編集部が語る! Netflix「LIGHTHOUSE」の凄さについて考えていたら、夏目漱石に辿り着いた話
Netflixシリーズの「LIGHTHOUSE」は既にご覧になっただろうか。
Netflixでの配信が開始された日に1話を見て、あまりに良すぎてその日に夜更かしして6話まで一気見。
以降ラジオやスペースを聞いて「なるほどそんな裏話が…」というのを知ってはまた見返して…という日々を送っているくらい、何度噛んでも味がしすぎる番組だった。
(ここからは番組内容についてガッツリ触れていくので、もし何の情報も入れずに番組を見たい方は見た後に戻ってきていただけると嬉しいです)
「LIGHTHOUSE」とは?
「星野源のオールナイトニッポン」でも、「まだ言えない」と言いつつも何かのお仕事が進行中で、楽曲もたくさん作っている様子が見受けられていたが、
番組内容の情報が解禁され、6ヶ月連続での収録だったこと、そしてまさかの各回ごとにその回のトークをモチーフにした楽曲を制作していて、そのパフォーマンスも番組に含まれるということを知ったとき、嬉しさよりも先に「毎話新曲???6曲も(主題歌含め)???どういうこと???」と状況をすぐには飲み込めない状況に陥ってしまった。
ちょうどTBS系「世界陸上」「アジア大会」のテーマソングである「生命体」の制作時期ともかぶっていたという。
源さんを前にしては仕事忙しいなんてほざけまい…!笑
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そんな「LIGHTHOUSE」だが、対談場所が毎回異なっているのも面白い。
たまたま2人共に下積み時代の思い出の場所にある高円寺のYonchome Cafeから始まり、港区の1泊200万円(!)のホテル、クリスマスパーティー仕様の居間、当番組の演出を手掛けた佐久間宣行さんがTwitterで呼びかけて観客を集めたサプライズライブ、そしてドライブとしての車内と行き着いた先である海の近くのカフェ、そして2人のユニット名の意味である灯台…とさまざまだ。
(佐久間さんの呼びかけは見ていたけど流石に躊躇ってしまったのをめちゃくちゃ後悔している。こちらの観覧記note楽しく読ませていただきました!)
番組の内容は、先述の通り「悩み」をテーマにしている。
「1行日記」として収録日までの1ヶ月間、それぞれが感じた悩みを赤裸々に書き綴ってきて、それをお互いに発表しそこからトークが展開していくというもの。
言ってしまえばそれがこの番組の全てであり、至ってシンプルな内容である。
でも、1話を見終わった瞬間から「これはやばい!」と、既に見た人に連絡を取らずにはいられないような興奮を覚えた。
なぜこんなにも、2人の対話に突き動かされたんだろう。
そう考えた時にふと思い出した感情は、夏目漱石の小説を初めて読んだ時の興奮だった。
漱石作品に見る「悩む人」
夏目漱石作品に出てくる主人公は、常に葛藤を抱えて生きているように見える。
そもそも「漱石」というペンネームも「負け惜しみが強い・頑固者」というところから来ているそうだが、そこからすると、筆者自身の性格も漱石作品の主人公に通じるところがあったのかもしれない。
例えば「坊っちゃん」の主人公も例に漏れず、真っ直ぐで曲がったことが嫌い。それでいて、世の中に対してちょっと斜に構えて見ているような人物だ。
決して聞き分けが良かったり、八方美人で愛想良くできるタイプでないので「生きるのが上手」というようなキャラクターではない(むしろその逆)。
でも、その裏表のない考え方は筋が通っているし、みていて気持ちがいい。だから愛されるのであろう。
医学者・解剖学者であり、著書に「バカの壁」があることでも有名な養老孟司が、中学生に向けて「坊っちゃん」についての講義を行った際、以下のように語っている。
社会や世の中との「ズレ」。
確かに「坊っちゃん」本文を読むと、そんな世の中への不満が随所に滲み出ている。
