放送技術のセカイ~番組制作の現場に潜入~
スカパー!の「放送・配信を支える技術」にフォーカスしてお届けしている「放送技術のセカイ」。
これまで、放送番組、そして配信番組がどのようにしてみなさんのご家庭やスマートフォンに届けられているか、「放送技術」の観点でお届けしてきました。
今回の #放送技術のセカイ では、
例えばサッカーの中継の際に、試合会場からどのように放送設備のあるスカパー東京メディアセンターに送るのか、さらにはどのように番組作りが行われているかなど、より「番組の上流」である番組制作にフォーカスして、今回も技術に携わる社員にお話を聞いてきました!
お話を聞いた人
Sさん
入社25年目社員。
入社2年目より番組制作技術を担当しており、現在は各会場で実施されるスポーツ試合や音楽ライブなどの番組伝送を担う。
好きなテレビ番組は「それって!実際どうなの課」(日本テレビ系)。
また民放のドラマフリークでもある。
編集マンでもない!カメラマンでもない!「番組制作マン」って?
―Sさんは番組制作の技術担当をされていたとお聞きしました。
まずは入社からの経歴を教えてください。
Sさん「中途採用で1998年に入社したのですが、そのあとすぐに会社として『コンテンツを作ろう』っていう流れになって。1999年にセリエAの放送権を獲得したときから番組作りを開始しました。そこからはスポーツ中継や音楽LIVEイベントとか、格闘技とかも担当していましたね」
―具体的にはどのような番組を?
Sさん「当初は会社として目玉商品をたくさん作ろうっていう方針で。日韓ワールドカップ開催前年の、2001年に開催されたコンフェデレーションカップの制作にも関わっていました。(ワールドカップ)本大会中は青海放送センターにいて、1試合あたり4~5映像が届くので、マルチ放送制作(一つのチャンネルIDで複数のチャンネルを送信する放送)を行っていました。
あとはPRIDE(現在のRIZIN)やMLB中継、NFL中継、Jリーグ中継など、どんどん制作する番組の幅が広くなっていきましたね」
―なるほど。スポーツ中継の制作のイメージがまだつかずで…。実際どのようなことを行っていたのでしょうか?
Sさん「当時は、Jリーグさんからライツ(権利)を購入し、スカパー!で放送していました。その際に番組制作を他社に依頼したり、会場からTMCに送る時の信号の伝送回線を確保したりもしていました」
―なるほど。わかったような、わからないような…(笑)
Sさん「あはは、そうですよね。 カメラマンさんとかスイッチャーさんとか音声さんとか、そういう人たちが『現場作業している人』っていうイメージだと思うので。そこに関しては我々の社員がやるのは難しいので、協力していただいている制作会社さんにお願いしていました。
その人たちに対して、カメラ配置、音声マイクの配置などの技術的な要件項目をまとめ、各社に同じ技術スペックで制作できるよう指示をする事が主な仕事でしたね。つまり、全試合が同じような映像になるよう、映像制作の体裁を整えている業務です」
―なるほど。すでに撮影・制作された物をただ放送するだけというのではなく、全部自分たちで手配しなくてはならないということですね。その分、例えば「ある試合では、この人を特にマークしてカメラで抜いて欲しい」というアレンジがきくのでしょうか?
Sさん「そうそう、できますよ。今は野球もJリーグも公式映像は球団・クラブが映像を作っていて、我々の番組制作の機会が減ってしまいましたが、この前の『中村俊輔 引退試合~SHUNSUKE NAKAMURA FAREWELL MATCH~』あったじゃないですか。これはまさに番組を担当していたコンテンツ事業部が力を入れて、どうやって中村俊輔選手や他のレジェンド選手のプレーを見せるか考えていましたね」
―ブンデスリーガジャパンツアーのときも「長谷部誠選手にフォーカスしたカメラ」ありましたよね。
Sさん「そうですね。お客様のニーズを考えて、どう見せるのかを考えるのは面白いなって思いますね」
印象深かった仕事は、「飛び出すサッカー」?
