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時を操る殺人鬼④
第4部:「終焉の刻」
プロローグ: 絶望の序曲
「完全なる世界」を作る――それが葛城の目標だった。無数の過去の失敗や、追い詰められた状況、誰にも理解されない孤独に苛まれた日々が、彼の心を刻んでいた。人々の期待を裏切り、踏みにじられた誇り、手に入れたはずの力を持て余したあの瞬間――すべてが彼の中で渦巻き、破滅的な衝動となって膨れ上がっていた。
彼が抱える焦燥は、もうただの感情ではなかった。それは理性を越えて、存在そのものを侵食していく、底なしの暗闇のようなものだった。葛城は深い沈黙の中で思い詰め、時には声に出して自分に語りかけた。
「すべての因果を消し去り、すべての無力を消し去り、すべての錯誤を消し去る。自分だけが支配する世界……自分が唯一の存在となる世界を――」
その言葉は、彼の心の中で何度も繰り返されていた。時間の流れに身を任せ、他者に翻弄されることなく、自らがその流れを操ることができる――その権力を手に入れれば、すべての不満、すべての失敗、すべての苦しみが消え去ると信じて疑わなかった。彼が描くのは、時間という制約から解放され、あらゆる運命を自分の手のひらで操ることのできる「完全なる世界」だった。
「過去のすべてを塗り替え、俺だけが支配する世界を――」
その決意は、まるで新たな神の誕生のようだった。葛城の目に映るのは、無限に広がる時間の渦。その渦を引き寄せ、巻き込み、変え、操り――そして、すべてを塗り替え、支配すること。それが彼の夢、彼の運命であり、唯一の道だった。
その先に待っているのは、彼自身が「絶対」に変わる未来だと信じて疑わなかった。過去に失敗し、裏切られ、傷つき、堕ちた自分を洗い流すためには、世界そのものを一度壊し、全てを最初からやり直さなければならない。それが葛城の信じる、唯一の救済だった。失敗から学んだのは、世界を変える力が手に入るとき、その力こそが真の自由を与えるのだということだった。
そして、彼は静かに決断した。時間の大改竄を決行することを――。すべての因果を、自分の思い通りに塗り替え、自分だけが支配する世界を作り上げる。その力を手にしたとき、彼の存在は「絶対」となる。時間、運命、人々の記憶、すべてが彼の手のひらの中で流れ、止まることはない。自分こそが、全ての始まりであり、終わりであり、唯一の存在となる世界を築くために――葛城はその時を待っていた。
彼の目の前には、破滅と再生が共存する無限の未来が広がっていた。それは、もう何者にも決して歪められない――自らが手に入れる「完全なる世界」への第一歩であった。
対決前夜: 最後の準備
桐生凌は、葛城が進めている「時間の改竄」の計画に気づいた。過去に遡り、すべてを消し去り、運命を根底から書き換えようとするその目論見に、桐生は全身が凍りつくような恐怖を覚えた。それは単なる未来の変化ではない。もし実行されれば、すべての人々、そして世界そのものが、新たな支配者の意志によって操られることになる。
「全人類の運命が書き換えられる…それを止めなければならない」
彼の心は、ただでさえ冷徹なものだったが、その冷徹ささえも、葛城の計画の破壊的な影響を前にして凍りつくようだった。桐生にとって、葛城の改竄は単なる破壊行為にとどまらない。それは、彼自身の存在、彼が築いてきたすべての努力までもが否定される瞬間を意味していた。だからこそ、彼は迷わず決断した。葛城の計画を止めることこそが、自分自身の運命を守る唯一の方法だと。
桐生は、冷静に過去の事件記録を洗い出し、時間操作の痕跡を徹底的に分析した。どんな細かな情報も逃すことなく、過去に何が起き、どのようにして葛城がその力を得たのかを突き止める。葛城が改竄しようとしている部分、つまりすべてをリセットし、自らの支配下におこうとする部分を徹底的に研究した。その結果、桐生は一つの重要な事実にたどり着く。時間を操る力を持つ人物が、その存在を完全に消し去るためには、改竄できない「確かな証拠」を持つ何かが必要だということを。
