106万円撤廃で、いくら年金は増えるのか?
鹿児島で社労士をしています原田です。
106万円の壁を撤廃した場合に、
「年金が増えるから別にいい」とか意見が声高に叫ばれています。
ではいったいいくら増えるのかを計算してみましょう。
厚生年金の計算式
厚生年金額の計算式は、平成15年3月前と後で異なりますが、今から加入する話なので、現在の計算式だけで試算します。
となると、計算式は
平均標準報酬額 × 5.481/1000 × 加入期間の月数
となっています。
厚労省は加入要件を週20時間以上としたいみたいなので、
時給1200円で計算した場合には、
20時間×4.2週×1200円=100,800円となります。
100,800円の標準報酬月額は、104,000円なので、
104,000円×5.481/10000≒570円
ということで1カ月加入すると、年金額は570円/年増えます。
これに対して支払う厚生年金保険料は、9,516円です。
9,516円÷570円/年≒16.69年
つまり17年で元が取れることになります。
実は健康保険料も取られます
17年だと、65歳から受け取って、82歳には元が取れるのですから、
令和5年時点の平均寿命が、男性が81.09歳、女性が87.14歳となっており、男性は損する可能性が高いですが、女性は得する可能性が高い・・・
と勘違いします。
実際は支払う必要が無かった健康保険料も取られます。
健康保険料の計算式は、
健康保険料×標準報酬月額÷2
となります。
都道府県で差がありますが、2024年の中央値を計算すると、健康保険料率っは、9.94%となりますので、104,000円の時の健康保険料を計算すると、
9.94%×104,000円÷2≒5,169円(50銭以上は切り上げ)
となります。
つまり個人が新たに負担する社会保険料は、
9,516円(厚生年金)+5,169円(健康保険)=14,685円
となります。
(ちなみに計算上で介護保険料は含んでいないの最低限の計算です)
年金が570円増えるので、
14,685円÷570円/年≒25.76年
元を取るのに25年以上かかることになります。
65歳から受け取ると、90歳まで生きなければ元は取れません。
平均寿命を大幅に超えるので、ほとんどの人は損することになります。
そもそも健康保険制度で本人が被保険者になっている場合は、出産手当金、傷病手当金もあるので、一概に損とは言えませんが、厚生年金に加入しても別に損は無い・・・は正しくありません。
但し障害になるとか、病気で長期休養する場合は、特になる可能性がありますが、それ以外で扶養されている方にとって、元が取れる可能性は非常に低いことになります。
106万円撤廃で発生する新たな問題
106万円の壁を撤廃すると、扶養されている人のほとんどは、損をする可能性が高いことはこれで分かります。
しかしこれを抜けることは可能です。
つまり20時間の壁を越えなければいいのです。
週の労働時間が20時間以上であれば、社会保険への加入となるのであれば、20時間未満のパートを掛け持ちすることで、社会保険に加入しないで働けることになります。1か所の事業所で働くことで得られるスキルを放棄して、2か所勤務にすることが、本人に有効であるかも疑問ですし、抱える労働者数が増加するので、企業の管理負担も増加します。
また、厚労省の部会では、「社会保障の公平分担」と言われていますが、専業主婦主夫には1円の負担も求めず、一定時間以上働く被扶養者からだけ保険料を徴収するという公平性を欠く決定をしようとしています。
収入に対して公平な保険料徴収をするなら、その手段は既にあります。
106万円撤廃で起こる様々な問題
公平性を欠く106万円撤廃で発生する問題は、まだまだあります。
1.企業負担の増加
上記は個人負担だけで計算しましたが、当然に同様の金額(子ども子育て拠出金が加算されるので企業負担は更に高い)がかかります。
インボイス、急激な最低賃金上昇、物価高騰、光熱費高騰で苦しむ中小企業にとどめを刺すような中小企業を狙った増税策が次々と導入されています。
こうした大量の中小企業を倒産に誘う政策に対して、設備投資の助成金では救済策になりません。M&Aの推進も大幅に支援されていますが、中小企業は大企業に吸収合併されてしまえという意味でしょうか?
2.社会福祉業の破綻
医療・介護・福祉業は自ら価格を決定できない業種であり、事業所ごとに給付される体系のため、企業規模の拡大を行っても、採算性が向上するわけではありません。
こうした社会福祉業に対して、賃上げの給付は行われていますが、物価高や光熱費上昇や最低賃金上昇に対する補填は全くありません。
特に障害者就労支援施設に106万円の壁撤廃を行うと、恐らく国内のA型事業所は9割程度は閉鎖になるでしょう(現在でも最低賃金の大幅上昇で瀕死の事業所が多くなっています)。
3.滞納事業所の増加
社会保険料等の公租公課を滞納している事業所は、現在で14万件あります。多くは経営不振やコロナ自粛等による影響ですが、こうした政府方針による社会保険料の増加は、多くの中小企業に対して多大なダメージを与えます。
労働力調査によると、パートアルバイトの比率が高い業種は、宿泊業・飲食サービス業であり、その割合は従業員の構成員数の5割を超えている。奇しくもコロナウイルスの影響で、年金保険料や消費税等の特例と臨時の借り入れで3年間を生き残った企業たちですが、これに対して更なる追い打ちをかければ、多くが支払い不能となるでしょう。
様々な問題が事前に予測できている中で、その具体的かつ、ほとんど労働者にも企業にも有効な対策無しに強行するのは、官製の特定者に対する迫害になります。税収が十分にある現在で、拙速にものごとを決めることなく、被害者が発生しない政策を深く期待したいものです。
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