―番組制作をしていて、印象に残っていることはありますか?
Sさん「普通のサッカー試合でも、技術の進歩に合わせて実験的にいろんなことをチャレンジしていたことですかね。ハイビジョンに始まり、3Dもやって、4Kも始まってという風に。特に3Dのときはスカパー!でも力入れてやっていましたね」
―3D放送をやっていたんですか?全然知らなかった…(笑)
Sさん「2010年ぐらいかな。スカパーでも3D専門チャンネルあったんですよ(『スカチャン3D 169』)。眼鏡かけて見ると、立体感あるように見えるっていう」
―そうなんですか!どんな風に見えるのか見てみたかったですけど、終わっちゃったんですね。
Sさん「3Dのコンテンツがあまり一般的ではなかったので、2013年頃で終わっちゃいましたね。でも、映像は自分たちで撮りに行っていました。現場である程度立体感を調整して、それを編集でまた微調整するっていう」
―それはさすがに生中継だとできないですよね?
Sさん「難しいですが、Jリーグ中継で一部やっていましたね。(選手やボールが)飛び出したりして刺激感は出ました。
あと印象的だった業務でいうと、スカパー・ブロードキャスティングで中継車を所有していた時に、音楽ライブも多少お手伝いしに行ったことありますね」
―そうなんですね!
Sさん「大変なところもありますけどね。リハーサルまでにセットアップしないといけないんですが、機材が多くて。カメラも20台ぐらいあって、それをどうやってセッティングするかって難しいんですよ。普段と違うカメラも多数使う事もあるし(笑)」
―そうなんですね!でも、確かに音楽ライブの放送を見ると色々な画角で撮られていますもんね。どのタイミングでどこを映すというのは制作サイドが決めるのですか?
Sさん「それはだいたい、アーティストの事務所のお抱えの制作会社やフリーカメラマンで、歌もわかっていて、そのアーティストに気に入られている人がやっていることが多いですね。そういう人って、監督さんが『この曲で欲しい画はこうで、こういう風にカット割りしましょうね』って言えばすぐに伝わるんですよね」
―なるほど。とはいえ生中継の時は絶対間違えられないですね…!
Sさん「あはは(笑) 間違えちゃいけないですね。
音楽ライブの中継では、ディレクターさんとスイッチャーさんがいて、ディレクターさんの元でスイッチャーさんが押していくのですが、その進行管理している進行(通称:指示出しさん)と呼ばれる人です。
その人が、監督が指示をしたカット割りを全部読み上げるんですね。『〇〇さんが上手から登場します』みたいな。そうすると、今度カメラマンが指示に合わせて抜いて行くっていう」
―次はこっちから!みたいな。
Sさん「そうそうそう。何拍でセットチェンジしますとかも全部言ってくれて、それに合わせてカメラマンが撮っていくんです」
―指示する人は、切り替わるちょっと前から言い始めているってことですよね。曲も聴きながらだと訳がわからなくなりそうです…。
Sさんの番組制作の話に戻りますが、制作の際は毎回現地に足を運んでいるんですか?
Sさん「そうですね。ワールドカップのときもそうでした。日韓戦の時は日本にいましたけど、ドイツ、南アフリカは現地に行きましたね」
―南アフリカ?!遠いですね。
Sさん「地球の反対側ですね(笑) サッカーの場合、当日はだいたいキックオフの6時間か7時間前に入って、カメラのセッティング、音声のマイクのセッティングとかをします」
―そのセッティングはカメラマンさんご自身でやるのではないんですね!
Sさん「もちろんやります。でもみんなでやらないと間に合わないんです。音声さんも4人くらいの少人数で、ゴール裏とかヒーローインタビューのマイクとかピッチの色々なところにマイク仕込まなきゃならないので。グラウンド1周って大きいから、それもかなり大変です」
―たしかに置きに行くだけでもかなり歩きますね。でもやっぱり、機材を触っている人達ってかっこいいなっていう憧れはあります。
Sさん「大変ですよ(笑) 天気よければいいですけど、サッカーは雨でも中止にならないので、雨の日はずっとカッパ着ながらセッティングです」
―雨用のセッティングがあるのですか?
