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「特別休暇は正社員の半分以下、納得して働けますか?」
社会保険労務士の山地です。
前回、嘱託社員として働く女性の「ちょっと残念な特別休暇」にまつわる疑問についてお話しました。
・特別休暇の制度の有無
・有るなら休暇はいつから休めるのか?
・休暇のなかに所定休日が含まれる場合はどうなるのか?
・休暇は無給か?有給か?
忌引休暇や結婚休暇のような特別休暇は法に定められたものではないために、明確な基準はありません。
今回はそこから派生してくる問題について、さらに考えてみたいと思います。
休暇にまつわる問題には、もうひとつ大事な点があります。
それは、正社員といわゆる非正規社員 (契約期間に定めのある有期雇用の人やパートタイマーなど)との間に「差」があってもよいのか? ということです。
いわゆる「同一労働・同一賃金」の問題です。
「同一労働・同一賃金」と聞くと、基本給や各手当、賞与などの賃金の話と思っている方が多いと思いますが、最近はそのような誤解を避ける意味もあって、国は「不合理な待遇差の解消」と表現することが多くなっています。
つまり、賃金だけでなく福利厚生や教育(訓練)を受ける機会の保証なども含め、すべての待遇について不合理な差を設けてはならないとしています。
待遇差が不合理か否かを判断する枠組みとして、国は次の3点を考慮要素としています。
1.「職務内容」
→業務内容や責任の程度
2.「職務内容・配置の変更の範囲」
→将来の見込みも含め、転勤、昇進といった人事異動や異動を伴わない職務内容の変更の有無や範囲。
3.「その他の事情」
→各自の状況によりその都度検討されるもの
例)仕事の成果、能力、経験、労使交渉の経緯など
上記の1.と2.の両方とも正社員と同じであれば「均等待遇」となり、差別禁止です。待遇に「差」をつけることは許されません。
嘱託社員の彼女の忌引休暇は所定休日を含めて3日間でした。
一方、正社員のそれは所定休日を含めて7日間あります。
この差はどのように考えればよいのでしょうか?
1.について
彼女の所属する部署には17人の社員がいます。課長と次席の社員1人を除いて、残りは全員彼女と同じ嘱託社員です。正社員の補助業務ではなく、基幹業務を担っているのは嘱託社員です。ですから業務内容や責任の程度は社員と同じと言えます。
2.について
勤務先は1ヶ所だけなので正社員も嘱託も転勤はありません。職務内容の変更はともにあります。ただ、一般職から主任への昇進などについては嘱託の場合はないようです。「職務内容・配置の変更の範囲」については異なると言えそうです。
つまり、1.は正社員と同じですが、2.は異なります。
そうなると「差」はあってもよいことになるのですが、国が提示している「同一労働同一賃金ガイドライン」によると、慶弔休暇は短時間・有期雇用労働者にも正社員と同一の慶弔休暇を付与しなければならないと記載されています。
これはこの休暇の「性質」や「目的」を考えてみるとわかると思います。
忌引休暇は本人のみならず、その家族や親族の事情や関係性を尊重したものでしょう。普段会社に貢献してくれている社員に対して、大切な家族を亡くして心を痛めている社員に会社としてできるだけの配慮をすることが目的ではないでしょうか。
そこには仕事の内容、転勤の有無や異動の範囲が違うという理由で待遇に「差」をつける説明としては不適切と考えられます。
これは慶弔休暇だけでなく、通勤手当や出張旅費の支給などについても同じことが言えるでしょう。正社員であろうがパートタイマーであろうが、自宅から職場または出張先まで交通機関を利用すれば仕事の内容や身分に関係なく、費用は発生します。
ただ、彼女の場合「同一の慶弔休暇を付与する」と言っても100%同じかどうかは若干、検討の余地が残ります。
というのは、正社員とは所定労働日数に若干の「差」があるからです。
正社員は完全週休2日制で、所定労働日数は年間245日です。
彼女も完全週休2日制に違いはないのですが、正確には月18日勤務なので年間216日になります。出勤率は正社員の88%です。
そうすると、正社員の忌引休暇7日×88%=6.16日となるため、
少なくても6日はあってもよい計算になります。
これは年次有給休暇の「比例付与」と同じと考えれば、合理的かと思います。
「比例付与」は週の所定労働日数が4日以下 かつ 週の所定労働時間が30時間未満の労働者の場合は所定労働日数に比例して有給休暇が与えられます。
特別休暇は事業主さんにとっては法的に与える義務はないため、つい軽視してしまいがちかと思います。今回の彼女のようにおそらく、正社員ではないからという軽い気持ちでなんとなく、日数は半分くらいと思って設定されたのではないかと思います。(あくまで推測ですが)
人は自分のためにがんばるよりもむしろ自分以外の誰かを思い、自分にとって大切な人のために働いているのではないでしょうか。不当に扱われていると思えば、モチベーションが下がり生産性も下がります。
せっかくの特別休暇ですから、従業員さんに気持ちよく働いてもらい貢献してもらえるように、どのような身分であっても従業員さんが納得して働ける環境づくりに、事業主さんにはぜひ取り組んでいただきたいと思います。