介護を理由に仕事を辞めてはいけない理由
社会保険労務士の山地です。
今月は介護の日にちなんで、介護をテーマにお話しています。今日はその第三弾です。
私がブログを書き始めた当初、退職理由として避けるべきものの代表が育児や介護だとお伝えしました。(第2号:「ちょっと待って! その退職理由は適正ですか?」)
介護を理由に仕事を辞めてはいけない理由はおもに3つあります。
ひとつめは経済的な理由です。
これは容易に想像がつくと思います。仕事を辞めればたちまち収入が断たれます。私が母の看病と介護を理由に仕事を辞めるよう父から言われたとき、父は金のことは心配するなと言い、当時単身赴任していましたが支給される年金を全額生活費として仕送りしてくれました。
母を看ながら家にいるのですからそんなにお金を使うこともなかったのですが、化粧品ひとつ買うのも遠慮しながら買っていました。やはり自分の自由になるお金はあったほうがいいのです。
2つ目は肉体的な理由です。
母が病気のために支えなければ歩けなくなったのは最後に入院する2週間くらい前でした。病気が重いために母は日中も横になっていることが多かったので、当たり前ですが家事も買い物も病院への送迎もすべて私一人でやっていました。
特に食事にはことのほか気を遣いました。三度の食事も少しでも栄養価の高いものを食べさせようと、決して加工品など食べさせたことはありませんでした。病人向けに味を加減し少しでも美味しく食べられるように工夫したりすることはそれほど苦にはなりませんでした。
しかし、少しでも具合が悪くなると玄米粥に変更したり、下痢をすればたくさんの薬を服用していたので薬に頼らず梅肉エキスをお湯でといて飲ませるなど、これまであまりやったことのないことに慣れるのはやはり大変でした。
母は介護保険を利用できませんでしたが、利用できる人であっても在宅であればサービスを利用しない日や時間帯は家族が担うことになります。偶然うまくいくこともありますが、プロと同じようにいつもうまくできるとは限りません。仕事をするのと同じようにはいかないものです。それもいつまで続くのかもわかりません。
3つ目は精神的な理由です。
仕事を辞めて家にいると社会から閉ざされた毎日を送ることになります。四六時中重病の母を看ながら、この先どうなるのか?このまま仕事もしないで毎日過ごしていては、仕事ができない人間になってしまうのでは?と焦ります。
看病するのも一時的でよくなることがわかっていればいいですが、余命宣告されている状況では病状に一喜一憂する毎日です。日に日に病状が重くなってくると、いつ母の身に死が訪れるかもしれないと、不安ばかりが大きく膨らみ気持ちが押しつぶされそうになるのです。
精神的につらい思いをするのは実は自分だけではありません。
母が長い入院生活を終えて家に帰ってきたとき、父がこれからは私が仕事を辞めて家にいるから安心して療養するようにと、母に言いました。
すると、母は大粒の涙を流しながらこう言いました。
私(自分)の看病をさせるために(私を)産んだようでつらい・・・
手前味噌な話で恐縮ですが、周りの人から仕事の鬼と言われる父に子どもの頃からスパルタ式で育てられた私を、母は仕事のできる娘と思っていたのです。その私に自分の看病のために仕事を辞めさせることなど、母にはとうてい耐えられないことだったのです。
病人にとってもっともよくないことはストレスです。ストレスが病気を悪化させてしまいます。患者という字は心が串刺しになると書きます。病気になってすでに心が串刺しになっているのに、それに追い打ちをかけるようなことをしてしまっているのです。
母が亡くなり18年になりますが、未だにあのときの母の涙は忘れられません。
仕事を辞めて介護に専念しても、決してラクにはなりません。労働者は守られています。法に則り、介護保険と社内の両立支援制度を活用してぜひ働き続けてほしいと思います。