桐生はすべての「書き換え不可能なデータ」を洗い出し、最も致命的なもの、すなわち「葛城の存在そのもの」を揺るがす手段を考えた。それは、彼が過去に何をしてきたか、どんな足跡を残したのかを追い、最も破壊的な事実を見つけ出すことだった。葛城がどれほど時間を改竄しようと、その“始まり”を覆すことができない証拠を突きつけることが、唯一の勝算を持つ方法だと確信していた。
その夜、桐生は一人、暗闇の中で作業を続けた。モニターの画面に映し出されるデータを無心に処理しながら、目の前に迫る「最終決戦」の準備を整えていた。彼の心は冷静であり、同時に鋭く研ぎ澄まされていた。失敗すれば、ただの敗北では済まされない。全人類が一つの意志に従って生きる世界が実現し、その中で桐生自身が消えてしまう可能性さえあるのだ。だからこそ、冷静さを保ちながらも、絶対に負けられない戦いだと自分に言い聞かせていた。
一方、葛城はその時、すでに自らの過去を改竄する準備を着々と進めていた。彼は今、全てを消し去り、再構築する計画を練り直している。その最も重要な部分は、彼自身が「誰も自分の存在を知らない世界」を作り出すことだった。すべてをリセットし、自分以外のすべての人間を消し去る。過去から現在、未来に至るまで、彼一人だけが支配する世界を作り上げることを目指していた。
世界中のデータベースに干渉し、桐生の存在が完全に「過去から消し去られる」ように仕掛けを施していった。彼は、改竄された未来の中で桐生が存在しないことを確実にするために、あらゆる手段を使うつもりだった。その手がかりとなるのは、未来視が示す「完全犯罪の設計図」だった。未来視が見せる未来には、時間操作による完全な支配が確立されている。すべてが一つの方向に進む中で、桐生はただの存在ではなく、かつて存在した痕跡すらも消されていく――それが、葛城の最終的な目的だった。
その計画が成し遂げられれば、桐生も含め、すべての抵抗者は「存在しなかったこと」になる。未来視の力が示す通り、全ては最初から決められていたことだった。その中で、葛城こそが唯一、絶対の支配者となり、どんな干渉も、どんな抵抗も存在しなくなる――そして、その世界が完成するのを、彼はただ待つだけだった。
だが、桐生はその準備を着々と整えていた。彼の冷徹な分析と準備が、葛城の計画を根底から覆すための最も確実な手段となることを、二人はまだ知らなかった。
終焉の時: 最後の対決
第1幕: 世界の書き換え
葛城はついに、時間の巻き戻しを無限に繰り返す操作を開始した。彼の指先から放たれるエネルギーは、まるで全宇宙の法則を操るかのように、現実そのものを歪めていく。時間は過去へと遡り、歴史の出来事が次々と消去されていく。人々の記憶、事件の証拠、存在そのもの――すべてが無意味に塗り替えられ、消失していった。
葛城はその光景を、冷徹な目で見守りながらも、心の中では歓喜の波が押し寄せていた。すべてが彼の思い通りに進んでいる。全ての人間の運命、すべての出来事が彼の手の中で操られ、無限の可能性を持つ新たな世界が形作られつつあった。時間を巻き戻すことで、今までの誤りを消し去り、再び「完璧な世界」を築く――その確信が、彼の心に揺るぎないものを与えていた。
「すべての始まりから、もう一度…今度こそ、完璧な未来を!」
その声は、まるで神のように響いた。彼の周囲には、現実の枠を超えた光が満ちており、その中で彼自身も一種の超越的な存在になったかのように感じていた。彼の視線が向かう先には、未来視によって描かれた世界の設計図が浮かび上がり、形を成しつつあった。それはまさに、彼が描いた通りの完璧な未来。誰もが知るはずの出来事、歴史の流れ、すべてが彼の思い通りに進んでいく。
「過去の失敗も、無駄だった努力も、すべて無かったことにするんだ」と葛城は心の中で呟きながら、操作を続けた。時間の中に存在する無数の因果関係が、彼の意志に従って次々と引き戻され、リセットされていく。彼が望むのは、全ての人々が、そして自分自身が、何一つ不完全なものを抱えず、ただただ完璧な状態で存在することだった。もはや過去の重み、失敗の記憶すらも意味を失っていく。すべてが消え、新たに作り出される「理想の世界」に向けて、運命が再構築されていく。
