小匙の書室215 ─心霊探偵八雲1 完全版 赤い瞳は知っている─
──君だけが、この瞳を怖がらなかった。
伝説的ホラー小説、〈心霊探偵八雲〉シリーズが、全面改稿を経た〈完全版〉として登場。
全てはここから始まった。
〜はじまりに〜
神永学 著
心霊探偵八雲1 完全版 赤い瞳は知っている
さて皆様、〈心霊探偵八雲〉という作品はご存知でしょうか。
本作は神永学先生のデビュー作であり、世に産み落とされた当初は『赤い隻眼』というタイトルで、しかも自費出版だったのです。
そこから版権を変えたりアニメ化されたり舞台になったりを経て、今では累計750万部を突破した超大人気作品となっています。
シリーズは2020年に一度完結しましたが、なんと2024年6月、『新 心霊探偵八雲 赤眼の呪縛』として彼らが帰ってくるのです!!
だから、そう。
八雲シリーズを手に取ったことがないなら、今が熱い!!!!!
全面改稿された〈完全版〉を読もう!!!!!
※ちなみに私はシリーズは読破。未読は『青の呪い』だけです(多分)。
〜感想のまとめ〜
◯全面改稿により、今の時代へアップデート。
だから、そう。再読でもまったく違和感なく肌に馴染むのです。なんといってもスマホが普通に登場していますからね。あと、イニシャルファイルを踏まえた文章なんかもあるから、ついつい「おっ」となってました。
◯FileⅠ開かずの間
廃屋にある開かずの間を訪れた後、意識混濁となった友人を救うため、晴香が足を運んだ〈映画研究同好会〉。そこの主である八雲と出逢い、二人は真相究明のため調査に乗り出すのです。
無愛想で無表情な八雲と対照的に、感情が表に出やすく行動的である晴香。
もちろん、二人の仲は最初から良かったわけではなく、どちらかといえば口を開けば皮肉ばかりの八雲に晴香が辟易している有様。
それでもなんだかんだ調査を進め、“シリーズを語る上で絶対に外せないシーン”で、ガチっと大きな歯車が動く気配があるのです。
開かずの間には誰がいる?
晴香の後悔に八雲が差し込む光が印象的。綺麗な一篇です。
◯FileⅡトンネルの闇
トンネルに現れる数多の幽霊。その調査の過程で八雲シリーズで重要となるキャラが殆ど揃い踏みとなります。私は一心が好きなので、彼と再会できたのは嬉しかったです。
またその中において八雲の抱えた孤独や苦味も浮き彫りとなり、それに対する晴香の想いの形も少しずつ形成していくのがわかる。
一方で恋愛脳で語るのが癖である人物に囲まれているからこそ、よけいに二人の関係性のフラットさとひとつまみぶんの揺れ動く機微が楽しめるのです。
そして霊の正体に係る真実には人間の醜さが表出しており、結果として知ることとなる晴香の優しさが八雲に作用してほしいと、初読時に願ったことを思い出しました。
◯FileⅢ伝言
晴香の自宅に現れた友達の幽霊。その口から発せられた伝言の意味とは?
本編最終話。その掉尾を飾る上で、晴香の影響で八雲の心情に少しずつ変化が現れ始めることや、彼と後藤の関係の確かさが今後のシリーズ展開を期待させるようにして描かれているのです。
この篇ではメインとなる二人の他、後藤の刑事としての信念にも触れられており、はじめて「心霊探偵」という言葉も登場。
──伝言の謎と時を同じくして発生した火災との関係性は果たして。
真実をすっかり忘れていた私は、「そういうことか」と素直に膝を叩いていました。
◯ここからまた新たに八雲ワールドの虜となる読者が現れるのか……。
スピーディーな文章、怖すぎずに怖い展開、各登場人物たちがこれから編み出していく人間模様、そして八雲と晴香の関係性。
神永先生の「待て!! しかして期待せよ!!」を忘れずに。
〜おわりに〜
再読だからこそ味わえる感慨。初読時の頃を懐かしく思い出しながら、八雲ワールドを歩いてきました。
この先、あのシーンやあのシーンが新たにアップデートされて、脳に印象を刻むことでしょう。
2巻以降も楽しみなのです。
ここまでお読みくださりありがとうございました📚