思春期の睡眠と健康全般の深い結びつきを探る
青少年期の脳の発達には良質な睡眠パターンが重要であると、SRIのHuman Sleep Lab所属のFiona Bakerが語る
SRIのHuman Sleep Research ProgramのディレクターであるFiona Bakerは、睡眠と健康・ウェルビーイング全般の複雑な相互作用について研究しています。
彼女の研究の多くは成人女性の睡眠パターンに焦点を当てたものですが、最近は、思春期の若者たちにも特に注目しています。思春期は、脳の発達にとって重要であるのと同様に、健康的な睡眠パターンを身につける上でもとても重要な時期です。同氏は自身の研究において、この2つの関連性を明確に指摘しました。
「睡眠は誰にとっても非常に重要ですが、10代、つまり思春期の若者にとっては特に重要です。」と同氏は語ります。「10歳から21歳くらいまでの間、またはそれより少し先まで、脳の基本的な発達と成熟が進行します。私たちは睡眠を研究することで、行動としての睡眠だけでなく、脳全体や生涯に渡ってのウェルビーイングにおける睡眠の重要性を理解しようと努めています。」
同氏によると、思春期は脳がより効率的になり、幼少期に重要だった脳内結合が取り除かれる(神経学上の用語で「刈り込み」と呼ばれる現象)一方で、若者がその後の人生で活用することになる、より重要な脳内結合が強化されます。
10代の若者の睡眠パターンが理想的ではない場合、どれだけ脳の発達や健康全般的に影響が及ぶのか分かりません。同氏の研究室では、10代の若者の睡眠、脳の発達、健康を結びつける根本的メカニズムの研究に加えて、若者がより健全的にバランスを取れるような行動指針の考案にも取り組んでいます。
「思春期の若者が健全的に行動、感情、認知能力を発達させていくには、十分に質の高い睡眠がきわめて重要となります。睡眠不足は、体重増加、認知能力の発達不全、社会情緒的問題とも関わりがあります。」と同氏は語ります。「このような懸念と睡眠の関連性の観点で、思春期について理解を深めることがとても必要です。」
スマートフォンやPCなど液晶画面の見過ぎから不安感やアルコール摂取まで、睡眠を妨げ、ひいては脳の発達を妨げかねない、10代の若者にありがちな懸念材料は挙げるときりがありません。同氏の最近の研究では、1万人以上の10歳~14歳の児童について就寝前の液晶画面の利用状況(スマートフォン、コンピュータ、テレビ)を調べたところ、複数の興味深い発見がありました。
まずは、睡眠障害に陥っているのは4分の1以上(28%)の児童たちでしたが、テレビやインターネットに接続された電子機器が寝室にあった児童は、入眠や睡眠を持続させることができない傾向が強く、睡眠障害全般を抱えていることが多かったのです。さらに残念なことに、一晩中着信音をオンにしていた児童のグループは、着信音をオフにしていたグループとくらべてかなり悪い状況でした。配信動画、ビデオゲーム、音楽鑑賞、スマートフォンでの会話やメール、ソーシャルメディアやチャットルームの利用などと、10代の若者が就寝前によくやる行動はすべて、より深刻な睡眠障害と結びついていました。
別の研究では、新型コロナの大流行をきっかけとした就寝時間の遅れや画面を見ている時間の増加といった睡眠パターンの変化が、10代の若者の睡眠にどのような持続的影響を及ぼしたかを調べました。コロナ禍において、10代の若者はオンラインで学校の授業を受け、自由時間はビデオゲームで遊び、ソーシャルメディアで友人とのつながりを保っていたため、画面を見ている時間が急増したことが分かりました。この研究では、ソーシャルメディアの使用およびビデオゲームと、ベッドで過ごす時間の短縮、就寝時間の遅れ、入眠の遅れの間に特に関連が認められました。
「コロナ禍における10代の睡眠パターンは、新型コロナ流行以前とは著しく異なっています。」と同氏は語ります。「これらの傾向は興味深いだけでなく、懸念すべきものでもあります。液晶画面との上手なつきあい方について10代の若者に向けて啓発と教育を促し、就寝前はすべての機器の電源を切る、少なくとも寝る前30分は画面を見ないでくつろぐ時間を作るなど、実現可能なメディアの利用計画を立てられるよう、家族が子どもたちを支えてあげることが重要です。」
同氏と研究スタッフによって近年まとめられた3つ目の論文では、94人の10代の若者グループの脳スキャンを4年間にわたって追跡した観察研究があります。アルコールの摂取を突然始めることによって、睡眠の持続性、睡眠の構造(睡眠のさまざまな部分)、脳波で測定した脳の電気パターンがどのように変化するか調査しています。
「10代の若者が大量に飲酒するようになると、ますます睡眠が乱れることが確認されています。」と同氏は語ります。「但し、飲酒をやめれば正常に戻るのか、それとも変化が持続するのか、結論付けるにはもう少し時間がかかります。」
同氏の最近の研究はいずれも、睡眠、健康、ウェルビーイングに悪影響を及ぼす行動に対する思春期の若者の意識向上と、睡眠に悪影響があるとわかっている若者の行動に対して親が監視を強める必要性について指摘しています。一方で、質のよい睡眠を十分とることは健全な発育を促す可能性があると、睡眠のプラスの効果についても指摘しています。
「10代の睡眠と健康全般との関連性について理解を進めることで、問題のあるパターンに対処する戦略が立てやすくなっています。」と同氏は語ります。「嬉しいことに、10代の脳は非常に強い回復力を持っています。行動適応により、子どもたちが回復して良好な睡眠と健康状態を一生保てるよう、正しい道に戻るための支えになれることを私たちは期待しています。」
編集/管理:熊谷 訓果/ SRIインターナショナル日本支社