Sさん「ありますよ。カメラのケーブルの接続が濡れないように、ビニール袋かぶせたりカメラにカメラ用の雨具付けたり、マイクにも風防カバー以外にビニールを被せる場合もあります。だから雨の日はいつもより時間かかっちゃいます。
雨の日であろうが、冬場の寒い日であろうが、時期関係ないですからね。昼間のゲームだと、日がまだ昇っていない時間にセッティングしなきゃいけない、ということもあります(笑)」
―大変! でも、メディアのお仕事って感じがします。
どうして番組制作担当に? そして現在のお仕事
―入社経緯をお伺いしたいのですが、もともと入社前もメディアとか制作とかに興味があったり経験があったのですか?
Sさん「わたしは中途採用なんですけど、新卒でTBSの関連グループの制作技術会社で番組作りをしていました。バラエティとかドラマとかの制作で、緑山(スタジオ)にもけっこう行っていましたね」
―あっ、そうなんですね!じゃあ、ずっと制作一筋だったんですね。学生時代からそのような経験や、制作への興味があったのですか?
Sさん「学生時代は専門は理系で、その当時は画像工学がやりたくて、画像処理分析の研究室に入ろうとしたんですけど選考で落ちちゃったんで、もれなく変な研究室に入らされちゃって(笑) 」
―(笑) 何系の研究室に入ったんですか?
Sさん「結局、重回帰分析や多変量解析などの統計学の研究室でした」
―「変な」ではない分野だと思いますけど!(笑) でも、本来やりたかった画像処理とかでいうと少し映像技術に近しい感じはあります。そこから制作やエンタメに興味があってそういう業界に。
Sさん「最初は局を受けていたんです。僕は北海道出身なので、北海道の局も受けたりしたんですけど、技術職も狭き門で落ちてしまって。どこ行こうかなーって時に(TBS関連の制作会社で)働けることになって」
―そうだったんですね。でも制作会社ともすれば相当忙しそうな。
Sさん「そうですね。今みたいな法律もなかったですし、繁忙期はほとんど休みなしでした。だからスカパー!に入社してからは残業が少なくなったと思ったんですが、途中から番組作るよってなったときは結局また忙しくなって(笑) 」
―最初番組作る予定じゃなかったってことですもんね(笑)
そこから今に繋がるわけですが、現在のお仕事でのやりがいや、大変なことを教えてください。
Sさん「今は、回線を手配する仕事が多いので、新しくできた会場から映像を放送・配信する時は結構大変ですね。サッカー場は実績があるからそんなに問題もなくすんなり行くんですけど、新しいライブ会場とかは実績がないから、現地調査から行ったりだとか」
―具体的に、調査ではどのような観点を見られるのですか?
Sさん「まずMDFっていう、インターネット回線を建物全体に回している光ファイバーが集約された場所があるのですが、そこから中継車のエリアまでファイバーを引き延ばしできないか調査してもらいます。大きなイベント会場やサッカースタジアム、野球場等はキャリアさんが常時専用線を持っていて24時間つながっているので、そのキャリアさんのセンターから各会場やスタジアムに結んでいます」
―地方の会場だと自力で全部線を繋いでいくのは大変ですもんね。もし中継車までファイバーが通っていない場合は?
Sさん「その時はMDFから中継車のエリアまで工事を入れるか、臨時で中継車エリアからMDF室まで外部スタッフと一緒に同軸ケーブルを引き回す事もあります」
―工事まで手配が必要なのですね…!でもそれがあってその会場は今後中継をしていけるってことですもんね。現在の目標はございますか?