その時、葛城はふと立ち止まり、虚ろに浮かび上がる世界の設計図に目を凝らした。そこには、自分が絶対的な支配者として君臨し、すべてを支配する世界が広がっていた。全ての人間は、彼の指示に従うことになり、抵抗する者など誰一人としていない。葛城が一歩踏み出すたびに、世界はその歩みに合わせて調整され、彼が望む姿へと形作られていった。彼自身が時間そのものであり、世界そのものであり、何一つとして彼の意志を裏切ることはない。
「これが、俺の世界だ――」
その言葉は、まるで神のように絶対的な響きを持ち、今や誰にも止められない運命の流れを感じさせた。彼の思考が完全に世界に溶け込み、時間そのものが彼の意志に従う瞬間が訪れた。これが、彼がずっと求めていた「完璧な未来」の形だった。
彼が手にしたのは、もはや単なる力ではない。時間を操り、世界を支配するその力は、彼にとっては新たな神のような存在であり、彼自身がその支配を強固にするために、すべての現実を改竄していく作業に没頭した。今、目の前に広がるのは、ただ一つの完璧な未来だけだった。
第2幕: 運命の破綻
しかし、桐生はそのすべてを見透かしていた。葛城が時間を操り、世界を改竄しようとするその計画に、桐生はただ無力に立ちすくむことはなかった。彼の未来視は、単なる予測ではなく、すでに葛城が仕掛けた数々の罠や策を完全に見通す力を持っていた。桐生はその直感と戦略によって、逆手に取るための準備を整えていた。
桐生が最大の焦点に置いたのは、葛城の過去だ。時間を改竄することで未来を思い通りにしようとする葛城の動きに対抗するため、桐生は「改竄できない過去」を守ることに全力を注いだ。その過去の真実とは、葛城の出生記録と家系にまつわるデータであり、それはただ一度も変更されることなく、世界中の無数のサーバー群に分散保存されていた。桐生は警察と極秘に連携し、世界中の独立したサーバーにそのデータを広範囲に散らばらせ、いかなるハッキングや改竄が加わっても消し去ることのできないようにしていた。この「最初の真実」を守るために、桐生は時間と資源を惜しまなかった。どんなに葛城が未来を改竄し、過去を塗り替えようとも、このデータは揺るがない。葛城の存在そのものを抹消しようとする試みは、決して実現しないと桐生は確信していた。
桐生はさらなる手を打っていた。時間の流れが改竄され、すべてが変わったとしても、彼はそれに対抗するために、アナログデータの追跡記録も準備していた。デジタルデータが完全に破壊され、消去される前提で、桐生は物理的な記録媒体を用意していた。書面、写真、フィルム、そして極秘のアーカイブ――すべては手書きの記録や印刷物として残されており、いかなる改竄が行われても、世界のどこかに必ず存在する「真実」の足跡があった。このアナログデータは、どんなに高性能な技術であろうと、消し去ることができない。葛城がどれほど時間を巻き戻し、未来を塗り替えても、過去に残る記録こそが、彼の支配を打破する唯一の鍵だった。
桐生は冷静に、かつ素早く動き続けた。彼の目には、すでに葛城の改竄した未来の世界がどうなるかが見えていた。時間を操る力を持つ葛城が、過去を消去し、未来を思い通りにしようとしているその瞬間にこそ、桐生の反撃が最も効果を発揮する。どれほど巧妙に時を操ろうとも、桐生はその動きに確実に対応するために、あらゆる手段を講じていた。
葛城が現実を塗り替えるごとに、桐生はその動きに合わせて防御を強化していった。すべてのデータがリセットされ、誰もが違う記憶を持つようになったとしても、桐生だけはその背後に存在する「本当の過去」を知り、守り続けることができた。そして、彼は信じていた――いかなる力であれ、過去の「真実」を消すことはできない。その「最初の真実」が存在する限り、葛城の思い通りにはならない。
