「短時間正社員制度の導入(4)処遇〜最も関心の高い賃金はどう決まる?」
社会保険労務士の山地です。
前回は短時間正社員制度を導入するための手順として、制度を設計するための適用事由、適用期間、労働時間についてご説明しました。
今回は、短時間正社員として働く人にとって関心が高く、また事業所にとっても重要な賃金についてご説明します。
基本給はフルタイム正社員への支給額を労働時間に比例して減額します。
仮に同じ職種のフルタイム正社員の基本給が月額20万
短時間正社員になったことで労働時間が正社員の70%になったのであれば、
20万×70%=14万円です。
手当については
通勤手当の場合、労働日数をもとに計算して支給していると思います。マイカー通勤であれば距離に応じて支給額が決められると思いますが、短時間ではなく短日数勤務であれば出勤した日数分だけを支給すればよいことになります。
役職手当や資格手当などは、手当を支給する趣旨や支給の基準を踏まえて減額するかどうかを検討します。
例えば、短時間勤務でも役職を全うしていれば役職手当は全額支給します。もし短時間勤務のために、役職の一部を担当できないなら手当を減額してもいいでしょう。
扶養手当や家族手当など個人の生活に関わるものは、原則減額しません。
短時間正社員が担当できない時間帯(早朝・夜間)に勤務してくれるフルタイム正社員にはその都度、別途手当を支給して不公平感をなくすという工夫も必要でしょう。
次に賞与です。
基本給の〇ヶ月分支給という、いわゆる基本給連動型で支給している事業所はまだ多いと思われます。この場合は、基本給が労働時間に比例して減額されているので、支給基準はフルタイム正社員と同じにします。
人事評価の結果を支給額に反映させる場合は、人事評価の結果が同じなら基本給が労働時間に比例して減額されているので、フルタイム正社員より短時間正社員の方が賞与は低くなります。
最後に退職金です。
退職金の主な計算方法としては、「最終給与比例方式」と「ポイント制」があります。
最終給与比例方式は、退職直前の基本給等を基準に勤続年数に基づく掛け率を乗じて、退職金の額を決める方式です。
勤続年数には原則、短時間正社員制度を適用した期間を勤続年数に通算します。ただし、適用期間中の勤続年数をそのまま通算するか、労働時間に応じて減らすかは検討する必要があります。
ポイント制とは、勤続年数や(資格)等級に応じてポイントを与え、退職時までの累積ポイントに応じて退職金の額を決める方法です。
制度適用期間中もフルタイム勤務の時と同様の基準でポイントを与えます。一方で、勤続年数によるポイントの場合、短時間正社員制度を適用した期間はフルタイム正社員と同様にするか、労働時間に応じて減らすかを検討しましょう。
制度を導入する際、基本給や手当について労働時間を短縮した分、労働時間に比例して給与を減額することは不利益取扱いに該当しません。しかし、制度を利用したことを理由にさらに減額することは不利益取り扱いになるので注意しましょう。
退職金の場合も短時間正社員制度を適用した期間を勤続年数に通算しないことは、不利益取扱いに該当します。あくまでも労働時間の短縮分を減額するだけですので、注意しましょう。
次回は、人事評価と教育訓練についてご説明します。
出典:これで解決!人材確保と定着 「短時間正社員制度」導入・運用支援マニュアル(看護師・介護士・保育士) 厚生労働省