あるいは、「こころ」では恋愛によって友人に抱いてしまった嫉妬心やモヤモヤが赤裸々に描かれている。
実に120年近く前に発行された小説だが、どちらも学校の教科書で初めて読んだ時に衝撃を受けた。
自分にも思い当たる節のある、でも敢えて友達同士で話したりもしないような悩み・妬み・嫉みの数々に、「わかるわかる」と唸ったのを覚えている。
それと同時に、そんなことを誰にも言わないし共感し合わないからこそ、
こういうあまりに人間らしい感情や、世間との「ズレ」感を持っていていいんだ、吐き出していいんだと思えたし、
それを正々堂々と人にぶつけているキャラクターがいるということ、文章に書き綴っている作家がいることが、希望のように感じた。
時は2023年。
「LIGHTHOUSE」は現代を生きる私たちにとって、まさにそんな「希望」になるような番組だったのではないだろうか。
「LIGHTHOUSE」での悩み、そして吐き出し
星野源と若林正恭という、今表舞台に立っているところだけを切り取ると悩みなんてない、もしくは私たちとは次元の違う悩みを抱えているんじゃないかーそう思えても仕方がない2人だと思う。
しかし、高円寺で2人がこの番組としては初めて対談をした時に1行日記に書いてきた内容は、
と、あまりに赤裸々で、親近感のあるもので、それでいて核心に迫るような内容だった。(いきなりこんな負の感情吐露大会に、思わず若林さんも「星野さんはこの番組をどうしたいんですか!(笑)」と突っ込んでいた)
この「LIGHTHOUSE」は、漱石作品を読んだ時に感じたように、2人の対談番組でもあると同時に視聴者それぞれの心の奥底にある悩みにも目を当て向き合っていくような番組でもあったのだ。
そんななかで、若林さんがエピソード1から6にかけてものすごい変化を遂げていく。
先述したエピソード1での「ネタが浮かばない」という日記は、エピソード3でより本質的な悩みに繋がっていくことになるのだが、
そんな若林さんの悩みに対して、同じような経験を先にしてきたという源さんが言葉を返していくことで、だんだんと若林さんの悩みや迷いが昇華されていくのがはっきりとわかる。
(エピソード1〜2辺りを見た直後にエピソード6を見るとそれが明らかで面白い)
どんな過程を踏みどんな変化があるかについてはぜひ本編を見て味わって欲しいが、少なくとも若林さんに関してはこの6ヶ月間、悩みと向き合うことを通じてその打破へむかったのである。
悩み合った、その先に
「今の悩みの中に10年後、20年後の宝の地図がある」
源さんがエピソード6の中でそう語る。
今回の若林さんも然り、これまでも悩みに悩み、言葉を選ばずに言うとそんな悩みや闇の先にのみ生きる道を見つけてきたとも言える2人だからこそ、出てきた言葉だろう。
「悩む」ことなんて、少ければ少ないほどいいと思っていた。
コンビニに入るだけであれこれ考えて何分も昼食選びに迷うくらいなら誰か毎日自動でバリエーションつけて提供してほしいし、
結論の出ない将来や人間関係のモヤモヤで夜更かしして翌朝後悔するやつも、そろそろやめたい。
でも、(昼食迷っちゃう!なんぞしょうもない悩みはともかく)「悩み状態」に陥る時はどうしたってある。
そんな時は悩んでいる自分を理解してあげて、
例えば仲のいい人にちょっと吐露してみたり、
言えないなら漱石や「1行日記」みたいに文字に書き起こしてみたり。
そうやって自分の悩みを自覚して付き合ってあげることは、きっと次のステージに行くための必要な過程なんだろうな、と「LIGHTHOUSE」を通じて思えるようになった。
あんなにも日本のトップを突き進むエンターテイナー2人も日々悩みもがいているし、
そもそも何百年以上も昔から私たちは悩めるいきもの。
悩みバンザイ!でこれからも生きていこうと思う。
さて、そろそろ今日の夜ご飯を決めないと…!(笑)
▽全6話の配信はこちらより。
▽これまでの「編集部が語る!」シリーズはこちら。
(文・タンタン)