桐生の準備が整った今、あとは運命をどう切り開くかだけだった。改竄された未来の世界に立ち向かうため、桐生はただ静かに、冷徹に、そして確実に計画を実行に移す時を待った。
第3幕: 崩壊の始まり
葛城は、改竄の計画が時間の流れに与える影響を完全に掌握していると信じていた。彼は、その力を使い、未来を自在に操るだけでなく、すでに決定された過去までも書き換えることで、全てを自分の思い通りにしようと試みていた。過去の出来事を消し去り、運命を根本から変えることができれば、彼は自らを神のような存在にすることができると確信していた。しかし、その盲点に桐生が気づき、彼の計画は思わぬ形で崩れ始める。
桐生は、時間操作がもたらす混乱と葛城の計画が深刻化していく中で、冷徹にその隙間を突いていた。未来視を駆使し、彼は葛城が最も予期していなかった方法で反撃を準備していた。桐生が最も重視したのは、時間操作によっていかに未来が書き換えられたとしても、「過去の最初の真実」は決して消すことができないという点だった。その過去に関わる記録は、すでに彼の手によって厳重に守られており、どんな改竄が加えられようとも、消すことのできない「最初の真実」が存在し続けると信じていた。
桐生の計画は、もはや単なるデータの保存に留まらなかった。彼は世界のネットワーク全体を活用し、葛城の存在を全世界に公表するための公開プログラムを仕掛けた。そのプログラムは、世界中のメディアとインターネットを通じて瞬く間に広がり、巨大な映像メッセージとなって、葛城の名前とその過去を再び世界に刻み込んだ。映像には、葛城がどれほど時間を改竄しようとも、その「最初の真実」を覆すことはできないことが明確に示されていた。
その瞬間、葛城は衝撃を受けた。自分がこれまで操作してきた世界が、一瞬にして崩れ去る危機に直面したことを理解したのだ。彼は、過去を改竄し、自らの存在を無力化しようとしていたが、桐生が仕掛けた「公開プログラム」によって、その「最初の真実」が世界中に広まることで、何が起こったのかがすぐに明らかになった。彼がどんなに未来を塗り替えても、過去に刻まれた事実だけは消すことができない。その事実を知らしめた桐生の行動は、葛城の計画に致命的な一撃を加えた。
「俺の存在が消えない限り、全てが無駄…」葛城はその言葉を口にした。彼は、過去を決定づける「最初の真実」に触れられた時、初めてその不可逆的な力の大きさを感じ、同時に自分の無力さを痛感した。これまで時間を自由に操ることができると信じて疑わなかったが、過去に対しては何一つ手が届かないという現実を突きつけられた。
桐生が仕掛けた公開プログラムは、単なる反撃にとどまらなかった。それは、世界中の人々に「葛城が決して消え去ることはない」と証明する手段となった。その瞬間、葛城は自分の計画が完全に破綻したことを痛感することとなり、改竄された未来に対する支配を失う一歩手前に追い詰められたのだ。世界中に広がった映像メッセージは、彼の存在を暴露し、時間の流れを元に戻すことが不可能であることを示した。どんなに新たな世界を作り上げても、過去に残る「最初の真実」によって、それは破壊される運命にあるのだ。
葛城の手の中で、すべてのピースが崩れ始めた。時間操作を制御していたはずの彼は、ついに自らの誤算に気づき、その背後で微笑む桐生の手のひらで踊らされていることを痛感した。
第4幕: 存在の抹消
時間の改竄は、葛城にとって一度始まると終わりのない無限の螺旋に似ていた。彼はもはやその渦中に飲み込まれていた。時間という存在そのものが、彼の手から滑り落ちていき、過去の改竄が意味を失うにつれ、彼の「未来視」の成功確率も次第に崩れ落ちていった。まるで次々に築き上げた自分の計画が、無数の亀裂を生じながら次第に瓦解していくかのようだった。
「なぜだ…なぜ…!すべての過去は俺が作り変えたはずだ!」葛城は自問自答を繰り返し、その言葉が空虚に響いた。これまで確信していた時間操作の力が、今や彼を完全に裏切り始めていた。自らの計画が無意味になり、改竄しようとした過去がどんなに手を加えても元に戻らないことに気づいた瞬間、彼の目の前に広がったのは、恐怖と絶望の深淵だった。
