小匙の書室240 ─深淵のテレパス─
「変な怪談を聞きに行きませんか?」
高山カレンが、会社の部下に誘われたオカルト研究会のイベント。以来、彼女の周囲では奇妙な現象が起き始め、「あしや超常現象調査」の二人組に助けを求めるが──。
創元ホラー長編賞、受賞作。
〜はじまりに〜
上條一輝 著
深淵のテレパス
東京創元社が主催した、【創元ホラー長編賞】その受賞作(書籍刊行に際し、パラ・サイコから改題されました)。
上條さんはWebメディア『オモコロ』にて“加味條”名義で活動されているライターさんであり、受賞作が発表されたときにはたいそう驚いたものです。
⇩受賞作発表当時についてはぜひ、以下の記事をご覧ください⇩
いやあそれにしても、この装幀から漂う何とも言えない不気味さですよ。
ホラー小説となると私の中ではどうしてもおどろおどろしい装画が連想されるのですが、「深淵のテレパス」は真っ白な部屋の床に緑の水(?)が広がっていて……しかもどこか絶望したかのように佇む女性が……と、斜め上から恐怖心を刺激してくる。
書店で見かけたら、絶対目を留めてしまいます。
8月発売!!
さあ果たして、
との評価を受ける本作がどんなものなのか、私は楽しみにしながら読み始めました。
〜書籍レビュー〜
まずは「変な」怪談というフレーズに惹かれ、その内容に漂っているうっすら肌を舐めるような怖さにゾクゾクした。
あなたが、呼ばれています。
光を、絶やさないでください。
ここまでたったの11ページしか進んでいないのに、もう既に私は物語の虜になっていた。
オモコロライターとしての手腕が遺憾無く発揮されているというべきか、著者の紡ぐ文章は非常に読みやすく、それでいて脳内に場の映像がはっきり浮かび上がることで私はすぐさま作品の世界観に足を踏み入れることができたのです。
カレンの身の割で起きる怪現象。「ばしゃり」という音の表現が、ああも気味悪く感じられるとは思いもしなかった。し、日常の中で必然的に取らねばならなくなる異常性が心を不安定にさせてくれる。
一方、「あしや超常現象調査」パートでは得体の知れぬ怪異の存在をめぐる調査が(晴子のキャラクタ性も相まって)物語の促進剤となり、ページを捲る手が止まらなくなった。
「あしや」はオカルト肯定派・否定派のどちらかに与することなくあくまでも純粋な検証と考察によって怪異に迫ろうとし、それがやがて「点と点を繋ぐことで浮かぶ真実への興奮」をもたらしてくれるのでした。
それに言葉の伏線回収とでもいうべきか、何気ない台詞がストーリーラインのある位置ではぐっと盛り上げる役を買うことが何度もあり、その度に私はため息を漏らしていた。
物語の核を創り出す著者の発想力も然ることながら、そもそもの構成力に舌を巻かざるをえない。
深淵のテレパス、というタイトルも素晴らしいの一言に尽きる。
ばしゃり、という水音の正体は何か? 連続する怪異の裏には何が潜んでいるのか?
幽霊は、呪いは、存在するのか。
とにかく面白くて、読み終えた直後に「今度はどんな怪異を【あしや超常現象調査】が調査するのだろうか」と続編を期待する私がいました。
〜おわりに〜
広く色んな人に奨めたいホラー小説です。
和製ホラーらしい静かでじっとりした恐怖から逃れられない。それでいてエンターテイメント性も高く、これから追いかけたい作家の一人に加わりました。
改めて、8月発売の『深淵のテレパス』
この夏の暑さを本作の怖さで和らげませんか?
ここまでお読みくださりありがとうございました📚