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vol.026 にじいろ屋

昨年11月にオープンしたにじいろ屋さんは、島の農家さんが作る野菜やフルーツ、加工品などを販売している小さなセレクトショップだ。

野菜やフルーツなどは、オーナーの真理子さんが島を駆け巡り、農家さんから直接買い付け、自宅のガレージを改装したお店で量り売りで販売されている。

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八百屋なのにおしゃれな空間だな、というのが私の最初の印象だった。今年の初めごろに娘を連れて訪れたときは、野菜嫌いを自認するひとが、野菜の量り売りにときめく姿が新鮮だった。 

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一つ一つ吟味しながら野菜を買い物カゴに丁寧に入れていく仕草と表情からは、欲しいものを欲しい分だけ自分でセレクトするという買い物体験に夢中になっているのが伝わってきた。彼女にとっては、「お買いものごっこ」をしているような体験だったのだろうと思う。おしゃれな野菜のセレクトショップなだけに、お値段もそれなりに高いのかな? と思いきや、「えっ!」と思うような価格だった。それは通常スーパーマーケットや市場で買い物をする時とほぼ変わらない値段だった。それからは、オーナーの真理子さんが「美味しい野菜や、珍しいフルーツを入荷しました」とSNSに写真を投稿しているのを見ては、車を走らせて石垣島の新川にあるにじいろ屋さんへと買い物へ出かけている。

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先日SNSで、直径1.5cmぐらいの黒く艶やかなフルーツ「ジャボチカバ」の入荷のお知らせを見てにじいろ屋さんに行ってきた。初めて出会ったフルーツは想像以上に果汁が多く甘みもしっかりしていてブドウとライチを合わせたような味わいだった。一通り買い物を済ませて、お客さんが途切れたタイミングを見計らってオーナーの真理子さんにお店のこと、真理子さんのことを伺った。

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真理子さんは高校まで岡山の倉敷で育ち、その後福岡で海洋生物を学ぶための学校へ進学した。在学中に訪れたのが西表島だった。八重山との出会いはそれが初めてで、とにかく最初はその圧倒的な存在感を放つ自然に魅了され、気づけば人に惹かれ、文化に惹かれ、歴史の勉強を始め、のちに働くことになった沖縄の物産を扱う会社を辞めた後は、引き寄せられるように石垣島へと移住。私が八重山に移り住んだ20年ほど前の同じ頃で、私と同い年でもあり、人との間に壁を感じさせない真理子さんの性格から自然と親近感を覚えた。 

真理子さんは、お店をオープンする1年ほど前からお野菜のオンライン販売と配達のお仕事を始めていた。配達先は、主に体が不自由な人や子どもの世話で思うように買い物へ出かけられず困っている人たちだった。

野菜やフルーツは、真理子さんが長い時間をかけて信頼関係を築き上げてきた農家さんから直接仕入れている。「売り手と農家の関係性ではなくて、個人と個人の関係性でいたい。ただの物として売るのではなく、作っている人のその背景と想いを共に届けたいんです」。来店するお客さんに対しては、「私にとっては、物を売るというより、好きな人が分けてくれたものを好きな人にシェアしている感覚があります」と話す真理子さんの言葉には気負った部分はなく、聡明でありながら楽しげだ。 

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彼女は「農家さんが好きだから」という言葉を何度も口にしていた。規格外の曲がったキュウリをあえて選んでお店に並べるのも、フェアな値段で現金で仕入れるのも、雨の中カボチャの芽かき作業を西表島まで手伝いに行くのも、買い付けに行って家族の話や悩み事などの話を聞くのも、お客さんの「美味しかったです」という声を農家さんに伝えるのも「農家さんが好きだから」。いつか「にじいろ屋」をお客さんと農家さんの交流の場にしたい、生の声を届けたいんですと話す真理子さん。 

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さよならを言い合い車の運転席に座ると真理子さんが新聞紙に巻かれた包みを抱えて走り寄ってきた。「これ、今日農家さんがくれた規格外の小松菜なの。 良かったらもらってね」と包みを手渡してくれた。 

包みに貼られた手作りのステッカーには、「農家さんと食卓の虹の架け橋」という文字がプリントされていた。

にじいろ屋

【水野暁子 プロフィール】
写真家。竹富島暮らし。千葉県で生まれ、東京の郊外で育ち、13歳の時にアメリカへ家族で渡米。School of Visual Arts (N.Y.) を卒業後フリーランスの写真家として活動をスタート。1999年に祖父の出身地沖縄を訪問。亜熱帯の自然とそこに暮らす人々に魅せられてその年の冬、ニューヨークから竹富島に移住。現在子育てをしながら撮影活動中。八重山のローカル誌「月刊やいま」にて島の人々を撮影したポートレートシリーズ「南のひと」を連載中。


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