豆本をつくる
以前、神保町の古本屋街で安売りされている豆本を何冊か見て、こんなものなら自分にもつくれるのではないかと思ってしまった。すぐ考えたのは、
名刺のように、あいさつがわりに配りたい
版ヅラの余白を大きく取るのが美本のセオリーではあるが、最近はスマートフォンの画面上で読書することに多くの人が慣れているので、紙でも、とくに豆本であれば、たいした余白がなくても読みにくくならないだろう
中綴じで、ホッチキス1箇所どめならおそろしく簡単だ
ということだった。すぐに脳内シミュレーションが始まった。仕上がりサイズを名刺大ぐらいにするためには、B5正寸の用紙を3回折って片面8頁ずつの16頁折にするのがいいだろう。B5正寸は257㎜×182㎜である。257÷4=64.25だから真ん中のドブ幅を1ミリにすれば仕上がりサイズの短辺は64ミリになる。同じく長辺は182÷2=91ミリだが、実際に折ってみると地袋のところがかなりふくらむので調整して89ミリにした。面付けソフトはPDFツケメン大王Xならすべての機能が無料で試せる(起動5回以内、実体はAdobe InDesignのスクリプト)。
つまり89㎜×64㎜のドキュメントを作ってテキストを流し込み、レイアウトを整えてPDF書き出しする。そのPDFをツケメン大王で割り付けるわけだ。総ページ数が16の倍数になるように調整した。結果、16頁折×5台の総ページ数80頁になった。中綴じの豆本にしてはまあまあ厚い。これではあまり厚すぎる用紙だと折れないだろう。書籍用紙の定番ものの中から厚くないやつを探して、淡クリームキンマリ四六判72.5kgにした。B5(横目)の2000枚が税込4,561円だった。
紙目についても書いておこう。製本にたずさわる者なら絶対に知っておかなければならないことで、知っている人にとっては言うまでもないことだが、知らない人もいるだろうから。
すべての紙には目の流れというものがある。たいていの市販の紙には長辺と短辺がある。長辺に対して平行に目が流れている紙を縦目の紙、短辺に対して平行に目が流れている紙を横目の紙という。縦目はT目、横目はY目と、よく略記される。書籍になったとき、紙目は必ず、のど・小口に対して平行に流れていなければならない。これが逆になると、変な皺が寄ったり、たわんだりする。
今回はすべて16頁折だが、これが総ページ数の都合で8頁折の台を混ぜる場合、B6の用紙を追加購入するなら、T目のものにしなければならないことがおわかりだろう。
さて、PDFツケメン大王で書き出した面付け済みPDFを表裏印刷できるプリンターで出力する。もちろん短辺綴じだ。そして1枚ずつ手で折っていく。ノンブルで合わせればいいので簡単だ。
折れたら、重ねる。1枚の紙が1つの折である。中綴じだから、本の外側(表紙側)から、
1R=p1(H1)-p8, p73-p80(H4)
2R=p9-p16, p65-p72
3R=p17-p24, p57-p64
4R=p25-p32, p49-p56
5R=p33-p40, p41-p48
となる。これだけでも台割になる。ちなみにRというのは折ということだが、なぜ折をRと略記するのか、私は業界に20年以上いたのであるが、その理由はついにわからなかった。何の頭文字なのだろう?
断裁する前にホッチキスで留めてしまおう。のどに届くように回転する製本用ホッチキスもあるのだけれど、今回はぶ厚いので無理だ。3号針を使うコクヨの大型ステープラーSL-M200を買った。仕様には奥行き60㎜まで留められると書いてあるけれど、実測してみるとぴったり64㎜だった。つまり仕上がりサイズ短辺64㎜の今回の豆本のためにあるような製品だ。なんという偶然。
最後に小口と地を適当に断裁してできあがり(天は断裁不要)。収録した文章について言えば、初出の半分はこのnoteだ。残りの半分も探せばネットで読める。あとがきだけは書き下ろした。面付け済みPDFデータも置いておくので参考にしていただけると嬉しい。
今回はともがみ(表紙と本文の用紙が同じであること。共紙とでも書くのだろう)の味も素っ気もない豆本になってしまったが、タダで配ることを想定したからだ。世の中には和紙や金襴緞子などで装幀を施した工芸品のような美しい豆本があるが、そういうものなら売り物にすることも可能かもしれない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?