「ちょっと待って! その退職理由は適正ですか?」
社会保険労務士の山地です。
人が仕事を辞めようとするときはなにか理由があるのが普通です。
仕事がつまらない
自分の能力を発揮できない
適正な評価がされない
賃金が安い(総体的に待遇がよくない)
残業が多い
有給休暇が取れない
人間関係がよくない
よくある理由です。どれもこれも辞めたくなるのもわかります。これらは退職を回避しようとして、自分ひとりでどうにかできるものばかりではありません。経営者が先頭に立ち、職場全体で改善に取り組まなければいけないものもあります。
実は今日お話したいのはこれではありません。
退職理由としてぜひ避けるべきものがあります。
その代表的なものが、育児や介護です。
会社に両立支援制度があるのに知らない
育児・介護休業法や介護保険、健康保険について知らない
自分は非正規雇用だから制度は利用できないと誤解している
利用可能な制度があるにも関わらず、働きながら育児や介護をするのは無理だと早合点し誰にも相談できずに退職を決断してしまう・・・。
知らないために不利益を被ってしまうのです。
前回、私は母の看病と介護のために退職したことを書きました。
私が介護離職したのは今から18年前のことです。当時の私は離婚から数年経っていましたが、派遣社員として大手企業でパソコンのオペレーターの仕事をしていました。
母が大病を患い3か月の入院治療を終えて自宅に帰ってくることになったとき、悩みました。これから母の看病をしながら仕事ができるのだろうか?と。父から仕事を辞めて家に居て母の面倒を看るようにと言われ、退職しました。
当時の私は社会保険の「社」の字も知らない素人でした。育児・介護休業法という法律があることを知りませんでした。介護保険がスタートしてまだ2年目でしたから、やはりよくわからず、あれは65歳以上の人でなければ使えないのだと思っていました。
社会保険については素人だった私ですが、ひとつだけ自分で調べて知っていた制度があります。それは健康保険で利用できる訪問看護です。
訪問看護というと一般的には介護保険のサービスのひとつと思われがちですが、健康保険にも同様の制度があるのです。
ただ、これは在宅で継続して療養を受ける必要があると医師が認めた人が対象です。末期がんや難病患者などが主な対象であり、私の母も対象になると思うのに主治医も看護師も「利用できますよ」と勧めてくれることはありませんでした。
育児・介護休業法に照らしてみると、私は当時ちょうど派遣会社を替わったばかりで派遣先での就労実績は3か月しかありませんでした。当時の法律では(契約)期間の定めのある労働者には介護休業の取得は認められていませんでした。
現在の法律なら、一定要件を満たすことで介護休業を取得できます。
介護休業の取得を申し出た時点で、次の1.と2.の両方を満たすこと
1. 同一の事業主に引き続き1年以上雇用されている
2. 介護休業開始予定日から93日経過する日から6か月を経過する日までに、労働契約(が更新される場合は、更新後の契約)期間が満了することが明らかでないこと
※2.はちょっとわかりにくいと思いますが、介護休業の取得可能日数が最長で93日間のため、仮に93日間連続で休業した場合でも職場復帰した後、最低でも6か月間は契約期間が残っているか、または更新の見込みがなければいけないのですね。
介護休業中は雇用保険から介護休業給付金(賃金日額の67%)が支給されます。
私の母は63歳で他界しました。介護保険は原則65歳以上の人が使えるサービスです。65歳未満の人がサービスを使うためには条件があります。介護保険法に定めのある特定疾病が理由で要介護になれば、利用できるのです。
今でこそ末期がんも対象になっていますが、当時は対象外でした。
いずれにせよ私がこれらの制度を利用することはできなかったのですが、
問題はこれらの制度について知っていたかどうかなのです。
知っていて、自分には必要でないと思って利用しないことを選択するのと
知らなかったために、利用できずに退職に追い込まれるのとでは、
大きな差が生じます。
仕事を辞めるか、辞めないか、人生の岐路に立つ自分の選択次第でその後の人生は大きく変わります。
よりよく生きるために、正しい知識を身に着けて悔いのない選択と決定をしてほしいと思います。