知っておきたい!育児・介護休業法と次世代育成法の重要改正点
2024年の通常国会で改正育児・介護休業法が成立し、2024年5月31日に公布されました。
この改正を踏まえ事業主としては、子どもの年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充や介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化などの対策を取る必要があります。就業規則の改定も必要となりますので、総務担当者はしっかり理解しておく必要がありますね。
今回はこの育児介護休業法及び次世代育成支援対策推進法の改正について説明していきます。
仕事と育児の両立のこれまでと現状
育児休業取得状況の推移と現状
法改正の内容を確認する前に、育児休業取得についての推移と現状をみておきましょう。
育児休業取得率は、女性は8割台で推移していますが、男性は上昇傾向にあるものの女性に比べ低い水準となっています。また育児休業の取得期間は女性は9割以上が6か月以上であるのに対し、男性は50%以上が2週間未満の取得となっており、依然として短期間の取得が中心となっています。
希望する仕事と育児の両立の在り方
女性の正社員については、子どもが生まれてまもなくは休業、1歳以降は短時間勤務を希望する割合が高くなっています。3歳以降は、残業をしない働き方や、柔軟な働き方(出社・退社時間やシフトの調整、テレワーク)を希望する割合が高くなっていく傾向にあります。
男性の正社員については、子どもが生まれた当初から残業をしない働き方や柔軟な働き方を希望する割合が高く、子どもがどの年齢でも約40~50%となっています。
育児分野の改正
まずは育児の改正について全体像を確認しましょう。
・3歳未満の子どもを持つ労働者に対する措置に、テレワークを入れることが努力義務となりました。
・これまで3歳から小学校就学前までの子どもを持つ労働者に対する措置は、「子の看護休暇」「時間外労働の制限」「深夜業の制限」を除き義務ではありませんでした。今回の改正で、柔軟な働き方を実現するための措置として、3歳から小学校就学前の子どもを持つ労働者が取得できる制度の整備が事業主に義務付けられました。
・所定外労働の制限の対象が広くなりました。
・「子の看護休暇」の内容が拡充されました。
他にも
・個別の意向聴取及び配慮が義務化
・育児休業取得状況公表義務対象企業の拡大
があります。
以下にて細かく解説していきます。
育児のためのテレワークの導入が努力義務化
育児のためにテレワークを導入することが、3歳未満の子どもを養育する労働者に対して事業主の努力義務となります。
3歳未満の子どもを持つ労働者への措置として、短時間勤務制度を設けることが困難な業務に従事する労働者を適用除外とする場合に代わりの措置を取る必要があります。
これまで
・育児休業に関する制度に準じる措置
・始業時刻の変更等
がありましたが、こちらにテレワークが追加されました。
施行日: 2025年4月1日
テレワークの導入にあたっては、労働者の状況に応じた配慮が必要となりますのでご注意ください。
3歳以上小学校就学前の子ども持つ労働者に対する措置の義務化
育児・介護休業法の改正により、3歳以上の小学校就学前の子を養育する労働者に対して、柔軟な働き方を実現するための措置を事業主が講じることが義務化されます。これには、
事業主は、以下から2つ以上の措置を選択し、労働者が利用できるようにする必要があります
・始業時刻の変更
・テレワーク等(10日/月) ※原則時間単位で取得可能
・保育施設の設置運営等
・新たな休暇の付与(10日/年) ※原則時間単位で取得可能
・短時間勤務制度
また、事業主が措置を選択する際、過半数組合等からの意見聴取の機会を設ける必要があります。
労働者への個別の周知(面談や書面交付などで行われる予定)と、実際に事業主が選択した措置のうちどれかを取得するかどうかの意向確認も義務化されます。これにより、労働者が自分に最も適した柔軟な働き方を選択できるようになります。
※各選択肢の詳細、個別周知・意向確認の方法は、今後省令にて正式に示される予定です。
