小匙の書室110 ─放課後ミステリクラブ3 動くカメの銅像事件─
銅像のカメが、動いた……?
不可思議な謎に、ミステリトリオが挑むシリーズ3作目。
〜はじまりに〜
知念実希人 著
放課後ミステリクラブ3 動くカメの銅像事件
児童書としてはじめて本屋大賞にノミネートされた、『放課後ミステリクラブ』。そのシリーズ3作目となります。
今回の謎は、動くカメの銅像。
1、2巻はネットギャラリーさんの方で先読みさせて頂いていたのですが、もうそのときから「これは小学生の時分に出逢っていたかった作品だった!」と思っていて、いまの小学生を羨んでいました。
ただ、もちろん、大人になってから読むことによって得られるものもあります。
大人になるとつい忘れてしまう幼い頃の決まり。
今回はどんな魅力に溢れているのか楽しみにしつつ、彼らに会いに行きました──。
…………ああ、はいはい。
これはいい成長につながる謎解きだ。
〜感想〜
さっそく、本作の読みどころをご紹介しましょう。
◯やっぱりミステリトリオが愛おしい。
もうね、これを語らずには始まりませんよ。
名探偵の天馬、活発な美鈴、小学生と等身大の陸。
短いページの中でそのキャラクタの魅力を引き出して描くというのは、なかなかできそうでできない。そのうえ愛着も持たせるとなればさらに難しいことでしょう。
そりゃあ3巻も読んでいるからこその思い入れでしょう?
いえいえ、1巻目から既に彼らは私の胸で息づいているのです。
ここはやはり、知念先生の手腕がバッチリ活きているのだと言えます。
さらにはGurin.さんのポップなイラストもまたどんな人柄なのかを補完してくれていて、イラストを眺めるだけでも楽しいのです。
◯動くカメの銅像。いったい、何が起きているのか。
プールに金魚が泳いでいたり、雪の上にミステリーサークルが現れたり、ミステリトリオは不思議な謎と出くわしてきましたが。
今回はタイトルにもあるように、カメの銅像が動いているのです。
ひょんなことから桜の木の下で発見された銅像。子供が力を合わせても動かせないソレが、なぜか時間をおいて確かめると動いている。
この不可解ないしは不可能犯罪はどこか不気味で、すぐさまナゾの魔力にとらわれました。
今回は珍しく天馬くんも難儀しており、それが新鮮に映りました。
◯謎を解くのは楽しい。だけど──。
シリーズ既刊でも感じたように、本作にも児童書として上梓される意義がきちんと組み込まれていました。
謎解きの楽しさを味わうならば世の中にはたくさんのミステリがあります。
それらに触れることはきっと素晴らしい体験になるのでしょうが、『経験値にすること』となるとまた違った面を用意しなければならないのでしょう。
その意味で本作は、謎解きの楽しさを含みつつも子供が毎日を過ごす上で大切な経験値を与えてくれていると思いました。
これぞ児童書の醍醐味。
大人になって読んだとき、自然と童心にかえらせてくれます。あとがきも必読です。
◯真相にあるホワイダニットは、とても──。
普段から血生臭いミステリとホワイダニットを読んでいる私にとって、本作にあるソレには視界が明るくなるようなものがありました。
カメが動いた謎はわかったものの、その先までは見通せなかった。
そのことも伏線になるんだ、と膝を叩きました。
この作品を介して、子供の成長に繋がってくれるのを私は願いたいです。
〜おわりに〜
放課後ミステリクラブは、この先6月と11月に続刊の刊行が予定されています。
どうやら次は、密室状態のうさぎ小屋からうさぎが消失するようで……?
想像を膨らませながら彼らとの再会を楽しみにしていようと思います。
ここまでお読みくださりありがとうございました📚