Sさん「過去にスカパー!の番組で一緒に番組制作をしていた方と、展示会等で会った際に挨拶がてらに近況報告することがあるんです。
そういう時に、まだまだスカパー!は番組作っているぞー!と言いたくて。次回会ったときには『こんな面白い番組に関与していますから、お仕事を一緒にできる機会があります。また楽しく仕事させてください』と胸を張って言う、というのが目標ですかね!」
これからのスカパー!に思うこと
―現在のお仕事についてお伺いしましたが、今後取り組もうとしていることなどはありますか?
Sさん「最近では、エフエム東京系列のラジオ局の放送センターをTMCの中に置く、という取り組みはあります。実験は完了したので、実施に向けて進んでいるんじゃないかと」
―東京では「TOKYO FM」を放送しているエフエム東京さんですね。TMC内に置くことでどのようなメリットがあるのでしょうか。
Sさん「例えば、全国で放送する番組を東京で収録した時、今は番組の素材のデータを各局に送らないといけなかったのが、放送センターを集約することで同じ放送センターからそのまま放送できるようになります。システムの管理体制も、小人数での運用が可能になるとか」
―それは確かに、工数削減になりますね!
Sさん「ただ、FM局はやっぱりローカル色を出す番組も必要なのでね。そういう場合は逆に各地から(番組データを)送ってもらわないといけないんだけど」
―確かに。それでも設備費用や人件費を踏まえると集約のメリットはあるということなのですね。他局のラジオや、テレビでも応用できそうですね。
Sさん「そうですね。すでにNHK・民放各局で地上波中継局の共同利用の検討も始まっているしね。あと私のチームでは、番組制作設備を外部の方に貸し出しする取り組みを積極的に行っています。」
ーなるほど。
会社としての取り組みを伺いましたが、Sさんとして、スカパー!ってこうなっていったらいいんじゃないかという思いはありますか?
Sさん「難しい質問ですね(笑) でも、私たちのスポンサーは視聴者ですから、視聴者の方が喜んでくれるものを提供しないとビジネスは成功しないと思っています。スカパー!でもいいし、SPOOXでもいい。とにかく視聴者に見てもらえる面白い番組を提供しないと伸びていかないのかなと思いますね」
―最近ではどの配信サービスもオリジナルコンテンツをどんどん制作していますよね。
Sさん「そうですね。WOWOWさんもそれを継続しているし、最近はNetflix、Amazonでもオリジナルのドラマを見られますよね。例えば漫画の映画化もヒットしていたりしますし、みなさんの情報源から何か売れるコンテンツを探し当てる必要がある時代なのかもしれないですね」
―それでいうと、以前の企画で1年目の子と話した時もコンテンツが好きな子がまだまだいるなと思いました。それがたとえテレビじゃなく、漫画とか格闘技だとしても、好きなものへの気持ちは持ち続けてほしいなと思いますね。
Sさん「料理が好きですって人が、3分間クッキングの動画を作ってもいいと思いますし(笑) あとは撮り方で個性を出すとか。最近格闘技にもレフェリーの目線の映像が出たりしているんですよ。最近だったらJRAさんが試験的に競馬のジョッキー目線のカメラを導入している例もありますね」
―そうなんですね!この前、『ギャンブル好き社員座談会』をやったときに、ジョッキー目線のカメラがあったらいいのにね、みたいな話をしていたんですけど、もうあったんですね!
Sさん「やっているんですよ。さすがにまだ生中継できないですけどね。いずれは可能になるでしょう!」
―でも先ほどの話に戻ると、座談会で1年目社員から『放送技術・撮影技術を伝えるYoutubeやりたい』っていう声もあったりしましたし、工夫をすれば身近なところから若い世代に何らかしら刺さるコンテンツ制作、発信ができるかもしれません。
Sさん「別に有名人を使おうってわけでもないしね。『入社1年目スタッフが●●を撮影してみました!』とか面白いかも(笑)」
―いいですね(笑) ぜひ、その時は制作、撮影指導をお願いします!
(取材=タンタン)
これまでの #放送技術のセカイ はこちら。