小匙の書室329 ─ゆびさきに魔法─ ⭐︎先読みレビュー
さて、この記事をお読みの皆様。
まずはご自身の“指さき”に注目してください。
そこには何がありましたか。
恐らくは“爪”ではないでしょうか。
「なにを当たり前のことを……」と思われるかもしれませんが、往々にして“当たり前”とは日頃の認識から外れてしまいがちなのです。
──というわけで、この記事を読んでいる間、“爪”に最大限の意識を向けてみてください。
その上で、もしも「あなたのその爪には、気分向上の可能性が秘められていますよ」と告げられたら、どうでしょう?
ひょっとしたら「まさか、そんな」と疑いを持つ人がいるかもしれませんね。
実は私も、そのうちの一人でした。
しかし、なかなかどうして爪というのは侮れない部位なのです。
そのことを教えてくれたのが、『11/25』、文藝春秋さんより刊行されるこちらの作品でした。
その名も──、
ゆびさきに魔法
です。
著者は『舟を編む』や『風が強く吹いている』、『きみはポラリス』などを上梓している三浦しをん先生。
本作では、ネイルサロン『月と星』を舞台に、ネイリスト・月島美佐と様々なお客様とのクスリと笑えて心が温まる交流が描かれているのです──。
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作品の見所は主に4つ。
①丁寧かつ具体的に綴られる、ネイリストの仕事💅
ここには、お仕事小説としての興趣があふれています。初めて知った単語がたくさんで、非常に学び甲斐がありました。
とはいえ肩肘張るような堅苦しさはなく、月島と新米ネイリスト・大沢とのコミカルなやり取りが、作品全体を優しく温かく包み込んでいるのです。
読了後、私の中でネイルアーティストという職業が確かな肉付きで宿ったのは間違いありません。
②少しずつ変わっていく、ネイルサロン『月と星』の存在🌕
それまで商店街の一店舗にすぎなかった『月と星』。だけど新たな風を取り入れることで、思ってもみなかった繋がりが生まれていくのです。
劇的ではなく清流のように静かな展開が続き、気付けば『月と星』は商店街や月島にとってなくてはならないものになっていき──ここにある、人と人の温かさがとても素敵でした。
③ネイルの魔法がもたらす効果🪄
『月と星』を訪れるのは、老若男女のお客様。
胸の内に細やかな悩みを抱えている彼らも、ひとたびネイルの魔法にかかればアラ不思議──な現象を常に目の当たりにしていました。
『月と星』は、お客様にとってどんな居場所になりうるのか。
これは是非、本編でお楽しみください。
④ネイリストとしての核心と人としての変革👤
日々、お客様にネイルを施す月島と大沢。
ネイリストという職業は、言葉から綺麗なイメージを連想しがちになるけれど、その裏側には『綺麗』を保つための弛まぬ努力と研鑽があるのです。
お仕事小説としての表をより輝かせるため、月島という人間を描く裏──下地には、彼女なりに目指すべきネイリスト像や人間関係の機微に疎いが故の悩みなどが吐露されており、これが私の心を何度も揺さぶったのです。
『月と星』を発展させながら、月島が、ネイリストとして人としてどんな風に変わっていくのか。あるいは何が一番大事なことに気付くのか。
こちらも、ぜひ、本編でお楽しみください。
⑤『月と星』が打破したいと願う、ネイルへの偏見
時代が移ろえど、不変的な価値観はある。
本作においてそれは、『ネイルへの偏見』という形で打ち出されています。
私自身、作中で言及されているような偏見を実生活で耳にすることがあった。ひょっとしたら、耳を傾けられないだけで他にも埋もれている偏見の芽があるのかもしれません。
だからまず、私にできるのは『ゆびさきに魔法』をレビューして広めることで、そうした偏見が無くなってほしいと願うことなのでした。
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読書家にとって、“爪”は絶えず視界に入る体のパーツといっても過言ではないでしょう。
だからこそ、ちょっとの間、『爪を彩ること』にかかる素敵なドラマを味わってみてはいかがでしょう?
ちなみに私は、本編読了後、知人にクリアネイルを施してもらったのですが──。
綺麗な爪が視界に入るたび、いやそもそも、綺麗な爪がゆびさきにあると実感するたび、気持ちがウキウキするようになったのです。
冗談ではなく、四六時中、綺麗な爪を指の腹で撫でるだけの妖怪になった気分でした。
11/25。文藝春秋さんより。
三浦しをん先生のゆびさきが紡ぐ魔法の言葉が、たくさんの読者に降り掛かるのを、私は陰ながら楽しみにしていようと思います。
ここまでお読みくださりありがとうございました📚