今、再び、村上さん
なんだかモヤモヤしていたら、村上さん(村上春樹氏)の本の、主人公たちの会話をふと思い出しました。
主人公と、女の子(ユキ)の会話。
ユキが、母親の恋人(ディック・ノース)のことを「とてつもない馬鹿」と言う。(その言葉だけでは解釈できないくらい、事情はかなり入り組んでいるのだけれど。)
主人公がディック・ノースのことを、
信頼できる人間だし、親切だ、
と言っても、ユキは、「それでも馬鹿。」と言う。
その翌週に、ディック・ノースが交通事故で死ぬ。
するとユキは、
「彼にひどいことを言ってしまった。でも悪い人じゃなかった。でも、ひどいことを言いたかった。でも、自分がひどいことをしたような気がする。」
と主人公に話す。
すると主人公は、こう言う。
「人というものはあっけなく死んでしまうものだ。人の生命というのは君が考えているよりずっと脆いものなんだ。だから人は悔いの残らないように人と接するべきなんだ。公平に、できることなら誠実に。そういう努力をしないで、人が死んで簡単に泣いて後悔するような人間を僕は好まない。個人的に。」
この作品も大好きだし、その中でもこの部分は特に好きな箇所のひとつで、当時は夢中になって何度も読みました。
でも、こないだふと思い出すまで忘れていました。
村上さんの小説は、10代後半から30代中ごろまでかなり熱心に読んで、
主人公たちの生き方(食べ物、飲み物、煙草、行く場所やすること、そして思考回路までも)を真似してみたりして、わたしが人生でとっても影響を受けたもののひとつです。
何かを経験する前にすでにわたしの体や心に染みついていた村上さんの言葉が、
何かを経験したわたしの体や心を救ってくれているような気がしています。
最近起こった、衝撃的で悲しい出来事。
でも、その出来事に対して、自分の心がどう感じているのかを味わう隙もなく、次々と矢継ぎ早にいろんな情報や他人の意見が頭に入ってくる。(いや、もしかすると、自ら積極的に頭に入れている?)
心が違和感を感じているのに、思考停止みたいになってくる。
そんな時に、村上さんの本の、主人公たちの言葉たちを思い出して、フッと心が軽くなり、自分を取り戻したような気持ちになりました。
そしてそんな本に出会えていることに、なんとなく、幸せを感じました。