彼が目指してきた完璧な世界は、まさに幻影に過ぎなかった。時間を改竄しても、全てを消し去っても、存在そのものを否定することはできない――過去の「最初の真実」によって、彼の力は限界を迎えた。そして、その絶望は彼の精神を次第に蝕み、葛城は意識を失いつつあった。
そのとき、時間が彼を拒絶しているように感じた。まるで時間そのものが、彼の存在を消し去ろうとしているかのように、時間の流れが彼を押し出し、否定していく。それは物理的な時間の流れに留まらず、心の中の時空すらも歪めていった。彼の周りの世界が静止し、すべてが揺らぎ、歪み始める。彼はその狂気の中で、次第に自分がどこにいるのかさえわからなくなり始めた。
「俺は…消えてしまうのか?」葛城の意識が次第に薄れ、彼の身体がその場に消えていくような感覚に囚われた。彼の存在そのものが、時間に呑み込まれ、消失していくのだと直感的に感じ取る。彼はもはや世界からも、他の全ての存在からも、完全に切り離されていた。すべてが逆転し、彼の持っていた時間操作の力は、今や彼自身の破滅を加速させる要因となった。
彼の意識は、深淵へと引き寄せられていく。その深淵は、まるで時間の根源に繋がる場所のようで、彼が触れた瞬間に全てが崩壊し、消えていくのを感じ取った。すべてが無に帰し、彼の存在は次第に形を持たなくなり、最終的には「存在しなかったこと」へと引き寄せられていった。時間の流れの中で、彼はもはや存在しない――それが時間の裁きだった。
そして、葛城は静かに消えていった。世界は何もなかったかのように静寂を取り戻し、彼が起こしたすべての改竄の痕跡も、まるで最初からなかったかのように消え去った。
結末: 終焉の時、未来への一歩
桐生凌は、ついに葛城との戦いに勝利を収めた。彼の力は、世界を崩壊させかねないほどの危険を孕んでいた。その全てを、見事に打破し、時間を操る力の暴走を止めた。しかし、桐生はその勝利を素直に喜ぶことはなかった。葛城が消え去り、時空が本来の姿を取り戻した今も、彼の中には消しきれない不安が残っていた。
「この力が完全に消えたわけではない。」桐生は、冷徹な視線を外の風景に向けながら、心の中で呟いた。未来視と過去改竄という強大な技術が失われたといえども、その種はどこかに残り続ける可能性がある。その力が再び誰かに引き継がれることは許されない。桐生はその危険性を、今も警戒し続けていた。
葛城のように、未来を操り、過去を塗り替えることができる者が、再び現れる可能性がある。桐生自身も、その力に対する畏怖の念を抱いていた。もしも誰かがその力を掌握すれば、再び歴史が歪み、無限の混乱が巻き起こることだろう。桐生の目は、これからの未来を見据えたものとなっていた。その視線の先には、まだ誰にも予測できない新たな脅威が待ち受けているのかもしれないという確信があった。
だが、桐生は今、あえてその未来に向けて一歩を踏み出さなければならないことを理解していた。冷静に、そして確固たる決意を胸に。「運命は決まったものじゃない…それを忘れた時、人は時に飲み込まれる。」彼はその言葉を、自らに言い聞かせるように思い返す。すべての人間が運命に囚われることなく、自らの意志で歩み続けることこそが重要なのだと。どんなに厳しい未来が待ち受けていようとも、桐生はそれに屈するつもりはなかった。
彼は、過去を改竄し、未来を操る力に溺れることなく、自分の力を正しい方向へと使っていくことを決意した。それは、過去の出来事に対して何もできなかった自分を乗り越え、今、未来に希望を託すこと。それが桐生にとって、最も大切なことだった。世界の運命は、誰かの手のひらで決まるものではなく、全ての人々の意志が積み重なって形作られるものだという信念が、彼の中で確立されていた。
そして、桐生はゆっくりと歩き出す。もう過去を悔いることはない。未来は未だ見ぬ世界であり、無限の可能性を秘めている。それに向けて歩む一歩一歩が、桐生にとっては新たな戦いの始まりであり、真の勝利への道であると確信していた。
――完――