施行日: 公布後1年6か月以内の政令で定める日
所定外労働の制限(残業免除)の対象が拡大
改正前は、3歳未満の子どもを持つ労働者のみが所定外労働の制限(残業免除)を受けることができましたが、改正後は小学校就学前の子どもを持つ労働者まで対象が拡大されます。
これにより、3歳から小学校就学前の子どもを持つ労働者において、さらに育児と仕事を両立しやすい環境が整います。特に残業が多い職場では、労働者の負担軽減が期待されます。
施行日: 2025年4月1日
子の看護休暇の見直し
子の看護休暇が見直され、名称、対象となる子どもの範囲、取得理由、対象から除外できる労働者がそれぞれ変更となります。
名称:
「子の看護休暇」 ⇒ 「子の看護等休暇」 に変更
対象となる子どもの範囲:
小学校入学前まで ⇒ 小学校3年生まで に変更
休暇取得理由:
病気・けが・予防接種・健康診断 ⇒ 左記に「感染症に伴う学級閉鎖等」「入園(入学)式、卒園式」が追加
労使協定の締結により除外できる労働者:
「引き続き雇用された期間が6か月未満」が撤廃
つまり入社後6ヶ月未満の労働者も子の看護等休暇を取得できるようになります。
これにより、子育て中の労働者がより柔軟に休暇を取得できるようになります。
※休暇取得理由の詳細については、今後省令にて正式に示される予定です。
施行日: 2025年4月1日
仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮が事業主の義務化
労働者の仕事と育児の両立支援のニーズに対応するためには、事業主として制度を整えるだけでは足りません。事業主が整えた制度を労働者に周知すること、そしてその利用の意向を確認するとともに、こどもや各家庭の状況に応じた個別の意向に配慮する必要があります。
ですから、事業主が整えた制度が実際に必要となる妊娠・出産時やこどもが3歳になる前に、労働者の仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮が事業主に義務付けられます。
個別周知・意向確認
時期:
これまで「本人又は配偶者が妊娠・出産等を申し出たとき」には既に義務付けられていましたが、こちらに「3歳になるまでの適切な時期」が追加されます。加えて、最初の利用時以降にも定期的な面談等を実施することが望ましいとされています。
個別周知と意向確認:
事業主は、労働者に対して制度等の周知と利用の意向を確認するために面談等の措置を講じなければいけません
個別の意向の聴取と配慮
個別の意向の聴取:
子どもや家庭の状況により、両立が困難となる場合もあるため、労働者の離職を防ぐ観点から、意向(勤務時間帯や勤務地、両立支援制度の利用期間の希望等)を確認しなければいけません
意向への配慮:
意向を確認したあとは、自社の状況に応じ、事業主はその意向に配慮をしなければいけません
例:配置、業務量の調整、両立支援制度の利用期間等の見直し、労働条件の見直しなど
※意向聴取の方法、具体的な配慮の例及び配慮にあたって望ましい対応については、今後省令及び指針にて正式に示される予定です。
施行日: 公布後1年6ヶ月以内の政令で定める日
育児休業取得状況の公表義務が300人超の企業に拡大
これまでは従業員数1,000人超の企業に、育児休業取得状況の公表が義務付けられていましたが、従業員300人超の企業に公表が義務付けられます。
公表内容は、公表を行う日の属する事業年度の直前の事業年度(公表前事業年度)における、次の①または②のいずれかの割合を指します。
施行日: 2025年4月1日
公表はインターネット等、一般の方が閲覧できる方法で行う必要があります。例えば厚生労働省が運営するウェブサイト「両立支援のひろば」に登録する方法などがあります。
仕事と介護の両立のこれまでと現状
家族の介護を理由とする離職者の推移
家族の介護や看護を理由とする離職者数の推移をみますと、離職者数は減少傾向にありますが、60歳以上の年齢層での離職者の増加等の影響によって、直近の数値は約10万6千人と増加しています。また離職者の男性の割合は上昇傾向にあります。
家族の介護を理由とする離職者の年齢構成
