため『心中箱』を広めて回り、伊佐は父の死にまつわる不可解な謎を解き明かすため、『遊女殺し』の名を持つメイソンと行動を共にする──。

 それぞれの物語には(ベクトルは違えど)叶うことの難しい愛の模様が綴られており、少しずつ二人の女性の胸の内で膨れ上がる繊細な機微の描きようは、『新人デビュー』の筆遣いを離れているといえた。
 ここで交わされるドラマが、なんとも胸を苦しく温かく締め上げるもので、設定の難しさに挑んだ著者の手腕には天晴れであった。

 もちろん、ミステリとしての楽しみも忘れてはならない

 主に伊佐のパートで、二つの見所要素があるのだ。

 ・父の最期にある、不可解な謎。
 ・遊廓島でかつて起きた、遊女連続殺人事件──ひいては『遊女殺し』と揶揄されるメイソンの真実。

 この二つの問題が解けたとき、壮大なスケールで届けられた物語の厚みに私は感嘆とした。
 そして最後のページを読み終えたとき、私はこう思った。

 ──あの締め括りは、ミステリという枠組みを超えたに違いない。

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 もしこの先、著者が本作と似たような文体でかつ人物描写の妙を磨き上げていったならば、かの作家──連城三紀彦氏にも比肩するようになるのではなかろうか?

 もちろん私の勝手な憶測なので、霜月先生にはのびのびと作家活動を行っていってほしい。

 10/21。
 来る遊廓島での心中譚に、ぜひとも耳を傾けていただきたい。

 ここまでお読みくださりありがとうございました📚

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