小匙の書室143 ─余命0日の僕が、死と隣り合わせの君と出会った話─
一定の量の涙を流す年に至る病を抱えた男子高校生、瀬山慶。あるときクラスメイトの星野涼菜と出会うことで、二人の運命は動いていく──。
〜はじまりに〜
森田碧 著
余命0日の僕が、死と隣り合わせの君と出会った話
Netflixにて2024年に映画化が決定された『余命一年と宣告された僕が、余命半年の君と出会った話』から始まる、〈よめぼくシリーズ〉その第4作目。
今回注目すべきポイントは、一定の量の涙を流すと死んでしまう瀬山の罹患した涙失病でしょう。
しかし星野と出会うことで、もともと「涙を流したい」と渇望していた瀬山は“感涙部”への所属を決めるようで……どうなってしまうのでしょう。
これまで余命という期限をうまく扱ってきたシリーズですから、今作もきっと思いもよらない展開が待ち受けているはず。
期待を胸に、私はページを捲っていきました。
〜感想〜
いやまさかそうくるとは。私はある場面で横っ面を叩かれた気分になりました。〈よめぼくシリーズ〉の中でひときわ異彩を放つ一冊なのではないかと思いました。
以下、本作の感想まとめです。
◯なかなか攻めた主人公。涙を流せないことへの共感。
〈よめぼくシリーズ〉は全体を通して感涙を謳ったシリーズだと私は思っています。しかし本作の主人公──瀬山は、端から涙を流せない涙失病を患っているのです。
これにより、瀬山を介して「どんなに泣ける映画や本でも泣くことができない」でいる読者に対する共感を生むのだと思います。
感動作と持ち上げられていても必ず泣けるのではない。じゃあ、泣けない人間は冷酷なのか? 涙のツボは人それぞれにあるはずなのに。
私も泣けると言われた別作品で泣けなかった経験があるので、瀬山に感情移入してしまいました。
そんな風に攻めた主人公を据えることで、本作がとことん『泣くことの意味』を問うているのだと序盤から理解できました。
◯感涙部、映画研究部での青春。
瀬山が図書室で出逢ったのは、涙腺が緩いクラスメイトの星野。ある理由から涙を流したい瀬山は星野の誘いで映画研究部に入部し、彼らの青春が始まるのでした。
主な活動は、涙を流すこと。
部室でそれ系の映画を鑑賞し、本を読み、果てはスポーツ観戦をしたり……などなど。
ここには青春小説としての眩い煌めきがありました。何とかして瀬山を泣かせようとする星野の奮闘には微笑ましいものがありました。
そんな泣けない瀬山の横で号泣しっぱなしの星野という構図は、本作の象徴でもあります。この対比が、読後に私を堪らない気持ちにさせるのでした。
◯少しずつ変化していく瀬山の心情。
涙を流すと命を落としかねない病なだけに、彼はそれまで人と深く関わることを避けてきたのです。
だけど青春を謳歌する中で、瀬山の心情が少しずつ変化していくのでした。
私は〈よめぼくシリーズ〉に限らず、『無感情だったり他人と関係を結ぶまいとしていたりする主人公を据えた小説』において、人との繋がりが生まれる瞬間や動機を一つの重要なファクターとして読んでいます。
(あくまで私の意見ですが)そこが自然的に且つ丁寧に描かれるか否かで、自分と等身大の物語として受け止められるかが決まるのです。
本作はばっちり、私の心を掴みました。
だからこそ、私はあんなにも心を揺さぶられたのです。
◯流す涙の種類。瀬山の煩悶。
涙にはたくさん種類があります。嬉し涙、悔し涙、怒ったり喜んだり悲しんだりしたときに流す涙。
ただ、瀬山にとってはそのどの涙を迂闊には流せないしそもそも無感情に生きてきた反動で流せないのです。
するとどうなるのか。
泣きたいと思ったときに泣けず、それが故に胸の内側を掻き毟りたくなる気持ちになるわけで。ある目的のために泣きたい瀬山が、また違った意味で泣きたいとなった瞬間のそのもどかしさが、苦しかった。
※私的に印象に残ったのは、涙活で出逢う古橋が語った『同情の涙』への率直な意見でした。
◯人はなぜ涙を流すのか。
瀬山と星野の関係を丁寧に綴ることで浮かび上がってくる、本作を貫く最大のテーマ『人はなぜ涙を流すのか』。
ネタバレを避けるとどうしても深く語れなくなってしまうのが悔しい。
それでも、瀬山が辿り着いた一つの答えに私は涙を流さずにはいられなかった。
ずっとある目的のために涙を流して救われたいと願っていた瀬山が、星野との青春を経た上で願った涙。その結末。
ここには生きることの大切さが含まれていますが、過去シリーズとはまた違ったアプローチでそれが打ち出されています。
是非とも二人の青春を味わっていただきたいです。
〜おわりに〜
明日から遠慮なく泣いてやろう。
そんな風にちょっとした勇気をもらえる作品でした。『涙』や『泣』の成り立ちについて星野が語るシーンが、それを補強してくれています。
泣けないと、嘆くあなたに。
感動する、涙する、がどんな意味を持つか知りたいあなたに。
オススメできます。
ここまでお読みくださりありがとうございました📚