家族の介護・看護を理由とする離職者は、50歳~64歳で最も多くなっています。家族の介護・看護を理由とする65歳以上の離職者も約23%存在しています。
介護分野の改正
現在のこういった状況を背景に、介護離職防止のための施策が求められていた中で、今回次のような改正がありました。
介護離職防止のための個別の周知・意向確認、雇用環境整備等の措置が事業主の義務に
これまでは仕事と育児の両立支援措置とと異なり、介護に関しては制度周知等についての義務がありませんでしたが、介護離職防止のため下記の措置が事業主の義務となります。
介護に直面した労働者が申出をした場合に、両立支援制度等に関する情報の個別周知・意向確認
介護に直面する前の早い段階(40歳等)の両立支援制度等に関する情報提供
研修や相談窓口の設置等の雇用環境の整備
介護期の働き方について、労働者がテレワークを選択できるようにする(努力義務)
これにより、介護と仕事の両立がより支援される環境が整い、介護を理由とした離職が減ることが期待されます。
※個別周知・意向確認、雇用環境の整備の詳細は、今後省令にて正式に示される予定です。
施行日: 2025年4月1日
労働者が介護に直面する前に情報提供を行うことが重要です。
過去に介護に関する記事も配信していますので、こちらもご参照ください。
記事:従業員からの介護の相談に対応できますか?事業主が押えるべき介護休業の基本。
次世代育成支援対策推進法の改正
全体像は下記資料のとおりとなります。
・次世代法自体の期限の延長
・育児休業取得等に関する状況把握・数値目標設定が義務付け
が主な内容となります。
法律の有効期限が延長
2025年3月31日までとなっていました次世代育成支援対策推進法の有効期限が、2035年3月31日まで延長されました。
有効期限の延長に伴い、行動計画の策定も継続して求められます。くるみん認定制度も継続されますが、認定基準の一部が見直される予定です。
※くるみん認定の認定基準見直しについては、今後省令にて正式に示される予定です。
施行日: 2024年5月31日
育児休業取得等に関する状況把握・数値目標設定が義務付け
これまでは特に一般事業主行動計画の策定時に記載事項等の義務はありませんでしたが、従業員100人超の企業は、一般事業主行動計画の策定時に下記の内容が義務付けられます。
一般事業主行動計画策定時の義務① PDCAサイクルの確立
計画策定時の育児休業取得状況(※男性の育児休業取得率となる見込み)や労働時間の状況(※フルタイム労働者1人当たりの各月ごとの時間外労働及び休日労働の合計時間数等となる見込み)を把握し、改善すべき事情を分析した上で、分析結果を勘案して新たな行動計画を策定又は変更する
※見込み部分は今後省令にて決定
一般事業主行動計画策定時の義務② 数値目標の設定
育児休業取得状況や労働時間の状況に関する数値目標を設定する
従業員100人以下の企業については努力義務となります。
※施行日以降に開始する行動計画から義務の対象となります。現在届出済みの行動計画全てにつき内容の変更が必要となるという意味ではありません。ただし、事業主の意思で行動計画の内容を変更する場合については、施行日以降に開始する行動計画と同様に状況把握、数値目標の設定が必要です。
※「育児休業取得状況」 及び「労働時間の状況」の詳細ついては、今後省令にて正式に示される予定です。
施行日: 2025年4月1日
ここまでの内容については厚生労働省のリーフレットもご参照ください。
参考:厚生労働省リーフレット「育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法改正ポイントのご案内」
まとめ
以上のように、育児・介護分野における法改正が施行されます。
法律で決まったから事業主として対応する、というスタンスは間違いではないのですがですが、今後この分野に対して前向きに対応することは、人材の定着や新たな人材の確保に大きな影響を及ぼします。
労働者が働きたいと思う職場はどんな職場なのか?それに対して自らの職場はどうなっているのか?今回の法改正を機に、事業主の皆さまは一度考えてみてはいかがでしょうか。